ここ三階
「戦争かー」
閣下と宰相様との話し合いの翌日、俺は閣下に連れられて王城へとやってきていた。
本来ならば俺は来なくてもいいはずだが、閣下に「暇なら来い」、の一言で無理矢理連れてこられてしまった。
上手い言い訳が思い浮かばない俺の空っぽな頭が恨めしい。
唯一の救いは、王城での閣下の部屋は喫煙室である事、そして美味い豆茶が飲み放題である事か。
今も俺は窓を開け放ち、風景を眺めながら一服と洒落込んでいる。
それにしても、だ。
戦争とは実感がわかない。
人を殺した事はいくらでもあるので、今更殺人に対する忌避感はそれほど持ち合わせてはいないが、特別恨みや罪の無い奴等を殺すのは何気に初めてだったりする。
まぁ、だからと言って殺さないという選択肢は無いのだが。
幸いな事に必要な物資は国が負担してくれるらしく、俺自身は特に準備するものはない。
だが、静かに事務処理をしている閣下の近くで佇んでいると、ふと一つ思い浮かんだ。
やはり考え事をする時は、雰囲気が大事らしい。
この部屋の真面目な雰囲気が、この俺に考え事をさせた。
「そうだ、何かしら武器とか持っておいた方がいいのかな?どう思います?」
「知らん。戦いは私の専門外だ」
「ですよねー」
取り付く暇もなかった。
思わず紫煙と一緒に溜息が出た。
閣下の冷たい返答に対して、じゃあどうしようかな?、と考えていたところ、此方をちらりとも見ずに閣下が追加で台詞を重ねてきた。
「……お前はそもそも武器なんて使えるのか?」
「いいえ使えません」
俺は徒手空拳専門です。
灰皿に煙草を押し付けて消火していると、閣下は意味がわからないとばかりに此方を見てきた。
「……だったら何で今更?」
「いや、何かしら獲物をもっていた方が一度に沢山倒せそうだなと思って」
我ながら単純な考えだよなとは思う。
だがしかし、一人一人殴って蹴ってでは効率が悪いし、敵兵を掴んで鈍器にしてもいいが、それならば始めから持っておいた方がいいのではないかと思ったのだ。
「……だったら丸太でも振り回していればいい」
「投げやりですね」
「だから私の専門外だと言っているだろう」
「そうでした。すみません。」
新たに煙草を咥え、火を点けて紫煙を吐き出す。
室内に白い煙で幾何学模様が描かれた。
「暇なら王城の武器庫にでも行ってくるといい。許可は取っておく」
「いいんですか?ありがとうございます」
善は急げと言う。
火をつけたばかりの煙草を消して、豆茶を一気に飲み干し、早速武器庫に移動した。
付いて来ているのは名前も知らない若い男。
一応騎士団員ではあるらしい。
使いっぱしりかもしれない。
武器庫の重い扉を開き見張りの兵に会釈して中に入る。
中には多種多様な武器があった。
剣、槍、大剣、戦斧、弓矢、イロモノではモーニングスターの様な物にソードブレイカーの様な物。
のんびりと手に取って見て見るがしっくりくるものがない。
もっとこう、魔法無しでは持てないくらいにどっしりとした奴が良いんだがな。
「どういったものをお探しですか?」
「でかくて長くて頑丈なヤツ」
途端に若者の顔が変に曇った。
こいつの心の内が透けて見える。
つまり、何言ってんだこいつ、と思っているのだろう。
「……こういったものですか?」
馬鹿でかい大剣を見せられた。
「いや、剣は使ったことがないから無理」
多分、剣術のけの字も知らない俺が振り回せば、剣を一発でへし折る自信がある。
ならばいっそ、閣下の言っていた丸太みたいなやつでも良いのかもしれない。
金属製の丸太なんて見たこともないが。
「いっその事ただの鉄の棒でもいいや」
「ならば一から作ってみては?ただの鉄の棒ならばすぐにできるでしょうし、その方が長さや重さでもしっくりくると思いますが?」
使いっぱしりの提案に悩む。
確かにこういう物はオーダーメイドで作ってもらった方がしっくり来るのかもしれない。
滅茶苦茶面倒臭いが。
「うーん、どうすっかな?」
「少なくとも武器庫内には金棒なんてありませんよ?」
金棒という言葉がなんかしっくり来た。
そうか。金棒か。
鬼と言ったら金棒だよな。
「よし。良い鍛治職人知ってるか?」
「騎士団御用達の職人を紹介しましょうか?」
使いっぱしりが良い提案をしてくれた。
意外に気がきくじゃあないかと思った。
「頼んだ。行くぞ」
「……今からですか?私にも仕事があるんですが」
俺には仕事がねぇんだよ。
使いっぱしりの肩に手を置きにこやかに笑ってやる。
何故か使いっぱしりの顔が引きつった。
「すぐに終わるから大丈夫だって。何処にあるんだ?」
しばらく逡巡した後、諦めたのかついてきてくれる気になったらしい。
「……城門を出て三つ目の十字路を右に曲がってしばらく行ったとこです。青い屋根が特徴の鍛冶屋ですよ」
「うっし行くぞ!」
「……どうして私を担いでいるんですか?……何故に窓に向かってるんですか?えっ、ちょっ、まっ、ここ三階⁈」




