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全ての始まり

本日は二話投稿しております。

 どこかの林の中かと思えるほど木々が生い茂る場所にポツンとある白い建物。貴族が暮らすには小さく、平民が暮らすには大きい、装飾も少ないその建物の中で小柄な女と場違いな男が向き合っている。

 色白の細い手を胸の前で合わせ、困惑したように緑の瞳を揺らす金髪の女は、目の前に立つ、一目で高価だとわかる布に細やかな刺繍が施された服を完璧に着こなす威厳溢れる男に問いかけた。



「も、もう一度おっしゃっていただけますか?」

「だから、フェデルシカの文通相手を見つけてきたと……何度言えばわかるのだ」



 ため息混じりに言葉を発したのは、小国ながら自然豊かで他国からも一目置かれるほど農業漁業が盛んな国、ローゼリア王国国王ドレット・アレクシオ・ローゼリアである。



「しかし、私は文通をして良い立場ではありません。それはお父様が一番ご存知のはずではありませんか」

「相手にはフェデルシカの素性を知らせていないし、探ることも禁止とした。だから、フェデルシカも相手の素性を知ることはできない。ただ、話をする相手と思っておけばよいのだ。では、王があまり執務室を抜けるわけにもいかんから余は戻るぞ」



 そう言うとドレットは小さな建物から去っていった。残されたのは今だ状況が飲み込めていない女、フェデルシカと唯一のフェデルシカ付き侍女エリー、騎士アレンだ。

 放心状態のフェデルシカをエリーは難なく自室へと連れて行き、落ち着くためのお茶とお菓子をお持ちします、と言い残し部屋を出て行った。エリーを見送り数秒後、我に返ったフェデルシカは頭を抱えて悲痛な叫び声を上げた。



「何を書けっていうのよ!」




 フェデルシカ・アミール・ローゼリアはローゼリア王国国王トレッドを父に持ち、王妃シルビアを母に持つ、正真正銘の王女様だった。

 何故過去形なのか。それはフェデルシカ王女は既に死んだことなっているからだ。



 ローゼリア王国を含む六つの国が存在するライランズ大陸は戦の続く戦乱期を約四百年近くも続けている。他国よりも資源に恵まれたローゼリア王国は多くの国々に狙われ続け、小国のため武力も低く、何とか凌ぐので精一杯の状況が続いてきた。

 そんなローゼリア王国を救う存在がフェデルシカ王女であった。


 フェデルシカはドレット国王の第一王女として誕生した。金髪に緑の瞳、透き通るような白い肌、太陽のように眩しく温かい笑顔は王宮で働く者達に幸せな気持ちをもたらす、そんな誰からも愛される姫であった。兄であるアスベルクとの仲も良く、戦が続き疲弊していた国民を幼いながらに心配し、何かできないかと常に考えているような心優しい姫。


 そんなフェデルシカに異変が起き始めたのはフェデルシカが五歳の時。ある朝、目覚めたフェデルシカが何気無く両親に夢で見た事を話したことがキッカケで発覚する。

 フェデルシカが話した夢と同じ内容がその数日後に起こったのである。その後もフェデルシカが見た夢は次々と現実で起こっていった。そう、フェデルシカは予知夢を見るようになったのだ。


 それからフェデルシカは毎日のように予知夢を見て、父親に報告するようになる。その内容は、些細な事から戦に関する大きな出来事まで様々であったが、その予知夢のおかげで戦を凌ぐことができていた。

 最初の頃は、民を救えるかもしれないと喜んでいたフェデルシカや両親であったが、国王であるドレットはすぐに大きな問題に気づく。


 戦乱期が長く続いていたため、各国は諜報員を他国に派遣し、お互いの情報を探るのが当たり前となっていた時代。もちろんローゼリア王国にも多くの諜報員が潜入しているはずだ。そんな諜報員にフェデルシカが予知夢を見ることができると知られたら、命を狙われるか、利用するために攫われるかのどちらかである。どちらにしろ、他国にとってフェデルシカは邪魔な存在でしかないのだ。

