エピローグ、勘弁してくださいよ。
雲一つない青空。
放射冷却の所為でちょっとばっかり寒い。
だがそんな事は関係無いと、王都はお祭り騒ぎだ。
人々の熱気が冬の冷気を吹き飛ばしている。
どこからこんなに集まったのかわからないほどの人混み。
それを狙った出店もいつもの三倍はひしめいている。
そんな中、俺は訳のわからない御輿の様なものに乗せられて、見世物になっていた。
そして傍迷惑な野次馬どもは、俺を酒の肴にガバガバと安酒を煽っている。
「へぇー、あれが新しいSランクの冒険者かい!」
「デケェなぁー!」
「二つ名が青鬼だってよー!」
「なんでも殺しても死なねえらしいぞ!」
「一人で一万人の敵をぶっ殺したらしいぞ!」
「なんだそりゃ⁈バケモンじゃねぇか!」
「馬っ鹿声がデケェよ!何されるかわかんねーぞ!」
「目つき悪ーい!」
「でも結構かっこいいかも〜」
「そうかなー、ちょっと厳つすぎない?」
「あっ!この前見た犯罪者だ!どうしよう殺されるかも!」
「うるさいわぁ!ボケェ!殺すか阿呆!」
「きゃー!殺されるー!」
「だから殺さねぇって!」
「きゃー!」
「人の話を聞けー!!!」
……どうしてこうなった?
朝、寝台に寝転がったまま、咥え煙草をしながらボーッと微睡んでいた。
何を考えるでも無く、天井の模様と紫煙の流れを目にしていた時、部屋の扉が二度叩かれた。
「はいよー」
「失礼します」
そう言って入室してきたのは、若い女中さんが四人と、年季の入った女中さんが一人。
五人が年季の入った女中さんを中心に、俺を囲む様にズラッと並ぶ。
皆無表情なのがちょっと不気味だ。
特に年季の入った女中さん、俺の苦手なタイプだと見た。
「……どうかしましたか?」
一応理由を聞いてみると、年季の入った女中さんが一歩前に進み出て発言した。
やたらと厳粛そうに。
「お着替えです」
「……は?」
「本日はロイド様が主役の叙任式がございます。ですので陛下より、見栄えのする正装を着させよ、と指示を頂いております」
「……はぁ」
「大変恐縮ではございますが、私達五名で、ロイド様のお手伝いをさせて頂きます」
「……はい?」
「一先ずは、お風呂からですね。準備はできております。では、此方へ」
「えっ、いやっ、あのっ、風呂ぐらい自分でできますんで!」
「いいえ、お風呂の中でも色々とやる事がありますのでお手伝いさせて頂きます」
「やる事って何ですか⁈ちょっと待った勝手に脱がさないで!」
「問答無用でございます!行きますわよ!」
「いや待って本当に勘弁!」
「陛下より伝言です。もしも抵抗したらアレックスに言いつけるぞ!だそうです」
「……」
風呂場で無理矢理寝かされて、なんかよくわからない香油を垂らされながら、色んな所を揉みくちゃに揉まれ始めた辺りで意識を手放した。
結局は、風呂場でやる事とはエステだった訳だ。
何をされるのかとちょっとドキドキしてしまった俺なんて死ねばいいのにとか思ってしまった。
こういう事は当然だが今まで経験が無く、実際にされるがままになってみると、慣れていないなりに気持ち良く感じ、気がついたらエステは終わっていた。
「次は髪の毛を整えさせて頂きます」
全身を二人の女中さんに拭かれながら、一人に髪の毛をセットされ、もう一人に髭を剃られる。
あっという間に首から上だけは準備万端になっていた。
「お次は服ですね。これが一番時間がかかりますのでご覚悟を。あと服に匂いが付きますので煙草は禁止です」
早く帰りたい、と思った。
体感でおおよそ二時間位だろうか。
青い礼服に身を包んだ自分を鏡で見て、青鬼だから青かよ、と思ってしまった。
少しはゆっくりできるかと思ったが、直ぐに馬鹿殿から呼び出しがかかった。
呼びに来た騎士団員っぽい男の後ろを歩いていると、途中閣下が声をかけてきた。
仕事が忙しいのか、少しやつれたかもしれない。
「お疲れですか?」
「たいした事はない。どちらかというと、貴様がヘマをしないかが心配だな」
「……閣下、こういう式典に礼儀作法なんてあります?」
「とりあえず跪いて、謹んで拝命致します、とだけ言えばいい。後は陛下がどうにかしてくれるだろう」
騎士団員っぽい奴が居る所為か、馬鹿殿の事を陛下と呼ぶ閣下を見て、少し笑いそうになった。
やたらとデカイ門の前で待たされる事数分、ゆっくりと扉が開き、中に入る様に促された。
中には複数の気配がする。
たいして鍛えてなさそうな気配も多い。
武官だけで無く、文官も多数中にいるのだろう。
えーっと、確か適当な所で跪いて、なんか言われた謹んで拝命致します、だっけか?
そんな事を考えながら馬鹿殿へと近づく。
片膝をつき、顔を伏せる。
「ロイド、お前をSランク冒険者へと任命する」
「謹んで拝命致します」
これで良いんだっけか?
「そしてもう一つ、名誉伯爵の位を授ける」
「謹んで拝命致します」
……あれ?……名誉伯爵って何だ?
「皆の者喜べ!今ここに!最も新しき伝説が!我々の味方となった!」
……ちょっと待て!
「昼より国民へこの吉報を知らせる為に国民へ向けて演説を行う!準備せよ!宴の準備もだ!壮大にやるぞ!各国へと知らしめるのだ!我々には強き守護者が友であると!」
ひょっとして閣下にハメられた⁈
思わず身体中から力が抜ける。
あぁ、どうしよう……今更やっぱやめたなんて言える訳ねぇじゃねぇかよ。
しかも名誉伯爵って何だそれそんな面倒臭そうな爵位いらねぇし。
そんな事を考えていると、いつのまにか馬鹿殿が目の前まで近づいてきていた。
そしてそっと俺の肩に手を置き、顔を覗き込む様にして語りかけてきた。
「よろしく頼んだぞ。……新しき化け物よ」
馬鹿殿の口元は、ニヤリと三日月の形をしていた。
………………この野郎。
「アレックスから伝言だ。ガタガタ言わずにビシビシ働け。面倒臭いなんて言うなよ。面倒臭いという言葉は私以上に働いてから言え。少なくとも私はお前よりも忙しい。サボるんじゃないぞ、だそうだ。よかったな?期待されてるぞ」
……勘弁してくださいよ、閣下……。




