六日目 夜
六日目、夜
「……いらっしゃい」
「二人いいかい?」
「……適当に座りな」
「とりあえずオススメの酒とツマミを頼むわ」
「……あいよ」
黄昏時、少し早い時間だが酒場で飯を済ませる事にした。
理由は三つ。
一つ目はこっちが酔っ払ったふりをしたら少しは相手が油断をしてくれるかもしれない。
二つ目は夜中の方が何かしら行動を起こす場合に目立ちにくい。
三つ目は単純に腹が減ったから。
三つ目はオマケみたいなものだが、一つ目と二つ目くらいはロイドにも思いつく理由だろう。
「とりあえず此処でしばらく飲み食いして、時間を潰すか」
そう言って古い椅子に腰を下ろす。
ミシッ、と不吉な音が鳴った。
店内は如何にも古ぼけた酒場といった風情で、良く言えば味のある、悪く言えば潰れかけといった雰囲気が漂っていた。
今の所、唯一の救いはちゃんと掃除がなされている事だろうか。
飲食店として最低限度の掃除はしている様だった。
「何でこんなまどろっこしい事をするんですか?」
声をひそめてロイドが聞いて来た。
ロイドは店に入った理由に見当がついていない様で、思わず頭が痛くなる。
「昼間っから目立ってどうするよ。夜中の方が多少暴れても目立たんし、最悪酔っ払いの喧嘩って事で誤魔化して仕舞えばいいだろうが」
「さっすが頭がいい」
「まぁな」
酔っ払いの喧嘩で誤魔化されてくれれば良いがな。
「……へいおまち」
まだ早い時間ということもあり店内の客もまばらで、その所為か思った以上に早く料理と酒が運ばれて来た。
無愛想な親父が持ってきた料理を見てみると、肉を大量に揚げたやつと、肉を大量に焼いたやつと、壺みたいにデカイ入れ物に入った酒で、ガタンと荒く音を立てて食台の上に置かれた。
如何にも酒のつまみといった風貌で、かなり味が濃ゆそうだ。
「……ワイルドっすね」
「わいるど?」
またロイドが異国の言葉らしき言葉を発した。
最近は此奴が勝手に作った造語なのでは無いかと疑っている。
此奴がいったこともない国の言葉を話せるとは思えなかった。
「野生的で荒々しいって事ですよ」
「成る程。確かにわいるどだわ」
いくら体力勝負の冒険者とは言っても、この歳になると流石に胸焼けがしそうだ。
「んで、お前嫁さんと上手くいってんのか?」
ゴツン、とお互いに酒をぶつけ合わせ、クイッ、と一口煽る。
発泡酒なのだろうが酒は酸味が強く、更には冷えていない為余計に雑味が際立っている。
無言でロイドに酒を押しやると、単純馬鹿でも察した様で水魔法で酒を冷やし始めた。
「そりゃあもうバッチリと」
冷えた酒を此方に突き返しながらロイドが答える。
「そいつは良かったなぁ」
そう言って再度酒に口をつける。
うん、さっきよりかはだいぶんマシだわ。
「ただ……」
珍しくロイドが言い淀んだ。
少しばかり苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「……どした?」
言葉の先を促しながら煙草を咥える。
初めから灰皿が設置してあるということは、喫煙可なのだろう。
「当初と比べると気が強くなったなぁと」
なぁんだ、惚気かよ、と思いながら煙草に火を点ける。
今回の味は甘い香りとは裏腹に、苦み走った鋭い大人の味。
しかし後味はスッキリしていて不快感を残さない。
「尻に敷かれてるなぁ」
ハァッ、と紫煙を吐き出しながら答えてやる。
ロイドは食台に肘をつき、掌の上に顎を乗せて不貞腐れた。
「昔はもっと儚げだったのになぁ」
どうも此奴は女に対して未だに幻想を抱いてるらしい。
儚げなだけの女なんてこの世には存在しないのに。
「昔って程昔じゃねぇだろう」
「いやまあそうなんですけどね」
「いいんだよ。尻に敷かれとけ」
「えー」
仕方ないから慰めといてやるか。
そう思い灰皿にトン、と灰をを落とした。
「尻に敷かれといた方が上手くいくんだよ。男はどっしりと、嫁さんを下から支えときゃあいいんだよ」
「そんなもんすかね?」
まだ此奴はどこか不満顔だ。
女を引っ張って生きたい男としっかり者の女はどっちかが折れねぇと続かねぇぞ?
「あぁ、その方が嫁さんだって安心して動けるだろうが。男がでしゃばるのは、嫁さんがヤバイ時だけにしとけ」
こういう奴らには、普段は折れといてやれと言った方が上手くいく。
……と、昔お師匠さんが言っていた。
「……了解です。にしてもおっさん、まるで経験してきたみたいな言い方ですねぇ」
「お前とは人生経験が違うんだよ」
全部お師匠さんの受け売りだけどなぁ。
独白は心の中だけにしまっておく事にした。
きっとその方がカッコ良く見えるだろうから。




