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煙草と魔法と格闘技〜固茹で卵気取りの転生譚〜  作者: ラーク
三章 太陽堕としと過去のしがらみ
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五日目 昼 其の二

五日目、昼 其の二


突然の咆哮に身構える。

辺りを見回すが、音源らしき奴は何処にも見当たらない。


「なんか居ますね」


立ち上がって身構えていたロイドは、あっさりと闖入しようとする者の居場所を突き止めた様だ。

先程から何かの咆哮と、地響きとバキバキと気が折れる音が此方まで届いてはいるが、未だその姿は見当たらない。


「あそこですよ」


そう言ってロイドが指差す方向に目を向けてみるが、何も見て取れない。

こいつの目は鳥程も良いのかもしれない。


「……どんなやつだ」


諦めてロイドに直接聞くことにした。

俺も立ち上がってロイドの横に並ぶ。


「……ムキムキのデカイ猿っぽいやつです」


「色は」


「赤い毛に黒い肌」


赤い毛に黒い肌のデカイ猿には心当たりがあった。


「暴虐巨猿だな」


「どんなやつですか?」


ロイドが興味深そうに此方を見てきた。

あえてジト目で見返してやった。


「雑食、大食い、凶暴、馬鹿力。どっかの誰かさんにそっくりだ」


「了解です。俺の獲物ですね」


ロイドが立ち上がると、体が青く光りだした。

いつもの魔法の三重掛けだろう。

よくもまぁこんな使い方をして魔力と集中力が持つもんだと思う。

そして口元には凶悪な笑み。

何処をどう見ても、悪者にしか見えない。

だが少なくとも、弱者の笑みではない。


「任せた」


そう言って俺は十歩程後ろに下がる。


「任されました。楽しんできますよ」


……戦闘中毒者。


嫁が出来て落ち着いたが、こんな所は全く変わっていない。

暴虐巨猿は此方がつまらん事を考えている間に随分と近づいてきた様だ。

意外と速い。

一歩がでかいのと、筋力があるのだろう。

もう既に、目に見える程度には距離が近づいていた。


「ギョァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


暴虐巨猿が叫ぶ。

まるで鍛冶屋で聞く鉄を鍛える音を百度重ねた様な甲高い気味が悪い音。

此方を敵とみなして脅しにきているのだろう。

もしくは挑発でもしているのか。

それに対してロイドも叫ぶ。


「アァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


「うぉっ⁈」


耳の穴を指で押さえていても、ロイドの声が馬鹿でかすぎて耳の奥に衝撃が走る。


……どこの世界に暴虐巨猿に咆哮対決する人間がいるんだよ。


そんな事を考えていると、暴虐巨猿の速さがグンと増した。

暴虐巨猿が走る度に地響きが発生する。

ハッキリと姿を現した。

其の姿は巨大の一言。

身長はロイドの二人分、体の厚みは計り知れない。

とにかくデカイ筋肉の塊みたいな体に、人の頭五個分はあるだろう、デカイ頭が乗っている。

その表情はやたらと楽しそうで、凶悪な牙を覗かせながらニヤニヤと笑っていた。

そんな奴が四足歩行で猛烈な速さで走って来る。

俺には悪夢にしか思えない。

そしてここまであと十歩の所で突然消えた。

咄嗟に上を見上げると、敵は随分と小さくなっていた。


……よくもまぁ自前の筋肉だけであんなに高く飛べるもんだ。


思わず感心していると、暴虐巨猿は高々と両手を上げた様だ。

落ちてくる勢いに任せて、両手を上から叩きつけようという魂胆なのだろう。


……だけどなぁ、素人目に見ても其奴は悪手だと思うんだがなぁ。

……それじゃあ避けれないだろうが。


ロイドはここに来て半身になった。


「ッッッツショルゥァアアァア!」


ドゴン!と大きな音。


まるで隕石でも空から落ちてきたのかという程のデカイ音。


その音に合わせて、土煙が舞った。


視界が晴れて見えたのは右足で踏み込み、左足を大きく振り上げているロイドと、両腕が潰れて吹き飛んでいる暴虐巨猿。


ロイドの足は地面にめり込んでいた。

それなのに自動回復特有の白い光が体を包んでいない。

つまりあれだけの衝撃を受けても、体に傷一つ付いていないという証拠だ。


……また更に頑丈になったんじゃあねぇか?


両腕から血を吹き出している暴虐巨猿は、まだ生きているはずなのにピクリとも動かない。

衝撃で意識が飛んでいるのか、それともありえない光景を見て茫然自失としているのか。

どの道、どちらが強者でどちらが弱者なのか、子供が見てもわかるほどに強さの差が見て取れた。


「なんだよこんなもんかよ」


ロイドがつまらなさそうに呟く。


「そりゃあテメェは黒鬼人と殴り合いするんだから、猿なんてかなうわけねぇやな」


さっすが青鬼だ。


「……もうちょっと楽しめるかと思ったんですがね。……じゃあな」


グシャリという音と共に、巨大な頭蓋骨が原型をとどめないほどに、ロイドの右足で潰された。


「お疲れさん」


労ってやると、ロイドはまだ欲求不満そうな顔をしていた。


「そんな顔してんじゃねーよ。ほれ」


そう言ってロイドの口に煙草を突っ込んで火を点けてやる。


「……あざす」


紫煙を吸い込んだロイドは、幾らか気分が晴れた顔をしていた。

煙草一本で機嫌が直るならば安いもんだと思った。


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