 そう思ったドレットは大きな決断を下した。


 王女フェデルシカ・アミール・ローゼリアを殺そうと。


 もちろん本当に殺すわけではない。存在を消す。そのためにフェデルシカは病により亡くなったと御触れを出し、家族以外誰にも知らせることなくフェデルシカを王宮の裏に広がる林の中に隠したのだ。フェデルシカが七歳の時である。



 それからというもの、フェデルシカは専属侍女エリーと専属騎士アレンと三人で静かに暮らしてきた。外との繋がりと言えば、予知夢で見たことを紙にしたためアレンを介して父親に渡してもらうだけ。周りは日々大きく変わっていくというのに、フェデルシカの周りは何も変わらない。許されている行動範囲は建物の中と目の前に広がる池、そしてその周りの庭だけだ。

 寂しくないかと聞かれれば寂しいに決まっている。それでも、フェデルシカの命を守るためにと決断してくれた家族にそんな事は言えなかった。



 そして、もう一つフェデルシカを苦しめたのは予知夢を見ることの代償であった。予知夢を見た朝に全身を襲う激痛。最初は身体が怠い、その程度だったものが、今では身体を何かで刺されているかのような激痛に襲われるのだ。

 予知夢を見るたびに訪れる激痛はフェデルシカの身体を弱らせていった。呪いの類かとも思われたが、予知夢を見ない日には起こらず、見続けなければ回復していったためフェデルシカは予知夢の代償なのだと思っている。


 しかし、予知夢を見れば身体は弱り、予知夢を見ないために寝ずに起きていれば回復はするものの疲労が溜まっていく。その悪循環によりフェデルシカの身体はみるみる弱っていった。

 今では庭に出るので精一杯。酷い時にはベッドの上から起き上がれず、エリーの助けなしでは動けない日がある程だった。


 それでもフェデルシカが弱音を吐くことはない。それどころか常に笑顔を浮かべ、戦で苦しむ民を思い予知夢を見続けることをやめなかった。



 そんなフェデルシカはある日、珍しく他国に関係する予知夢を見た。いつもと変わらず父親に報告したのは数週間前のこと。外の事情をあまり知らないフェデルシカにしてみれば、その予知夢がどれほど重要なものなのか判断などできない。

 だが、久しぶりに会いに来た父親は「フェデルシカのおかげで大国に恩を売ることができた」と礼を言ったのだ。そして「これで民を守ることができる」とも。


 詳しく教えてくれることはなかったが、自分が見た予知夢で民を救えたのならとフェデルシカがホッとしたのも束の間、父親は大きな爆弾を落として去っていった。

 それが、文通である。



 確かにフェデルシカにとっての話し相手はエリーとアレン。そして、池のほとりに立つ大きな枝垂桜だけだ。すでに十年程共に過ごしているため話の内容に変化などはない。それに不満などないが、誰か外の人間と話せるというのはフェデフシカにとっても魅力的だった。


 魅力的だったのだがーー



「そもそも私が他人に話せることなんてないと思わない?」

「なんでもよいと思いますよ? フェデルシカ様が思ったこと、感じたことを書けばよろしいかと」



 フェデルシカの前にお菓子と紅茶を並べたエリーは、何てことはないとフェデルシカに答えた。それに大きく首を振ったのはフェデルシカだ。



「だって、私なんて朝起きて、ご飯を食べて、庭で日向ぼっこして、本読んで……そんなものよ? そんな話をされて面白いかしら? それに、相手がどんな人かもわからないし、本当に何を書けばいいのか」

「相手も姫のことを知らないんですから、姫のことを話したり、相手のことを聞けばいいんじゃないですか? 素性さえバラさなければいいんですから」



 ニコニコと能天気な笑顔を浮かべるのは騎士のアレン。その発言にエリーも大きく頷いてみせる。



「そうかしら?」

「「そうですよ」」

「二人がそう言うなら、そうしてみるわ」



 そう言って太陽のような微笑みを見せたフェデルシカにエリーとアレンは優しく笑いかけた。


 そして、ここからフェデルシカの文通が始まる。フェデルシカはまだ知らない。これが運命が変わる始まりだということを。

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