ルーファス=メントール
ルーファスという、大仰な名前をつけられて、俺は貧乏貴族の三男として産まれた。
とにかく貧しかった事を覚えている。
あくまで貴族基準だが。
そして貧しいくせに、うちの親父達は何人も子供をこさえやがった。
家督を継ぐ長男でもなければ、長男の予備の次男でもなく、はたまた政略結婚に使える女ですらなかった俺は、当然の如く放置されていた。
幸いな事に飯だけは食わせてくれたおかげで飢える事はなかったが、他の事で面倒を見てくれた事は無かった様に思う。
だからだろうか。
家を抜け出して平民のガキどもとよく遊ぶ様になった。
普通の貴族の子供ならば、平民のガキどもと遊ぶなんて良しとしないだろう。
実際兄貴達は家に篭って貴族として必要な知識を植え付けられていたし、妹達は踊りや礼儀作法の練習ばかりしていた。
そんな中、俺の存在は異質だったのだろう。
兄弟の誰も俺に近づこうとはしなかったし、親も何も言わなかった。
そして俺もそれで良いと思っていた。
少なくとも、兄貴達の様に死んだ魚の眼をした奴らと連もうとは思わなかったし、街のガキどもと遊んでいた方が遥かに面白かった。
生活が変わったのは俺が教会で、二属性持ちだとわかった時だ。
その頃俺は、貴族の子供という事もあり、ガキ大将の様な地位にいた。
一丁前に他のガキ大将と縄張り争いをしたり、悪戯をしたり、秘密基地を作ったり。
ガキどもの親達も、俺は貴族の子供にもかかわらず、他のガキどもと同じ様に接してくれた。
拳骨をくらいすぎて頭の形がボコボコになった事もあったが。
親が俺を教会に連れていったのは義務感からだろう。
兄貴のお下がりの、古臭い一張羅を着せられて教会に連れていかれると、そこに居たのは豚の様に肥えた、おおよそ聖職者とは思えない様な男であった。
つまらなさそうに俺の頭に手を置いて何事か呟くと、小さな声で「まさか……」、と呟いた。
二属性持ちは珍しいらしい。
そこからは速かった。
気がついたら俺は魔法騎士団見習いになっていた。
推薦状を書いたのはあの、豚の様に肥えた聖職者だった。
多少の善意や義務感があったのかと思ったが、後になってわかった事だが優秀な子供を推薦すると金がもらえるらしい。
親も二つ返事で俺を売った。
口減らしが出来て金も貰えて、更に子供が魔法騎士団となれば今よりも楽な生活が出来る。
不思議な事に、何の感慨も湧かなかった。
あえて言うならば、ガキどもと遊べなくなるのが、ほんの少し寂しかった。
魔法騎士団見習いになってからは怒涛の日々だった。
朝早く起きて、俺に割り当てられた、師匠となる魔法騎士団員の身の回りの世話を行い、飯をかき込み直ぐに座学。
それが終われば昼飯をかき込み直ぐに実習。
また師匠の身の回りの世話をして晩飯をかき込みクソして寝る。
余裕の無い日々の中で、飯が美味かった事だけは嬉しかった。
幸い才能があったらしい。
十五になる頃には独り立ちし、魔法騎士団の末席に名を連ねることができた。
魔法騎士団員になってからは、大体の事が上手くいった。
後方支援担当だから死ぬ可能性は少なかったし、魔法の範囲も広がったおかげで前線の奴らにも感謝された。
俺が出た戦は連戦連勝だったし、給料も良い。
出世も速かったし、元来の顔もあって女にも苦労しなかった。
絶対に実家に顔を出す事はなかったし、催促されても仕送りはしなかったが。
そんな生活をして、魔法騎士団筆頭になってしばらくした頃、冒険者から二人の女が引き抜かれた。
二つ名は流浪の姉妹。
女達は若く、双子で、結構好みだった。
試しに声をかけてみたところ、けんもほろろに断られた。
久々に上手くいかなかった。
女達は獣人だった所為か、やたらと警戒心が強く、何度声をかけても冷たくあしらわれる。
ついつい夢中になってしまった。
ある時、「私達を見分けられたら食事位は付き合ってあげる」と言われた。
酷く簡単だ。
目を見ればわかる。
姉のサラが金色、妹のメルが緑色だ。
食事の約束を取り付けて、店の予約までした後、双子と共に召集がかけられた。
王曰く、青鬼を殺してこい、という酷く単純で、酷く難しい命令であった。
宮仕えだから仕方がない、食事の約束を先延ばしにして、任務終了後に約束をし直した。
し直したんだけどな……。
嫌な予感がして、双子の後ろに控えていた。
多分大丈夫だろうが、それでも心配だった。
案外、情が湧いていたのかもしれない。
そして結局、判断を間違ってしまった。
「……あんた、名前は?」
「……ルー……ファ…………ス…………だ………………」
あぁ……、結局、……口説けなかったなぁ……。
……食事、……結構楽しみだったのになぁ。
……クソッタレが。
……最後の最後で、……上手くいかなかったなぁ。
…………まぁ、いいか。
最後に……カッコつけられたしな…………。




