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偶然ではなく必然だった

 戦乱期だというのに賑わいを見せる城下町。そこを抜けた先にあるのは要塞のような高い塀に囲まれた城。門を抜けた男は、出迎えた者に乗っていた馬を預け、無言で城の中へと入っていく。城の中にも多くの出迎えがおり、その者達によって纏っていた鎧を外され身なりを整えると、そのまま謁見の間へと足を進めた。


 重厚感溢れる扉の先で待っていたのは、ライランズ大陸一の大国であるヘルス王国国王ゾエルド・エバン・ヘルス。そして第一王子であるガルディエであった。

 二人の前までやって来た男は、膝をつきこうべを垂れる。



「よくぞ無事に戻ってきた、ウォーレル。よいから、立て」

「ありがとうございます。ただいま戻りました、父上」

「無事で何よりだな」

「ありがとうございます、兄上」



 次々とかけられる労いの言葉に男、ヘルス王国第二王子ウォーレル・アラウド・ヘルスは表情を変えることなく静かに答えた。そんなウォールを見てガルディエは僅かに顔を歪める。それをウォーレルは鼻で笑いそうになり、やめた。


 ヘルス王国はライランズ大陸で一番の国土面積を持ち、魔術の発展により財力も武力も高い国である。そんな国の第二王子として産まれたウォーレルは、黒髪に切れ長の青い瞳を持つ、美しい顔立ちの男で、国内でトップクラスの魔力量と魔術センスを持ち合わせていた。第二王子という地位に、美しい容姿、魔術により発展してきた国の中でもトップの実力を持つ魔術師。誰もが欲しいものを全て持って産まれてきたウォーレルに皆が羨望と嫉妬の眼差しを向けてくる。


 特に酷かったのが三歳年上の兄ガルディエであった。ガルディエも頭もよく容姿も整っていたが、ウォーレル程ではなく、魔力も中の上程。第一王子だというのに、ちやほやされるのは第二王子のウォーレルで、それが気に食わずウォーレルに嫌がらせを繰り返してきた。今では兄弟仲は最悪である。


 そんな雰囲気が嫌で仕方がなかった時、ヘルス王国に戦を仕掛けてくる国が現れた。武力が高いヘルス王国は長年、他国に攻め入ることも攻め入れられることもなく、国境沿いを固めておけばそう簡単に落とされることはなかった。しかし、今回は連合軍を作り攻めてくるとのことだった。


 そこで話に上がったのが、王族が騎士団と魔術師を率いて戦に行くというもの。もちろん次に国の王となるだろう第一王子であるガルディエが行くものだと誰もが考えている中、ガルディエは「国内トップクラスの魔術師であるウォーレルの方が適任ではないか」と声を上げたのだ。

 最初は驚く面々も「確かにそうかもしれん」「ウォーレル様も第二王子でいらっしゃるし」などとガルディエの意見に賛同していく。完全に裏で手を回していたのだろう、とウォーレルは呆れの境地に至った。


 結局、ウォーレルが騎士団と魔術師を率いて戦へ向かうことが決まり、その数日後には城をたった。見送られる際に見たガルディエの顔には、死んでくれればいい、そう書いてある気がした。



 その後のことは思い出したくもない。毎日が死と隣り合わせで、昨日まで隣にいた奴が次の日にはいないなんてことはザラだ。いくら武力が高いと言っても、大きな戦を経験したことがない者が経験者に簡単に勝てる訳もなく、多くの仲間が戦場で散っていった。

 それでも凌ていたのは、魔術という普通の人間では作り出せないものを作り出す力があったからで、魔術を使った作戦が功を奏したからだといえる。


 少しずつ戦の経験値が上がり、実力を出せるようになった頃、城から一報が届く。それは、連合軍が全勢力で攻めてくるというものだった。それだけならば誰もが絶望の淵を彷徨っていただろう。

 しかし、その知らせの中には、どこからどのように攻めてくるのかが詳しく書かれていたのだ。まるで見てきたかのように詳しく書かれたその内容を誰もが一度疑ったが、他に情報はなく、藁にもすがる思いでその内容に沿って作戦を立てた。そしてその作戦のおかげで勝利を収めることができたのだった。



 連合軍が撤退していくのを見送りながら今後の警備について話し合っていた時、城へと報告に向かった騎士が難しい顔をして帰ってきた。今までの経験上、また面倒なことになっているのではと思ったウォーレルの勘は当たることとなる。




「今回の戦い、実に見事であった」



 城に呼び戻されたウォーレルに父であるゾエルドは労いの言葉を続ける。



「いいえ。私の力ではございません。共に戦った騎士と魔術師のおかげです。それに、今回は多くの情報があったからこその勝利だと思います」



 ウォーレルの言葉を受けたゾエルドは大きく頷きつつも、眉間に皺を寄せる。



「その事なのだが、その情報を提供してきたのは隣国のローゼリア王国なのだ。どのように情報を得たかはわからないが、情報に偽りはなかったか」



 ゾエルドの言葉に僅かに目を開き驚きを見せたウォーレルだったが「偽りはございませんでした」と事実のみを伝える。その返答に再び顔を歪めたゾエルドは少し考えると、小さく息を吐きウォーレルとガルディエに視線を向けた。



「では、ローゼリア王国からの申し出を呑むしかないな。まぁ、友好関係を結ぶのは悪いことではない。ローゼリア王国は資源が豊かだから、こちらの利益にもつながるしな。その代わり、あちらが戦で狙われた際は助けに行かねばならないが。それでだ、あちらからの条件は友好関係を結ぶ他にもう一つあった」

「もう一つですか?」

「そうだ。相手の素性を探り合わないという条件で、ある人物の文通相手になって欲しいというものだ」

「文通、ですか?」



 一言も発しないウォーレルの代わりに、一々口を挟んでいたガルディエはウォーレルの方を見てニヤリと笑う。その表情を見たウォーレルは嫌な予感がした。



「それならばウォーレルが適任ではないでしょうか。実際にその情報を活用したのはウォーレルですし、城に戻って来たウォーレルには休暇が設けられるでしょうから、ちょうどいいのでは?」



 何もちょうどよくないし、お前は第一王子なんだからそれくらいしろよ。などと思ってもウォーレルは決して口にすることはない。何故なら、その後が面倒だからだ。



「ウォーレルはそれでよいか?」

「……お受けいたします」

「そうか。それでは頼んだぞ。今日はもう下がって休むといい」

「ありがとうございます。それでは失礼します」



 軽く頭を下げたウォーレルはガルディエに視線を向けぬまま謁見の間を出て行った。イライラとした気持ちを何とか抑えつけ、自室に向かったウォーレルは部屋に入ると同時にベッドに飛び込む。


 戦場は最悪な場所だった。思い出したくもない程に。それでも城よりはマシだったかもしれないと今なら思える。



「こんな人生、クソくらいだ!」



 ベッドに大の字で寝そべったまま叫んだウォーレルは、先程の会話を思い出し大きく溜め息を吐いた。



「文通相手だぁ? なに書けっていうだよ」



 そして、ここからウォーレルの文通が始まる。ウォーレルはまだ知らない。これが運命が変わる始まりだということを。

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