四日目 昼
四日目、昼
一通り確認して、下山する事となった。
空は朝と変わらず鉛色。
パラパラと、強くはないが雨が降っている。
俺は青鬼宅急便の世話にはならず、あえて歩いていた。
彼奴の肩の上に乗っていては、気持ち悪くて何も考えることができない。
だから暫くの間歩いて下山しようという事になった。
しかしいざ歩きながら考えてみるが、どれもしっくりこない。
俺の中の彼奴の印象は三十年前で止まっている。
三十年前の彼奴なら、絶対にこんな意味不明な事はしないだろう。
それともこの三十年の間に彼奴の人格でも変わってしまったのだろうか。
そう思って自分の事を考える。
……三十年もあれば人間変わるなぁ。
しみじみとそう思ってしまった。
しかし、と思い直す。
俺はともかく、彼奴は当時三十代前半だった筈。
大人の性根なんて物はそうそう変わるとは思えない。
体が疲れているせいかいまいち思考がまとまらなかった。
「ちっと休むぞ」
「へーい」
ちょうど良く、道中に巨木が植わっていた。
この巨木の下で雨宿りしながら休憩を取る事にした。
デカイ、地面にむき出しになった根っこにもたれて深々と溜息をつくと、どっと疲れが押し寄せてきた。
もう立ち上がりたくも無い。
ぐったりしたまま煙草を咥えて、火を点けないまま思考を巡らす。
「……どういうことだと思いますか?」
「……お前はどう思うよ」
ロイドは背中を巨木に預け、咥え煙草で首を少し右に傾けて空を見上げていた。
雨模様の空で巨木の下という事もあり、ジリジリと煙草の火種が赤く光るのがよくわかった。
「じぇえんじぇんわかりません」
むはっ、と紫煙を吐き出してそんな事を言ってきた。
「……お前は考える気がねぇだろう」
「失敬な。一応考えたんすよ?」
そう言ってとん、と人差し指で煙草を叩いて灰を落とした。
「でもまーったく駄目。なーんも思いつきません。だって意味不明ですもん」
「……何で意味不明だと思うんだ?」
「だってですよ、あそこにいる奴らは殆ど役に立たないでしょ。鎧も武器も実戦用じゃ無いみたいですし、自己主張は滅茶苦茶やってますけど何か見せかけというか。やる気満々には見えなかったんですよねー」
この青鬼様は思った以上によく観察していた様だ。
あるいは冒険者としての経験か、野生の勘か。
多分野生の勘だろう。
「……そうか、意外とお前も考えていたんだな」
「だからひでーっすよ……」
ロイドの言い分を無視して煙草に火を点ける。
深く吸い込むと、紫煙が疲れた体の隅々まで広がっていく感じがする。
溜息と共に紫煙を吐き出すと、風向きのせいか全部煙が顔にかかってしまった。
「……普通ならだ、一、金目的。二、何か別の物を採取、もしくは隠蔽しようとしている。三、戦争の口実に。このどれか何だがな。だが今回はどれも可能性が薄い気がすんだよなー。一生懸命塩を採取している様子も無いし、コソコソとしている奴らもいなかった。戦争の口実にしては何処か消極的。他に何か思いつく事はねぇか?」
「ただのかまってちゃんとか」
「アホか」
そう言って今度は浅く、紫煙を吸い込む。
風向きのせいで、一欠片の灰が顔に当たった。
熱かった。
ついてねぇと思いながら紫煙を吐き出す。
とにかくこのまま目的がわからないと何もできない。
こういう時は他の誰かを頼るしか無いだろう。
少なくともこれ以上二人で考えていても拉致があかないと思った。
「とりあえず辺境伯に報告連絡相談だ。何か出てくるかもしれん。行くぞ」
疲れた体に鞭打って、裂帛の気合いと共に一気に立ち上がる。
横を見るとロイドがじっとこっちを見ていた。
「……何だよ?」
「やっぱ一人二人捕まえて来ましょうか?」
「面倒臭い事になるから駄目だって言ってるだろうが」
溜息と紫煙が混じり合って、山の風に紛れていった。
今回の旅で間違い無く溜息が増えたと思う。




