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煙草と魔法と格闘技〜固茹で卵気取りの転生譚〜  作者: ラーク
三章 太陽堕としと過去のしがらみ
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最終日 昼 其の三

最終日、昼、其の三


「……っぶねぇなぁクソが」


真っ二つに切り裂かれた調度品と壁から、パラパラと破片が落ちる音がしている。

俺とロイドは二撃目が飛んでこない事を期待しながら立ち上がった。

室内は綺麗サッパリと横一文字に切り傷がつけられている。

壁の傷はおそらくは外までバッサリと切られているだろう。

部屋の入り口を睨み付けると、人影が一つ。

多分こいつがこの部屋をバッサリとした男で、尚且つ今回の面倒事の黒幕なのだろう。


「これはこれは、まさか本当に本物の太陽落としが引っかかるとは。」


「……誰だテメェ」


ゆっくりと、男が芝居掛かった動作で入室してきた。

見た目は四十代で、髪の毛は金髪を後ろへと撫で付けており、少し伸ばしている髭は綺麗に整えている。

体格は不健康な中年親父そのもので、無駄に太鼓腹が主張していた。

特筆すべきなのはその服装。

金の糸で縁取られた白い法衣に黄金鳥の腕章。

俺の記憶が確かならば、その服装は宮廷魔術師の物。


「……テメェがメルヒオル……か?」


「ご明察でございます、太陽堕とし殿。それともクマナヴァ王国に語り継がれる英雄、アーブラハム元王子様、と言った方がよろしいですか?」


「……いちいち癪に障る奴だな」


腹立ち紛れに火球を一つ、メルヒオルのデカイ腹目掛けて飛ばす。

だがその巨体に似つかわしくない軽い動きで、ヒラリと火球を避けてしまった。


……やっぱり此奴は風魔法も使うか。


しかもかなりの使い手だと思われる。

思った以上に厄介な奴だと思った。


「危ないですねぇ。……それにしても創造から発動までが早いですね。流石は英雄、といったところですか」


魔法の腕はお互い様だろうが、と心の中で毒づき溜息を吐く。


「御託はいいんだよ。……今回の騒動、テメェが黒幕だな?」


「違う、と言っても信じてくれないでしょう?」


……此奴との会話、面倒臭い。


ひょっとしたら、態々俺を苛立たせる為に面倒臭い真似をしているのかもしれないが。


「……テメェの目的は何だ?」


面倒臭いので此奴が黒幕である前提で話を進める。

メルヒオルは大して誤魔化すつもりも無いのか、あっさりと全てを認めた。

それもたった一言で。


「簒奪」


口から出てきた単語は、かなり刺激的だった。


「何でもよかったんですよ。あの男が国民から暗愚と思われれば」


メルヒオルは何が楽しいのか、ニヤニヤしながらベラベラと計画を語り出した。

そしてその計画は何処かで聞いた事のある、埃被った古い話にどこか似ていた。


「私は農民出身故か権力というものが大好きでして。どうにかして更なる権力を手に入れられないかと考えていたんです。そしてある時その男、ギュンター王が話されました。自分はアーブラハム王子の代理でしかない。彼の方が戻って来た時のためにこの国を守っている。戻ってこられたらいつでも王の席を譲るつもりだと」


いちいち芝居の台詞の様に、大袈裟に身振り手振りを交えながら、メルヒオルは一人自分の世界に入り込んでいる様だった。


こいつ自分に酔っていやがる。

……今ここで燃やしたら駄目かな?


そう思ってまた火球を創り投げつけた。

しかし火球はメルヒオルに当たる直前、ポヒュッという奇妙な音と共に消えてしまった。


「……あれ?」


だがそんなことは御構い無しに、メルヒオルの言動は熱を持っていく。


「私はこれは使えると思いました。ギュンター王に世間話程度にアーブラハム王子の話を振ってみました。そしたらこの男は、それはそれは嬉しそうにベラベラと喋ってくれましたよ。曰く、聡明である。曰く、人格者で万人に等しく優しい。曰く、自身を厳しく律することができる。曰く、火魔法の適性があり、今頃は偉大な魔術師になっているだろう」


……誰だよそいつは。


恥ずかし過ぎて顔から火魔法が出ていきそうだ。

そしてここでメルヒオルは一度語るのを止めてしまった。

熱くなりすぎて顔からボタボタと汗が滴り落ちている。

運動不足なのかやたらと顔が真っ赤だ。

肩で息をしていたメルヒオルは一際大きく息を吸い込んで、バッ!と両手を広げ、また語り始めた。


……早く終わらんのかね。


ロイドの方を見やると、此方を半眼で見ていたロイドと目が合った。

きっと俺と同じ事を考えているのだろう。

そこでふと一つ思いついた。


何故誰もこの部屋に踏み込んでこない?


