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青鬼宅急便、再び。




「……ぶん投げてすみませんでした」


「……お前は私をぶん投げてすみませんで済むと思っているのか?」


「いやいや、それはですねー、あのー、あれです、ほら、えー、緊急事態だったもので」


閣下の青筋を見て、ここから立ち去りたい衝動に駆られた。

ストレスの所為か、やたらと煙草を吸いたい。

吸えないとわかっているから尚更だ。


襲撃者達が尻尾を巻いて逃げ出した後、閣下の捜索に乗り出した。

結論を言えば、閣下は俺の魔法のおかげで無傷だった。

そのかわりと言っては何だが、服が地面と擦れてズタボロになっているのはご愛嬌か。

流石に仰向けで倒れているところを発見した時は肝を冷やしたが、近づいて確認すると呼吸はちゃんとしていたし、特に怪我も無いようだった。

確かに申し訳ない事をしたと思うが、多少ズタボロになる程度は我慢してほしい。

少なくとも死ぬ事は無かったし、それどころか怪我一つ無い。

それに俺は服も体も、閣下以上にズタボロになったのだから。















結局閣下は簡単に見つかったが、問題はこの後だ。

何と言って閣下を丸め込めば良いのやら。

顔には出していないが、胃が痛い。

そりゃあもうキリキリしている。

きっと前世でも、おっかない上司に虐められていたんだろう。

そしてさっきから風が強くて寒い。

その所為で余計に閣下の機嫌が悪そうだ。

しかし一応俺にだって言い分はある。

あの時は緊急事態だったし、奴等は非戦闘員を庇いながら撃退できる様な雑魚では無かった。

あの優男を除けば、だが。

だが、だからと言って雇い主を放り投げても良いのかと言われれば、答えは当然「否」だろう。

例え命の危機があったとしても、だ。

そもそもが、閣下を危険な目に合わせる前に面倒事を片付けるのが俺の仕事なのに。


「全く悪びれている様には見えんな」


それは俺の目つきが悪い所為です。

生まれつきのものなのだから大目に見て欲しいものだ。


「いや、本当に申し訳ないと思ってるんですよ?見ての通りですし」


そう言って軽く両腕を広げてボロボロですよのアピールをすると、腕を組んで仏頂面の閣下は、俺を上から下まで半眼で眺め、溜息を一つ零した。


「……敵は強かったのか?」


閣下はそうポツリと零した。


「そうですねー。結構強かったと思いますよ?三対一でしたしね」


ちょっと格好をつけて肩を竦めてみせた。


「……今回の事は不問にしてやる」


少しの間沈黙してそう言った閣下は、また溜息を零した。

眉間に寄った皺を揉み解す仕草が随分と様になっていた。

この仕草が様になるまで繰り返させた原因は、俺だけではないと信じたい。

きっとおっさんも、女関係で閣下に迷惑をかけているのではないだろうか。

いや、絶対にかけている。


「ありがとうございます」


そう言って、ちょこんと頭を下げた。

正直、助かったと思った。

やっぱりこの人は、なんだかんだで身内に甘いと思う。


「次やったらレイドの奴に言いつけるぞ」


「あっ、酷いっす」


前言撤回だ。

この人は俺が兄貴に頭が上がらないのを知っている癖に、わざとこういう事を言う。


「……直属の上司の私よりもレイドの方が恐いか?」


閣下はそう言って、胡乱げに此方を見上げてきた。


「ほとんど刷り込みみたいなものですよ」


仏頂面でそう返すと、閣下は眉間に当てていた人差し指を、右のこめかみに立ててもう一つ溜息を吐いた。

呆れられているのか、それとも怒りを抑えようとしているのか、どちらかはわからない。

そしてそれが俺に対するものか、それとも兄貴に対するものなのか、それもわからなかった。

何にしろ話の雲行きが怪しいので、とっとと先に行く様に話を進めさせてもらおうと思った。


「所で閣下。馬車も従者も居なくなりましたけどどうします?」


そう言って辺りを見回す。

ここは一体何処なのだろうか、と思った。

この辺りは何処を見ても風景が殆ど変わらない。

土地勘の無い俺には、今何処にいるのか見当もつかなかった。

そしてあのおじさんは無事に逃げ果せただろうか、とも。

何にしろこの肌寒い中で、半裸のおっさんが長く生きていられるわけがない。

とっとと場所を移動して、熱い風呂に入りたいものだと思った。


「……ここが何処かもわからんしな。何か考えでもあるのか?」


閣下もこの辺りが何処になるのかはわからないらしい。

閣下にもわからない事があるんだなと、妙に新鮮な気持ちになった。


「どっちに向かえば良いかはわかりますか?」


「方角的にはあっちだな」


そう言って閣下は、指をさした。

方角がわかれば後は簡単だ。


走って向かえばすぐに着く。


「あっという間に着く方法があります」


俺は自分の意見を通す為に、精一杯のビジネススマイルを浮かべた。


それはとっておきの、瞬間移動の様な魔法。


「……お前のそのいやらしい微笑みに底知れない不安感を呼び起こされるのだが?」


閣下は全力でしかめっ面をしている。

失敬な、と思った。

俺は早く街について、熱い湯に浸かった後、ゆっくり煙草を吸いたいだけなのに。


「気の所為です。どうします?」


「……まぁいい。やってみろ」


閣下はまた一つ溜息を零した。

本当に溜息の数だけ幸せが逃げるのならば、きっとこの人は一生分の幸せを逃しているのだろう。

そしてきっと、この人が逃した幸せは領民達に還元されているのかもしれない。


「承知しました。では閣下、失礼します」


そう言って閣下を抱き抱える。

勿論お姫様抱っこである。

決して他意はない。


「ちょっと待て何故私を抱える?」


「喋っていると舌噛みますよ。んじゃあ行きますか!」


「お前、ちょっ……!」


閣下の意見を無視して行動を起こす。


まぁ、ちょっとばかし我慢してくださいよ。

我慢した分だけ、早く楽になれるんですから。


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