000話 突然の転生
最初に知覚できたのは苦しさだったと思う。まるで世界がどんよりとした苦しさ。その苦しさから逃れるために私は大きく息を吸って大きく同量の息を吐いた。
私は泣いていた。何が悲しくて泣いているのではなく、やはり苦しくて泣いているのだ。声を荒げ、声高らかに、泣き声を響かせていた。
誰かが私を持ち上げた。私自身は自分が持ち上げられたことに驚愕して、更に声を上げて泣き叫んだ。
私を持ち、優しく抱き上げている人物は困ったような口調で私に対して何かを言ってあやしてくれているが、言葉がまるで他国語を聴いているようで何を言っているのか理解は出来なかった。
私をあやしている人物からは妙な安心感があり。私のこの苦しさを薄っすらと消していってくれた。
苦しみが薄れていくにつれて自分が置かれている状況を判断できるようになってゆく。
いや、あり得ない。それはあり得ない。
一番最初に辿り着いた答えが正解の確率がとても高くて自分でも困惑している。なんたって私は先程まで自分の足で歩いていて、自分の手で物事を処理出来ていたのだから。なのに今はこの誰かに身を任せて、泣き叫ぶ事しかできない。
私は人間だ。合っているはずだ。潤んだ瞳で視界に入っているのは人型であり。私が見知っている人間だと見える。だったのならば私も人間であろう。だからこそ今ここにいる私の存在が、私の役割があり得ないのだ。
ぼやけた記憶の糸を手繰り寄せて、先程までの出来事を思い出す。
確か・・・そうだ、世の中は元旦だった。年が明けて浮かれた空気が街を包んでいた。その浮かれた空気に中てられて、世の中と同じように仕事が休みな私も外出したのだ。ほろ酔い状態で特に行先は無く当てずっぽうで飛び出したので、どこをどうやって歩いていたのかは覚えてはいない。そうやって歩いていると、恐らく家の近くにある小さな神社を見つけ、そこで初詣をしたのだ。
マンションとビルに挟まれており、更に裏にまたオフィスビルがあると言う、とにかく寂れた神社だった。家の近くにこんな神社があることにも驚きだったが、私以外に人がいないので、他の誰もこの神社を知らないのだろう、だから私も知らなくても当然だな。と自己解決した。
神社の作法に習い、賽銭箱に小銭を入れ、二礼二拍手一礼をする。賽銭箱の中はすっからかんで箱の底を小銭が叩いた。
何を願ったか。今年も健康で入れますように、と、宝くじ上位の等が当選しますように。とか普遍的な願いだっただろうか。
世の中の一歯車として日々身を粉にして働いているのだ。元日くらい夢をみたっていいだろう。神様がお年玉をくれたっていいだろう。
初詣という行事を終え、小腹が空いたのでコンビニでも寄ろうと踵を返した途端に、頭に強い衝撃が走ったのを覚えている。
何かが落ちて来てグシャリと鳴った、やら、ドガッっと誰かに強く頭を殴られた、と言った衝撃音は全くせずに、ただ頭に衝撃が走ったと理解した時には私は苦しさに包まれていた。
これが私の記憶である。
だからこそこの状況を第三者目線で見てもあり得ないとしか言いようがないのだ。
人間的総称で呼ぶならば私は赤ちゃんになっているのだから。
誰か説明してくれるだろうか・・・。
泣き疲れて眠くなってきた頭で一人ポツリとそう思うも、呼びかけに応じる言葉は何もなかった。
私の願いは神様には聞き入れてもらえないようだ。