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好々爺



閣下の別邸に到着した。

流石にデカイ。

あまり華美な装飾や無駄なゴージャスさを好まない閣下だが、この建物はあまり閣下の好みでは無い様に思える。

恐らくは、他の貴族共に対する権威付けの様な意味合いがあるのだろう。

とどのつまり、舐められてはいかんという事か。


「……旦那様⁈」


予定よりも早く着いた閣下を見て、ほんの少しだけ召使いさん達が慌てていた。


「旦那様⁈大丈夫ですか⁈」


「どうなさったんですか⁈」


「お怪我は⁈」


そしてボロボロの服を着た閣下を見て更に動揺した。

わらわらと出てくる召使いさん達に対して、


「大事はない」


という一言で皆を落ち着かせた閣下の信頼感は凄いものがあると思う。

閣下はそのまま着替えを準備する様に指示を出し、ついでに俺の普段着と礼服を買ってくる様に、と指示を出していた。

閣下は勝手知ったる我が家とばかりに先へと進み、俺は年老いた家令に連れられて客室へと案内された。
















「此方でございます」


そう言って先導する執事は、ロマンスグレーの髪の毛をオールバックにし、メガネをかけ、口髭を蓄えた、穏和な顔をした好々爺であった。

仕事はできそうだがイタズラが好きそうな、ちょっとお茶目な印象の人物である。

多分、イタズラがバレた時なんかはかるく笑って舌を出してそうだ。

そんな爺さんに案内された客室の中は、シンプルではあるがゴージャス。

機能的でありながら芸術的な、華美な装飾がなされており、素人目に見てもこの部屋をデザインした者のセンスが光る中々の部屋だった。

ただし、問題が一点。


「……ここって煙草吸っても良いですか?」


こんな立派な部屋を汚してしまうのはなんと無く気がひける。

念の為、恐る恐る聞いてみると、


「ええ、大丈夫ですよ」


と非常に軽く返されまずは一安心した。


あー、……これでゆっくりと煙草が吸える。


ホッとしたのがじいさん執事に伝わったのか、ホッホッホッと笑われてしまった。

笑い方が上品で様になっている。

こんな笑い方する人、本当にいるんだなと思った。


「貴方様の事は色々とお伺いしております。旦那様はあの様ななりでも、お体には怪我が無い様でした。今回も貴方様が旦那様を助けて頂いたのでしょう?」


そう言ってニコリと微笑まれてしまった。


「えぇ、まぁ、似た様なものです」


……言えない。閣下の服をズタボロにしたのが俺だなんて絶対に言えない。


なんと無く罪悪感で気まずくて、窓の外を眺めてみる。

寒空の中、小さな鳥が一生懸命羽ばたいていた。


「これはまたご謙遜を。良ければ煙草と灰皿お持ちしましょうか?見た所お荷物は全て置いてきていらっしゃる様ですし」


置いてきたんじゃなく穴だらけの血だらけになって使い物にならなくなったんだよ。


そんなどうでも良い事実が頭をよぎったがスルーして、これ幸いとばかりに新たな願望を伝えた。


「ついでに豆茶ももらって良いですか?」


老執事は穏やかな微笑みを蓄えたまま、軽く頷いてきた。


「もちろん。では煙草と一緒にお持ちしましょうか。では此方で少々お待ちください」


そう言って完璧な一礼をして退出していく老執事に、思わず舌を巻いてしまった。


……この人も良い歳の取り方してるなー。


少しばかり、羨ましいと思ってしまった。







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