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仕事ですから。やりますよ。



ジークフリート王との謁見を終えた後、真っ白に燃え尽きていた俺に対して、閣下は問答無用で宰相様との打ち合わせに引きずっていった。

この時の宰相様との打ち合わせは、少なくとも先程の謁見と比べれば、俺の胃に対する優しさは天と地ほどの差があった。

唯一不満があるとすれば、打ち合わせの部屋は禁煙である事。

そして飲み物が酒や豆茶では無く、よくわからない薬草茶である事。

どうやら宰相様の趣味の様だった。


「敵は何処で?」


一つ質問をして茶に口をつける。

苦い、土の味がする、不味い。

前世で飲んだ葛根湯の様な味がした。

宰相様は不思議そうな顔をした。

茶を飲んで不味そうな顔をしたのがバレたか、それとも質問がアホ過ぎたか。


「ナンゴウ帝国だ。知っての通りこの国とは昔から仲が悪くてな、小競り合いが絶えないのだ」


すみません知りませんでした。


どうも質問がアホ過ぎたらしい。

その事実を極力顔や態度に出さない様に終始努力しつつ、いくつか質問を続けた。


「奴らの目的は何ですか?」


宰相様はやたらと長ったらしい名前をしており、俺は名前を覚えるのを早々に諦めた。

俺の中ではガリガリに痩せて、ツルツル頭の、胃腸が弱そうな男が宰相様だ。

きっとあの王様の所為でストレスが溜まっているのだろう。

そしてきっとこれから俺が、さらにこの人にストレスを与える事になる。


「いつもの事だが領地の切り取りだ。南国は砂漠が多く住みづらい。食物も育ちにくいので、肥沃な我が大地を目当てに進出してくる。……知っているだろう?」


知りませんでした。


「細かい事は気にしない様にしているんです」


横で閣下が深く溜息を吐いた。

宰相様も小さく溜息を吐いた。

俺も溜息を吐きたくなった。

やっぱりストレスを与えてしまった様だ。


「そもそも何で俺がSランクに?」


どうにかして雰囲気を変えようと質問を重ねてみるが、宰相様はもう一度溜息を吐き、目力だけで「何を言っているんだ」と伝えてきた。


「現状おまえが最も功績を挙げているAランク冒険者だろうが。そしてウォルグリーン侯爵からの推薦もあった。最も新しい伝説に近いのはお前なのだよ」


閣下の推薦だなんて聞いた事もない。

思わず閣下をじとっと見る。

閣下は俺の視線など何処吹く風といった様子でギロリと見返してきた。

きっとこの人は、貴族でなかったならば大悪党になっていたと思う。

腹黒な豪商とかが似合いそうだ。


「ウォルグリーン侯、伝えていなかったのですか?」


「伝えていたら此奴は逃げ出すに決まっている」


「閣下、酷いです」


「お前には力があるだろう。サボるな愚か者」


褒めているのかけなしているのかはっきりしてほしいと思った。


「話を戻すぞ。新しくナンゴウ帝国に冒険者が軍属になった。女二人の冒険者で姉妹らしい。通り名は流浪の姉妹。南国を中心に活躍していた獣人の姉妹で、こいつらもやがてSランクになる予定だったらしい」


へぇっ、と思った。

ひょっとしたら俺とやりあった奴らが流浪の姉妹なのかもしれない。


「あのー、王都に来る途中でやりあっ……遭遇した奴らってひょっとして……」


「おそらくは流浪の姉妹だろうな」


閣下が言葉を重ねる。

やはりビンゴの様だ。


「ほう、もう遭遇したのか?」


宰相様が興味深そうに前に乗り出してきた。

案外こういう少し野蛮な話が好きなのかもしれない。


「俺……私とやりあ……遭遇した時は三人組でしたが」


「男の特徴は?」


「おそらくは強化役ですね。金髪碧眼、色白のタレ目でいけ好かない奴です」


「私情を挟むな」


「すみません」


「おそらくはルーファスという男だ。ナンゴウ帝国の魔法騎士団筆頭だな」


へぇ、彼奴偉かったんだ、と思った。

今回三人がかりでもなんとかやり合えたし、案外今回の仕事は楽勝なのかもしれない。


「流浪の姉妹は獣化していたか?」


「……獣化って何ですか?」


聞いたことのない単語が混じっていた。

そして聞いたことはないが、何と無く嫌な予感がする単語だ。


「獣人に伝わる魔法の一種だと思えば良い。獣化すれば見た目が獣に近くなる分、身体能力も数倍になる。どうだったかは覚えているか?」


閣下が補足してくれた内容を聞きながら、あの時のことを思い出す。

最後に女が不敵に笑っていたのが印象に残っている。

そしてあの時、女達は人の姿をしていた。


「……確か人型だったと思います」


部屋に沈黙が広がった。

楽して勝てる目は無くなった。


「……ならば奴等は奥の手を残しているという事だ。やれるか?」


閣下ぎ発破をかけてくる。

そんな言い方をされたら格好をつけるしかないじゃないかと心の中で毒づく。


「……まぁ、仕事ですから。……やりますよ。精々楽しんできますわ」


出来るだけ不敵に笑ってみせた。

何と無く、やれそうな気がした。














「宰相、奴をどう見た?」


「……あまり頭は良く無さそうですね。考えて動くよりかは直感で行動する人間かと。そして剛胆でもある様ですね。国際問題を細かい事で済ませてましたし。……まぁ、大馬鹿者の可能性もありますが」


「……侯爵、奴の人となりは?」


「見ての通りだ。まぁ、底辺の冒険者と比べればほんの少し上品なのだろうな。面倒臭がりではあるが少なくとも悪さはしないし、仕事熱心ではある」


「ウォルグリーン侯、もう少し陛下に対して言葉遣いを改めた方が……」


「公の場ではないのだ、構わんよ。それに今更此奴にへりくだられても気持ち悪さが先に来る」


「……左様でございますか。それにしても……仕事熱心とはいい良い事ですね。どっかの誰か様にも聞かせたいくらいです」


「お前も中々不敬だぞ」


「気のせいでは?」


「まったく……。まぁいい。そんな事よりも……どうにかして奴に首輪をつけたいな……」


「……やめた方が良いぞ。噛み付かれた時に大怪我をする事になる……」


「……唯の馬鹿か、それとも大馬鹿者か?……奴から自由を奪うには代わりに何を与えればいい?」


「……唯の馬鹿ならば金で済むのですが、……どちらかというとあの男、金や名声、権力よりも情を取るのではないかと」


「泣き落としがあの男に効くと思うか?」


「やめておけ。男の泣き落としなんぞ失敗するのがオチだ」


「……ならば人質を取るか?」


「それこそ最も悪手だな。この国を潰されるぞ」


「国を潰すとは大きく出たな」


「誰も彼奴を止められんよ。それに彼奴が動けば太陽落としも追随するだろう。太陽落としの背後にはクマナヴァもいる。クマナヴァはある程度友好的になってきたが、太陽落としが動けば敵に回るだろう。二つ名持ちを二人も相手にして、尚且つ敵対国家を増産するか?」


「……既に一つの派閥が出来ている……か?」


「鬼の足を踏まぬ事だな。潰されるぞ」


「……ならばどうすればいい?」


「放っておけ。彼奴は縛られるのを最も嫌がる。ある程度自由にさせておけば、必要な時に助力してくれるだろう。根はお人好しだからな」

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