襲撃
四話目、
おっさんに説教された。
結局はあの後おっさんは答えを教えてくれなかった。
しかし意外なところで答えがわかった。
数日後、俺は王都へと呼び出されたのだ。
ガタガタと馬車が揺れる。
五人乗りの普通自動車程度の広さ。
その中にウォルグリーン侯爵と俺の二人っきりで座っていた。
何となく気まずい。
閣下にはお世話になっているが、偉い人と狭い部屋で二人っきりは精神衛生上絶対によろしくないと思う。
どうも前世の小市民臭さが抜けていないみたいだ。
会話が無いのも気まずさに拍車をかけている。
……あぁ、煙草吸いたい。豆茶も飲みたい。どっかで休憩しねぇのかね。
閣下は馬車の中でも仕事をしていた。
と言っても書類に目を通すだけだが。
それでもよく酔わないもんだと思う。
おそらくはこのような事は日常茶飯事なのだろう。
そんなことを考えていると、閣下は書類から顔を上げてぐっと背を伸ばした。
バキバキと軽い音が馬車の中に響いた。
「お疲れ様です。仕事は終わったんですか?」
「そんな訳あるか。私の仕事に終わりがあるわけないだろう」
そう言うとまた書類に顔を戻した。
なんかすんません。
閣下の邪魔をするのも何なので、暇潰しに馬車の中を眺めてみた。
そこそこ豪華な感じがする。
だがあまりゴテゴテしておらず地味だ。
実際の価値はよくわからないが。
「馬車の内装が気になるのか?」
書類に目を落としたまま、閣下が話しかけてきた。
この人には目が幾つも付いているのだろうか。
「いや、そういう訳では無いんですけどね?」
「他の貴族と比べると飾りが少ないからおもしろみはないだろう」
「……まぁ、確かに地味だとは思いました」
「来賓用の馬車は別にある。そっちはちゃんと豪華にしてある」
「……こっちは豪華にしないんで?」
「わざわざ自分達しか乗らないのに飾りを豪華にしてどうするんだ?どうせ豪華にするならもっと快適にするわ」
「……いかにも閣下らしいですね」
やる事が一つ無くなったので窓の外を見た。
青い空に白い雲。
場所はよくわからんが長閑な風景。
……外で煙草吸ったら気持ち良さそうだな。
また一つ、溜息をついた。
閣下を抱えて飛んで行ったら早いのに。……流石に閣下を青鬼宅急便するのはマズイか。
そんなくだらない事を考え溜息を吐こうとした時、唐突に首筋にゾワリとした独特の感覚が襲った。
一瞬で自信に強化をかける。
「閣下、失礼!」
返事も聞かずに閣下を掴んで扉を蹴破り外に出る。
途端に馬車が穴だらけになった。
……あっぶねぇ。
穴だらけになった理由は見てすぐにわかった。
地面から大量の針。
まるで華道の剣山の様に、みっちりと密度の濃ゆい針の山が飛び出していた。
そしてよく見れば針一つ一つが思ったよりも太い。
先端は鋭く根元はコーネリアの腕位の太さがあるんじゃなかろうか。
そして飛び退いた先でもまたやな予感がした。
地面が光り輝く。
何が飛んでくるかわからないので斜め上に飛び上がった。
出てきたのは先程と同じく針の山。
殺る気満々じゃねーかよ。
そこでふとへたりこんでいる人影が目に付いた。
馬車の御者が生きていたのだ。
「運転手のおじさん逃げてー!」
粉々になった馬車を見て呆然としていたおじさんが慌ててわたわたと逃げて行く。
離れて行くのを見てホッと胸を撫で下ろした。
どの道あのおじさんが標的じゃないだろうから大丈夫とは思うけど、巻き込まれて死んだら目覚めが悪い。
死なないならばそれに越したことはない。
「他人の心配なんて余裕だな」
上から声がした。
咄嗟に右腕を掲げると同時に声がした方を向く。
フードの中の瞳と一瞬目が合った。
声の主は多分若い女。
褐色の引き締まった脚が眩しい。
そして青く光っている。
筋肉増強の証。
尋常でない勢いで蹴りが落ちてきた。
こりゃやばい!
慌てて閣下にも身体硬化と自動回復をかける。
右腕に今までにない程の衝撃。
ミシリと骨が軋む。
蹴りつけられて飛んで行く方向は先程の剣山。
ヤバい。
この勢いだと穴だらけになるかも。
どうする。
どうするよ⁈
えぇい、一か八か。
閣下スミマセン!
全力で閣下を投げる。
どうか閣下が標的ではありませんように。
硬化と回復かけているから死なないだろう。
体を捻る。
目と鼻の先にぶっとい針。
声にならない声が上がる。
一か八か!
体を丸めて顔や首、脇や太腿等の弱い部分の被害を少しでも抑える。
衝撃。
ぷつり。
ぷつりぷつりぶすり。
針が体を貫く。
激痛。
気が遠くなる。
ボキッ、ベキッ、バキッ。
勢いに耐え切れなかった針が幾つもへし折れた。
ごりっ、ごりごり。
太めの針が骨と擦れる。
嫌な振動が体に伝わった。
ぷつりぷつベキッぷつりごりっベキッぷつぷつごりっ。
まだか。
あとちょっと。
もう少し。
……止まった。
あぁ、このまま眠りたい。
でも眠れない。
そんな暇はない。
体が動くか確認。
右腕、動いた。
左腕、イケる。
力を入れて腕を捻り、腕に刺さった針をへし折る。
みちっみしみしみちっ、ぱきべきぼきん。
あぁ、痛い。
死んだがマシかも。
ずぶずぶと両腕に刺さった針を引き抜いて行く。
抜いていく端から魔法を使い全力で治癒していく。
両腕はオーケー。
自由になった両腕を使い、手近な太めの針を掴む。
勢いをつけて両腕で体を一気に持ち上げた。
ずぶぶ、ずぶぶふ。
更に激痛。
また気が遠くなる。
体に刺さった針がどんどんと抜かれて行く。
そして体から異物が抜かれる感触が終わった。
体が強く光り出した。
白い光りだ。
白い光りがある程度治ると、全身の傷はきれいさっぱり無くなっていた。
ふう、と一つ深呼吸をこぼす。
そのまま両腕で勢いをつけて剣山から飛び出した。
それにしてもまさか手でジャンプする日が来るとは思わなかった。
くるりと一回転して華麗に着地を決める。
うん、満点。
自画自賛をして辺りを見渡すと友好的ではなさそうな三人組がいた
頭からすっぽりと外套を被った人物、背格好からおそらく女が二人に男が一人。
「……何故貴様は生きている?」
多分俺に思いっきり蹴りを入れた女の片割れが何か言っているがそんなもんに答える義理はない。
自分の体を見下ろす。
おろしたての服が血塗れの穴ボコ。
煙草を入れていた胸元を探る。
煙草も見事に血塗れになっていた。
……落ち着こう。一度深呼吸だ。ちょっと煙草を吸えない位大したことはないだろう。大人になろう。
「……よし、テメェらぶっ殺す」




