飲み屋でお説教
「……とまぁ、こんな事があったんです」
「ふーん、褐色の二人組ねぇ……」
不審人物の発見から数日後、おっさんと共にいつもの酔いどれ鬼人に来ていた。
周りは酔っ払った冒険者でごった返しているが、あまり大声で騒いでいる奴がいない。
皆、俺達に遠慮している。
なんとなく疎外感を感じた。
確かにAランク冒険者二人が揃って飲んでいるのは珍しいのかもしれないが、こっちをチラチラ見ながらヒソヒソ話はしないでもらいたい。
おっさんは全くなんとも思っていない様で、いつも通り飄々としている。
今も最近生やしだした顎髭をジョリジョリとさすりながら何事か考えている。
ちょび髭をやめて泥棒髭にでもする気だろうか。
まぁ、どっちでもそこそこ似合いそうな気はする。
多分髭を生やしていないのが一番似合っているのだろうが。
そんなどうでもいい事を考えながら、食台の上に置いていた煙草を手に取って口に咥えた。
ボシュッという音と共に煙草に火が点く。
おっさんを見やると、顎髭をさすっていた手を止めて右手の人差し指を煙草に向かって指していた。
ちょこんと頭を下げると、おっさんも煙草を一本取り火を点け、軽く吸い込んで細く紫煙を吐き出した。
「……褐色の肌ってのはな、元々は南にある国の、そのまた先にある国に住んでいたらしい」
「らしい?」
「俺も又聞きだからな。よくわからん」
そう言って安酒をぐいっと煽った。
ぶふぅ、と熱い息を吐きながら火を点けた煙草を咥える。
空になった酒を注いでやり、話の先を促す。
おっさんは咥え煙草のまま両手を頭の後ろで組んで、紫煙が立ち昇るのをボーッと見続けるみたいだ。
たまにおっさんは、特に頭を使っている時に紫煙を見つめる事があった。
最早癖と言っても良いのかもしれない。
「昔々その国には獣人達が住んでいた。だが他国に急に攻め込まれて国は滅んで、皆バラバラになってしまった。そのうち黒い肌をした人達はそのまま隠れ里を作って細々と生活をしているらしい」
喋るたびに煙草がピコピコと上下する。
それに合わせて立ち昇る紫煙も動く。
律儀にもおっさんの目は動いた紫煙を細かく追っていた。
「……褐色の奴らは?」
「流浪の民として各地を転々としているらしいぞ。会った事がないから知らんがな」
そう投げやりに言って咥えていた煙草を右手で取り、トンと人差し指で灰を落とした。
「まぁ情報元は信頼できるから、事実だと思うぞ」
そう言って今度は舐める様にちびりと酒を飲み、スゥッと深く紫煙を吸い込んだ。
こんななんて事のないちょっとした仕草が様になっていて、不覚にもちょっとかっこいいと思ってしまった。
こうして見る分には、おっさんは良い年の取り方をしているなぁと思う。
自分の二十年後は一体どんな風になっているのだろうかと思うが、全く想像がつかなかった。
「……てか俺、人以外見た事がないっす」
「んあ?そうなんか?でもまぁそのうち会うこともあるだろう。俺みたいに人生の半分も冒険者をやっていたら、そのうち違う奴らと仕事をする事もあるさ」
……そんなもんかねぇ。
そう思って紫煙を思いっきり吸い込む。
少し頭がクラっとした。
「……で、だ。そんな滅多に会わない獣人がお前と軽い接触を起こしたわけだが、何が目的だと思う?」
そう言われて考えてみたが、脳筋の俺にまともな答えも出せるわけがない。
「……たまたま買い物に来ていたとか?」
「真面目に考えろよなー」
やっぱり駄目出しをされてしまった。
「そんな事を言われても……。品定めをしに来たとしか思えないんですけど」
と、もし自分があいつらだったら何をしに行くかを考えてみると、これぐらいしか答えは出てこなかった。
「そうだな。奴らの目的はお前の観察だろ。どの程度の力があるか、弱点は何かってな」
おっさんはそう言って、煙草を灰皿に押し付けて、残った酒をぐいっと煽った。
「……どう思われたんすかね?」
つまみの肉を一つ口に放り込んで酒を一気に煽る。
近くにいた女の店員に追加で酒を頼んだ。
この店の中では一番の上等なやつ。
多分おっさんの行きつけの店の酒と比べると、天と地ほどの差があるだろうが。
「もう観察されていないのならば、手に負えないと思ったのか、それともいつでも殺れるって思われたのか」
「できれば前者であってほしいなぁ……」
「……例え相手が獣人であっても、お前が負けるところなんざ想像出来ねぇな」
「まじすか?ありがとうございます」
コトリ、と追加の酒が瓶ごと食台に置かれた。
「おう、この店の払いは宜しくな」
「まさかの罠がこんなところに!」
酷い話だ。
仕返しにおっさんに注いでやった酒は冷やさないでやろう。
「引っかかるお前が悪いやな」
おっさんが一口酒を飲み込みしかめっ面をした。
そしてジトッとこちらを見てくる。
その目には、「何で冷やさねぇんだよバカヤロウ」とはっきりと書いてあった。
そんな事をしながら遊んでいたが、ふと彼奴らは何処の陣営なのだろうかと疑問が浮かんだ。
「……おっさんはあいつらが何処の奴らだと思います?」
「順当に行けば南国の奴らじゃねぇか?」
至極あっさりと答えが出て来た。
「……なんでわかるんすか?」
「国際情勢なんて俺らの仕事に直結すんだからお前もちったぁ普段から調べろや」
「……なんかすみません」
ぐうの音も出なかった。




