生物学上は人間さ
あの騒動から三日後の昼、俺は鍛冶屋の前に立っていた。
鍛冶屋で働いていた、推定子供のビッグが俺を呼びにきたのだ。
呼びにきた理由は金砕棒が出来上がったから、という事だ。
そんな訳で、俺は今あの場所に立っている。
「……あれ?あの人何処かで見たような……」
「……この前あの人、そこで暴れていなかった?」
……やり辛い。ツイてねぇなぁ……。
今日は使いっぱしりは連れてきていない。
俺があんな事になったのは、多分彼奴の情けない表情に関係あるのでは無いかと思う。
だから今日はあえて連れてこなかった。
「……また警備兵を呼んできた方が良いのかしら?」
だが、彼奴の情けない表情だけが原因では無かった様だ。
そもそもが、俺の人相の悪さも一要因の様であった。
……此処に居たらまた面倒な事になりそうだ。
そう思い、若干気落ちしつつも鍛冶屋の扉を開けた。
中を覗いてみるがおっちゃん達は居ない。
代わりに前回と同じ様に、ビッグが待ち構えて居た。
「どうもー。待ってましたよーお客さん」
「おう、来たぞ。おっちゃんは?」
「奥にいるよー。ついてきなー」
軽いやりとりをした後、ビッグの案内で鍛冶屋の奥に進む。
店の門構えからしてあまり大きな店では無いと思っていたが、奥に広い様であった。
店頭は必要最低限にして、他の仕事部屋を大きく取っているのだろう。
ぼけっとしながらビッグの後ろをついて歩くと、一番奥の部屋に案内された。
恐らくは鍛冶場か保管室の様なものなのだろう。
「此処だよ。中に親父達が居るから」
そう言ってビッグは二度扉を叩く。
木製の、古びた扉だった。
中からくぐもった返事が聞こえ、ビッグが中に入る様に促す。
ビッグは中には入らない様だった。
木製にしては重い扉を開けると、そこにいたのはまるで戦場で厳しい戦いを生き抜いた様な、尋常では無い気配を漂わせた男達がいた。
風呂になんぞ入っていないのだろう。
男達は皆、誰一人として例外もなく、汗と油と煤で薄汚れていた。
そして全てが終わったかの様に、地べたに手足を投げ出して座っていた。
誰が見ても、誰に聞いても汚いという言葉が先に出て来るだろう。
しかしその中で唯一力強いモノ、それは彼らの目であった。
長い戦いを生き抜いてきた男達が見せる、漢の眼。
彼らの眼を見れば、自ずと理解できる。
漢達は自らの仕事を全うしたのだと。
「おう、兄ちゃん来たのか」
「……お疲れ様でした」
「なぁに言ってんだ。まだ終わっちゃいねぇだろうが」
労いの言葉を掛けたところで、まだ終わりでは無いと言われてしまった。
まだ未完成という事だろうか。
「……え?」
「試し切り、……この場合は試し打ちか?……まぁとにかくだ、一回振ってみろ。こっちだ」
つまりは最後の微調整の事なのだろう。
おっさんの後ろをついて行くと、残りの二人のおっさんも後ろからついて来た。
そしてさらに奥の部屋に足を踏み入れて目をやった瞬間、異様な圧迫感が襲って来た。
原因ははっきりしている。
床に布を引いて、その上に無造作に置いてある黒い塊。
長さは凡そ七尺、形は六角形、持ち手は滑り止め代わりに布が巻いてある。
そして根元は少し広がっており、すっぽ抜けを防止している。
打撃部は先端に行くほど緩やかに太くなっており、見た目にもかなりの重量である事を伺わせていた。
まさにこれは、前世で見た鬼が持つ金砕棒そのままじゃあないか!
「持ってみな」
おっさんが得意げに呟く。
軽く片手で持ち上げようとするが、持ち上がらない。
両手で持ち上げようとしても、先端部分が地面から持ち上がらない。
諦めて左右から三分の二の所をそれぞれ持ち、力を入れてやっと持ち上がるほどの重量をしていた。
持ち手部分を掴んでも、普通ならば振り回す事なんてできないだろう。
普通ならば、だが。
「へぇ、これはなかなか」
「どうだ!そう簡単には持ち上がらねぇだろう!」
だから何故に得意げなんだ。
普通は使えない武器を作ったら落ち込むんじゃねぇのか?
そんなことを考えながら一度金砕棒を下ろし、体に強化をかける。
持ち手を持ち、再度力を入れて持ち上げると、辺りからどよめきが上がった。
「まじかよ……」
手にどっしりとくる感触は、先日の大斧何て比べ物にならない。
長さも大斧よりも随分とあるので余計に重く感じた。
持ち上げた金砕棒を首の後ろ、両肩に乗せておっさんを見やる。
「んで、何処で試し振りをすれば良いの?」
「……裏に行くぞ。此処じゃあ狭すぎだろ」
そう言って裏口へと移動する。
店の裏側は思った以上に広く、どうやら資材置き場の様な役割をしている様だ。
「此処なら振り回せるぞ。やってみな」
「言われなくてもやってみせるさ」
そう言って野球のフルスイングの様に、片足を上げ、勢いをつけて振り抜いた。
イメージは一本足打法。
フィシュッ、という風切り音と共に辺りに風圧が襲う。
フルスイングの勢いを削がない様に、慣性の法則に従って自身も一度回転し今度は上から地面に向けて振り抜くと、ドゥオン!という音が響き渡る。
「アタタタタ!」
痛ってぇ、手が痺れた。
「……お前さん、すげぇな」
オッサンズが呆然としてこちらをみている。
地面には軽いクレーターの様なへこみが出来上がっていた。
「うん、良い感じじゃないっすか?頑丈だし。貰っていきます」
そう言って金砕棒を持ち、部屋を出ようとするが、部屋の出口で金砕棒が引っかかってしまった。
「おーい、兄ちゃん、支払いはどうすんだ?」
あぁ、そうだった。代金は未払いだった。
これだけの品なのだから相当な金額がするだろう。
ひとまず纏まった金を持って来ていなかったので、あの人に擦りつけてしまおうと思った。
怒られたら後から支払いをすればいい。
「代金はウォルグリーン侯爵に請求しといて」
「……は?……ウォルグリーン侯爵ってクソ大物じゃねぇか⁈」
「ロイドが侯爵様にツケといてくれって言ってたって言えば問題無いから」
そう言って部屋を出て行く。
「……兄ちゃんひょっとして……青鬼か?」
背中におっちゃんの問いが投げ掛けられた。
「さてね。一応生物学上は人間さ」
ニヤリとした笑みを浮かべ、あえて適当な返事をしていた。
少しは格好をつけられただろうか。
結局、金砕棒を持って店から出て来た所で、また警備兵に止められてしまった。
というか囲まれている。
「……今から破壊活動でもしに行くのかな?」
警備兵の青年が口元をヒクつかせながら、震えた声で話しかけてきた。
「んー、まぁ、間違っちゃいないが」
戦争に行くんだし。
「……総員確保ォ!!!!!」
「いや、あの、ちょっ……」
「凶悪犯だ!逃すなぁ!」
「決めつけは良く無いぞ!」
……やっぱり何処かしまらねぇよなぁ……。