ひょっとしたら囲まれているのか。

しかしメルヒオルがさっきから大声で一人舞台をしている。

流石にこんなもん他の奴らに聞かれたらヤバイだろう。

ひょっとしたら役に立たないと判断して此処から遠ざけたか。

なんにしろ追っ手は無いに越したことはない。

殺さずに無力化するのは中々厳しいからだ。


「そして隣国である火魔法使いが名を馳せている事を知った!これは使えると思った」


メルヒオルは此方の事なんて御構い無しに一人舞台を続けている。

こいつが犯人だとわかっている以上、こいつの一人舞台に付き合うのは面倒臭い。

しかし此方の思いとは裏腹に、メルヒオルの舞台は更に熱を持ち始めた。


「この時ギュンター王にそっと囁きました。アーブラハム王子にこの国に戻って来てほしくはないかと。ギュンター王は喜んで飛びついて来た!計画はこうだ。ギュンター王が暗愚を演じる。心優しいアーブラハム王子は祖国の一大事に駆けつけて来てくれる。そしてアーブラハム王子に自分自身を討ってもらいアーブラハム王朝の礎となる!普通ならばこんな馬鹿げた話に誰も乗らない。でもギュンター王は普通ではなかった。それはもう狂信者と言っていい程にアーブラハム王子を盲信していた!私はさらに一計を案じた。どうせならば、名を馳せた火魔法使いがいる隣国へとちょっかいをかける。国際問題を起こした方が、きっとアーブラハム王子もわかりやすいだろう。何よりもその火魔法使いはひょっとしたら本物のアーブラハム王子かもしれないと!ギュンター王はすぐに行動に移した。ゼンジェヅ塩湖の領有権の主張、そして騎士団による塩湖の取り囲みだ。ここまでは順調だった。しかしここで予定外の事がおきた。そう!貴方です!調査に来た隣国の手の者を亡き者にし、更に関係を悪化させ戦争を勃発させる!その予定だったんですが……まさか本物の王子が引っかかるとは」


最高潮に盛り上がりを見せた一人舞台は、ここにきて一気に熱量が抑えられていった。

ひょっとしたらメルヒオルの体力が限界に来ただけかもしれないが。

一先ずは静かになって何よりだ。


「……そりゃあすまんな。……んで?戦争を起こした後はどうするつもりだったんかよ」


「そんなもんは決まっています。ギュンター王を殺して私が新しい王になる。ギュンター王自身が簒奪した身です。国民の衝撃も他国と比べると少ないでしょう。三十年前にも同じ事がおきています。国民はあぁ、またかと思うでしょう。そして私が戦争を適当な所で終息させる。私は英雄王になるって寸法ですよ」


「そうかい。説明ご苦労さん。結局は俺の猿真似か。そんなにうまくいくわけねぇだろうが馬鹿が」


思いっきり馬鹿にする様に、溜息を吐いて呆れてみせた。


「やってみねぇとわからねぇだろうが」


唐突にこの男の口調がガラリと変わった。

ひょっとしたらこれがこの男の本性なのかもしれない。


「もういいや。話にならねぇ。ギュンター、お前情けねぇよ。もっとしっかりしやがれ」


気絶しているギュンター相手に毒づき、溜息を吐く。


……しゃーねーから俺が落とし前つけてやる。


「……テメェオモテ出ろや。元王子様がきっちり引導を渡してやる」


「……お前にできるのか?」


「青鬼も忘れちゃいけねぇよ?」


横からロイドが口を挟んできた。

だが今回に限ってはお呼びでない。


「テメェはすっこんでろ」


「えぇ……、暴れたりないんですけど」


「ここは先輩に華を持たせろや」


何よりも俺自身が蒔いた種だ。

ここは俺が収めるってのが一番しっくりくるだろう。


「お前は此処でギュンターの奴をみといてくれ」


「……りょーかいです」


不服そうだが仕方なし、といった様子でロイドが引き下がった。


……すまんな。


心の中で一言謝ってから、懐から煙草を一本取り出して咥える。

そしてまだ体が青白く輝いているのを確認。


……まだ強化魔法は切れていないか。


「うっし……いくぞクソ野郎」


メルヒオルを見やると、随分と不機嫌そうな顔をしていた。

その不機嫌な表情の方が、さっきまでの一人舞台の表情よりも随分としっくりきた。


「……こんな時に煙草なんて余裕だな。それともそんだけ魔力に自信がねぇのか?」


「あぁ?お前何言ってんだ?」


目の前に手のひら大の火球を創り出し煙草に火を点ける。

一つ深呼吸をして、紫煙を肺に満たす。

左手に煙草を挟んで、ゆっくりと紫煙を吐き出しながらメルヒオルを睨みつけた。


「こんなもん戦闘中に吸ってても大して変わるわけねぇだろうが」


「……じゃあやっぱり余裕なんじゃねぇかよ。舐められたもんだな」


ますます不機嫌度合いが強くなっている様だ。

今すぐにでも飛びかかってきそうなほどに殺気立っている。

だからわざと、ニヤリと凶悪に笑ってやる。


「いんや、余裕とは少し違うね。これが俺の格好の付け方だ」


「……意味わかんねぇ。……こんな時まで格好を気にしてんのか?……ふざけやがって」


メルヒオルが左右に足を開いて、両手を此方に突き出してきた。


「ふざけちゃいねーさ。こんな時こそ、男はカッコつけてナンボだろうが」


左手に持っていた煙草を再度咥える。

ロイドの真似事をして、足を大きく前後に開いて両手の拳を握り腰に添える。

煙草の灰が、ポトリと一つ床に落ちた。


「「……いくぞ」」

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