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神主打法



「おう青鬼ぃ、奴さん達こっちに向かってきてるみたいだぞー」


我ながら危ないとは思うが、寝床で咥え煙草で微睡んでいた時、バースの奴が口調はノンビリと、しかし鋭い目つきで何かを伝えに来た。


「んあ?何だって?」


微睡んでいた所為でいつのまにか煙草が根元まで灰になっていた。

灰を落とさない様に咥えたまんま灰皿に向かってそおっと顔を近づける。


「だっから敵が来たっつってんの!」


残念ながらバースのデカイ声のせいで、灰皿に届く前に煙草の灰は下に落ちてしまった。

残念、あとちょっとだったのに。

とは言ってもわざわざ知らせに来てくれたバースに当たるのもガキみたいでみっともない。


「うーい、リョーカーイ。俺は砦の門の所で奴らを待たせて貰うぞ」


仕方無しにのっそりと起き上がりグッと伸びた後、首をコキコキと鳴らす。

火の消えた煙草を灰皿に放り投げて立ち上がり、溜息を一つ吐く。

敵が攻めてくるタイミングが悪い。

どうせならばもっと俺がシャキッと目が醒めている時に来れば良いのにと、取り留めもない事を思った。


「あぁ、頼んだぞ化け物。新しい伝説になって来い」


面倒臭そうな俺に対して発破をかけるつもりなのか、バースが声をかけてきた。

目覚ましがてら軽く憎まれ口を投げ合う。


「化け物は余計だって。不名誉だな」


「俺らみたいな精鋭から化け物って呼ばれたんだから胸を張りやがれ!」


「自分で精鋭っつってんじゃねーよ!行ってきます!」


バースからの失礼な激励に対して失礼な返事で返しながら部屋を後にする。


さってと、行きますか。


部屋を後にし、深く息を吸い込んで強化魔法をかける。

すうっと体が軽くなる様な感覚。

行きがけに壁に立てかけていた金砕棒を手に取り肩に担いで移動する。

俺の姿を見た若い兵士がギョッとした顔をしていた。


「開門!」


「門を開けろー!」


兵士達の掛け声が響く。

皆目に力があり活き活きとした表情を見せている。

門の外に出て、門が閉まるのを確認した後、煙草を取り出し火を点ける。

一応砦内では禁煙となっていた。

理由は何かが燃えていると勘違いを起こしてしまうから。

そしてまた、その逆もまた然り。

何かが燃えていても煙草の煙でわからない場合があるから、だそうだ。

そう言われたら仕方がない。

初めは何度も砦の外に抜け出しては、少し離れた所で煙草を吸うという一昔前の不良学生の様な事をしていた。

最後には我慢出来ずに、無理矢理俺に割り当てられた部屋だけ喫煙にしてもらったが。

今は堂々と外に出て煙草が吸える。

目の前に広がる景色は中々の物だ。

道は一本。

両脇は険しい山で行軍には適していない。

ついでに言えば、山の中には面倒臭い魔物がウヨウヨしている。

自分達の縄張りを侵す者に対して容赦無い攻撃が仕掛けられる、らしい。

気温は低く吐く息が白い。

その分空気は澄んでおり、よく晴れた青い空が二割り増しに輝いて見える。

ふと、ちょっとだけ悪い事が頭をよぎる。

空気を少し汚してやろうと思った。

思わず右の頬がピクリと動き、左右非対称の笑みを浮かべてしまった。

悪巧みをそのままに、フゥ、と紫煙を吐き出して空気を汚してみたが、冷たい風に煽られてあっという間に彼方に消えていった。


まぁ、そりゃあそうだわな。


非常にくだらない事をした自分を少し嫌いになった後、金砕棒を閉じた門に立て掛けて、地面にどっかりと座り込む。

ぐっ、と両腕を上に伸ばすと、先程も鳴ったのにまたゴキゴキと鈍い音が鳴った。

道の遠くに軍勢が見える。

とは言っても、まだまだ遠過ぎて蟻の様に小さい。

人を殺すのは初めてではないが、やはり何処か慣れない。

僅かな前世の記憶がある為だろうか。

コーネリアの復讐で殺した時はなんともなかったのに、戦争で人を殺すのは若干気がひける。

だからといって躊躇って殺し損ねる事は無いのだが。

つまりは気分の問題なのだろう。

女の頼みならば気持ちよく殺せて、王様の頼みならば嫌々殺す。

我ながら単純なものだと思う。

思わずふすっと、紫煙と共に苦笑いが漏れてしまった。

煙草を地面に擦り付けて消化し、立ち上がって軽く腰を捻る。

屈伸をして背筋をぐっと反らす。

両腕をブンブン回して深呼吸を一つ。


……さってと、……お仕事やりますかね。














敵の号令と共に命知らずが向かってくる。

まるで地震の様に地響きが起きた。

敵兵達の身体が青く光っている。

おそらくはあの金髪碧眼の優男。

これだけ広範囲にわたって強化をかけれるのは流石だと認める他ない。

が、わざわざ負けてやる義理も無い。


金砕棒を両手で握ると、ミシリと音がした。


弓や魔法で様子見をする気も無いらしい。


ヤル気満々だ。


深く息を吸い込む。


構えは神主の様に。


軽く金砕棒をユラユラと揺らす。


敵兵が数人飛び込んで来る。


吸い込んだ息を一気に吐き出し、野球のフルスイングのごとく、金棒を全力で振り抜く。


ぶち当たった奴らは皆、真っ二つに分かれて内臓を撒き散らした。


敵に一瞬の迷い。


隙あり。


振り抜いた勢いそのままに、体を独楽の様に回して二撃目、三撃目を打つ。


男達は密集体形で進んできた。


的には困らない。


「なっさけねぇなあ!」


及び腰の敵兵に対して罵声を浴びせ、少しだけ敵の中に入り込み金棒を振り回す。


槍と金棒がぶつかる。


剣と金棒がぶつかる。


鎧と金棒がぶつかる。


幾度と無く火花が散る。


全てが怪力と重量の前では無力であった。


次々と人が物になっていく。

















「全員退がれ!」


あの優男の声が辺りに響いた。

見た目に似合わず随分と声がデカイ。

追撃しても良かったが背筋がゾクッとした。


後ろに大きく飛び退る。


地面が一瞬パッと光る。


出現したのは巨大な剣山。


散々苦しめられたそれを見やる。


と、言うことは……。


「真打登場、ってところか?」


こちらの問いかけに返される言葉は無かった。


同じ顔をした、犬耳の女二人がユラリと一歩前に進み出てくる。


「おろ?双子かい?」


「黙れ」


「邪魔だ」


冷たく突き放した言葉と共に、女達が姿を変えた。


なんだこりゃ。


聞いてねぇぞ?


姿をより獣に近づけた女が二人。


瞬きをした瞬間に姿を消していた。











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