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煙草と魔法と格闘技〜固茹で卵気取りの転生譚〜  作者: ラーク
三章 太陽堕としと過去のしがらみ
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最終日 夜


最終日、夜


メルヒオルとの戦いはかなりしんどかった。

まさかの奥の手まで使う事になるとは。

それにロイドに借りを作っちまった。

今度また、美味い店に連れていってやろう。

だがしかし、夕方の激戦の後の方が大変だったかもしれない。

クマナヴァ王国側からすれば、他所の国の冒険者に自国の宮廷魔術師を殺されたわけだ。

黙っているわけがない。

ギュンターの奴は気絶しているし、他に俺たちの事を知っている奴らなんていない。

こいつらを殺さない様に戦い逃げる事がかなり大変だった。

幸いな事に陽が完全に落ちた頃、ギュンターが戦いの余波で頭をぶつけた拍子に目が覚めて、慌てて全員を止めてくれた。

ギュンターからしたら、救国の英雄になんて事をしているんだ、という事らしい。

ほとんどの騎士や魔術師達は意味もわからずキョトンとしていたが。

そして主立った者を会議の間に集めて全てを説明してくれた。

ほとんどの者は半信半疑だったが。

だが疑うのも無理はないと思う。

宮廷魔術師が簒奪を企てて、それを元王子が助けに来たという芝居も真っ青な展開を信じる奴なんて普通は居ないだろう。

もっとも、普段のギュンターが人格者で、真面目な人物だった事が幸いして、最終的には全員が信じてくれた。


会議の間に集まった者達の中には見知った顔が何人か居た。

そいつらは全員が俺の事を懐かしそうに見てきた。


……昔の面影なんて無いだろうに。


それともギュンターの様に、親父の面影を重ねているのか。

一方見知った顔では無い奴らは、全員が目をキラキラさせて此方を見てきた。

大方ギュンターから俺の事を聞かされていたのだろう。

正直苦痛だ。

人を勝手に飾り立てて、英雄なんかにしないでほしい。

そんな事を考えていると、文化庁の奴がポツリと零した。


「……これで新しい英雄譚が出来る。……これは使えるぞ」


……頼むからやめてくれ。


そんなゴタゴタがひと段落して、今俺は王座の間でギュンターと二人で向かい合っていた。

俺はいつもの如く口に煙草を咥えてはいる、が火は点けていない。

流石にこの部屋で煙草を吸う気にはなれなかった。

この煙草に火を点けるのはこの城を出て行ってから。

なんとなしに一人で勝手に制約をつけてみた。


「……じゃあな、俺はもう行くわ」


三十年前と同じ様に、ギュンターは辛気臭い顔をしている。

だが三十年前と比べると、涙を流してはいなかった。

ついでに鼻水も。


「……この国に留まっては頂けないのですか?」


その声色に含まれるのは単なる確認。

三十年前のあの時はどうにか引き止めたいという感情が隠れる事なく見えていた。


「そんな気はサラサラねぇよ」


「……何故です?」


「……俺が王子だったのは三十年前だ。この国の外にいた方が長いんだよ。……俺にはもう此処が居場所だとは思えねぇ」


この国、この城を飛び出して三十年の間に起きた事をざっと思い出した。

ここにいた時よりも大変で、ここにいた時よりも危険で、ここにいた時よりも刺激的で、ここにいた時よりも楽しかった三十年。


「それにな、俺がいた時よりも民の笑顔が増えてたよな。……もう俺みたいな埃被った元王族はいらねぇんだよ」


「……お気持ちは固いんですね」


「おうよ。俺はもうアーブラハムじゃねぇんだよ。ただのニックだ。達者でな。……いつかそのうち遊びにくるわ」


「……必ずまた、来てくださいね」


「……世話になったな。じゃあな」


ギュンターはほんのりと微笑んでいた。

俺はギュンターに背を向けて歩き出した。

振り返ることはしなかった。














王座の間を出ると、扉の傍にロイドが待ち構えていた。


「お疲れ様でした」


そう言ってちょこんと頭を下げた。


「……本当に疲れたわ。……行くぞ」


溜息を一つついてロイドを引き連れて廊下を歩く。

分厚い絨毯はしっかりと足音を吸収している。


「なかなか無い経験でしたね。それにしてもおっさんの物語、かっこいいじゃないっすか」


ロイドか面白そうに言ってきた。

俺の物語とは意味がわからない。


「……俺の物語?」


「王子様が悪魔に取り憑かれた父親を倒して、世直しの為に国を出て人助けの旅に出るって話です。この国の民なら赤ん坊からお年寄りまで、みんなが知っている物語らしいっすよ?人気者ですね」


……勘弁してくれよ。


「次は王子様が鬼を従えて祖国に帰ってきて、悪い魔法使いを倒すって物語が流行ったりして。そしてそれが他国にも流れたりして」


……頭が痛くなってきた。


思わぬ事態に足取りが重くなる。

とっととこの国から出ていかなければ。

じゃなきゃ恥ずかし過ぎて死んじまう。


「……ほんと勘弁してほしいわ」


思わず頭を抱える。

途中からゆっくりした足取りだったが、既に城門付近にまで移動してきていた。


「……俺がそんな大層なものな訳ねーだろうが」


「……英雄が弱音を吐いちゃあ格好かねぇっすよ?」


ロイドがポツリとからかう様に言葉を投げてきた。


「……俺が英雄なわけねぇだろうが。……俺は酒と、煙草と、豆茶と、女が大好きな、何処にでもいる中年冒険者、唯のニックなんだからよ」


思わず溜息をついてしまった。

城門から一歩足を踏み出した瞬間、ボッと煙草に火を点ける。

今日の煙草は苦味が強いがコクと深みのある味。

シュウと紫煙を吐き出すと、ほんの少しの間だけ夜空に照らされて、夜風に吹かれて散らされていった。

随分と夜が冷えてきた。

今年は去年よりも寒くなりそうだ。

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