珍味みたいなもの
戦場となる関所兼砦に到着した。
外から見る印象は、特別変わった所の無い、ありふれた関所ではある。
見た目は最低限。
最優先は実用性。
巨大な扉と砦の他に特徴的な物をあげるとすれば、砦が作られている場所と周りの地形か。
巨大な扉の両脇には高い塀が有り、その塀が両脇にある行軍には適さない険しい山と繋がっている。
ひょっとしたら、この場所は渓谷であると言った方が近いのかもしれない。
更に周りの山は魔獣の生息地でもある為、最も確実な侵入経路はこの場所となっていた。
だからこそ、この関所を目指して敵は進軍してくる。
つまり、俺の仕事はこの道を最も不確実な侵入経路にしなければいけないのか。
そんな事を考えながら、煙草を咥えて火を点ける。
目の前の道を死体で埋め尽くすイメージを浮かべる。
思っていたよりも簡単に、敵達をバラバラにするイメージが浮かんできた。
何と無く気が滅入ってしまう。
モヤモヤを振り払う様に紫煙を思い切り吸い込んだ。
吐き出した物は気温が低い所為で、紫煙なのか白い溜息なのかわからない物が出てきた。
「初めまして。ロイドだ」
「バースだ。この砦を任されている。よろしく頼むぞ、青鬼」
「よろしく頼まれた」
自己紹介を行い、砦内を案内される。
短く刈り込まれた金髪の髪の毛の、彫りが深い顔立ち。
珍しい事に、此奴の目の色は金色をしていた。
雰囲気は実戦部隊の叩き上げ、と言ったところか。
此奴はこの砦を任されているらしい。
それが本当ならば、この男はそれなりの地位についているはずだ。
それなのにわざわざ俺に付いて砦の案内をしている。
理由は暇だから、だと。
この砦は非常に重要で、かつ険しい場所に作られている。
当然配置されている男達は精鋭だし、指揮官ともなれば将来のエリートだ。
そんな男が暇潰しに砦内を歩いているという事実。
本当に大丈夫なのだろうかと思った。
「……お前さんこの戦いで勝ったらSランクになるらしいなぁ」
便所の案内をされた後、突然バースが話を振ってきた。
無言で案内されるのも暇なので、話に乗っかってやる事にする。
「そういう事らしい。迷惑な事だ」
そう言うとバースは片眉を上げて、意外そうな顔をした。
「名誉な事、じゃないのか?」
「名誉なんて面倒臭い物、興味が無いんだ。できることならばとっとと帰って一杯ひっかけたい」
心の内を隠さずに伝えると、バースは呆れた様に溜息を吐き、わざわざ肩を竦めて大袈裟な反応をとった。
仕草があまりにも自然すぎて、おちょくられているのか素でこんな反応をしているのか判断に困る。
「お前さん何を不貞腐れてんだ?まぁお前さんの名誉なんざどうでもいいから頑張って殺ってくれよな。お前さんがしっかりと殺ってくれれば俺達の生存率が上がるんだからな」
なんともまぁ、歯に衣着せぬとはこの事か、と思った。
だがそれと同時に、此奴らからしたら他人の名誉なんて命と比べられる訳がないな、とも思った。
「……ちなみに作戦なんかあるのか?」
念の為に確認をしておく。
もしも打って出る様な作戦を練っているのならば、その作戦をぶち壊さない様に綿密に打ち合わせをしておかなければならない。
「特に何も考えちゃいない。いつもと同じだ。普段なら基本は籠城だな。人が居るならば打って出てもいいが」
好都合な事に特段何も考えていなかったらしい。
考えるのが面倒臭かったのか、それとも下手にいつもと違う事をやってミスする事を恐れたのか。
出来れば後者であってほしいと思う。
「ならおたくらは籠城していてくれ」
「お前は?」
「一人打って出て暴れる」
そう言うとバースは眉をひそめた。
ひょっとしたら不快にさせてしまったのかもしれない。
一応フォローを入れておいた方がいいか。
「……正気か?」
「正気だし、お前らを馬鹿にしてるわけじゃねぇよ?」
「……ならば一体どういう事だ?」
「単純に俺とお前さん達じゃ連携なんて取れねぇだろう?だからいっその事、俺が暴れて居る中で撃ち漏らした奴らをそっちで相手して欲しいわけだ」
それがお互いに一番生存率が高いやり方だと思う。
少なくとも俺はその辺の一兵卒ごときにやられるつもりは無いし、かといって初めての戦場で此奴らを庇いながら戦う余裕があるかはわからない。
結局はスタンドプレイが一番やりやすいと言う事だ。
「ふうん……ならばお前を餌に使っても良いということか?」
「ああ、構わんよ。……でもまぁ、こんなに不味そうな餌に食いつくなんて思えないがな」
「違いない」
バースはくつくつと笑った。
此奴はあまり遠慮をしないタチらしい。
「あっ、そこは否定してくれないわけね」
「青鬼が美味い餌なわけがないだろう。……まぁ、名を上げたい奴らからしたら美味い餌なんだろうがな。さしずめ珍味みたいなもんか?」
「何回か食べれば美味さがわかるさ」
「もしくは一発で嫌いになるかだな」
「嫌いになってくれても構わんさ。嫌いになる奴はその時はあの世に逝ってるわけだしな」
「ますます珍味みたいだな」
思った以上にポンポンと会話が弾む。
こういうのはおっさん以来初めてかもしれない。
何と無くだが、少し肩が軽くなった気がした。
「お前さんとは気が合いそうだ。おかげで退屈しないですみそうだ」




