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「さて、改めてだ。俺はニック。特技は火魔法、特に広域殲滅が得意だ。とにかく火力なら任せろといったとこか」
「ご丁寧にどうも。私はロイド、特技は「お前さんの自己紹介はいらねーよ?」
と、途中で中断されてしまった。
「2.3日前にこの街に寄ったんだがな、お前さんの噂で持ちきりだ。とんでもない速さでランクが上がってる、変わった鬼がいるってな」
「…一応人間なんですが?」
「みんな口を揃えて強い変わった青鬼だと言ってたぜー」
「…あまりその二つ名は好きじゃないんですがね」
「いいじゃねーか強そうで。やっぱ変わったやつだなー。あとその喋り方。もっと砕けて構わねーから楽にしろ」
「了解、わかりましたよちょび髭のおっさん」
「いきなりひでー言い草だな⁉︎」
「そっちが楽にしろって言ったんでしょーが」
「…それが生来の本性か?」
「…偉い兄をもっと大変なんですよ。いらんことして足を引っ張るわけにもいかねーですしね」
「頭がいい兄弟を持つとそんな苦労があるんだなー。で、もう行くか?どっか寄るとこあるか?急がねーと3日に間に合わんぞ?」
「とりあえず飯だけは食わしてもらえませんかね?さっき戻ってきたばかりで何も食ってないんですよ」
と、言うことでいつもの行きつけの飯屋に入る。
この店は窓際の席ならば喫煙可なので重宝している。
おっさんと二人で入店し、顔見知りの店員に挨拶をし、いつもの窓際の席にどかっと座っていそいそと煙草を取り出していると、「おっ」という声がした。
何事かと思いそちらに目を向けると、おっさんが懐からポーチのような物を取り出した。
ポーチの口を開けると、今度はこちらが「おっ」と声をあげてしまった。
中身はまさかの魔力煙草だった。
「俺の一本やるからお前の一本くれ」
何となく一気に親近感が湧いた瞬間だった。
お互いの煙草を吸っていると、
「若いのに煙草に手を出すのは珍しいな?」
と、言われてしまった。
「まったく抵抗がなかったんですよねー。きっと前世から吸っていたんでしょう」
地味に衝撃の事実を混ぜで答えてみると、
「ガハハハ、違ぇねぇな。俺もそんな気がするわ!」
そんなくだらない会話をしながら食事をし、お互いに購入しておく物が食料だけという事を確認して店を出た。
近くの肉屋で干し肉を2人前、2日分購入し、鬼人逹が発見された洞窟につながる南門を目指して歩く。
途中で顔見知りのガキ共に絡まれながら歩いていると
「人気者だなぁ、青鬼さんよー」
と、少しおちょくる様な声色でおっさんが話しかけてきた。
「そういえばおっさんはなんでこの街に?」
そう聞くと
「前の街からは逃げてきた」
と、かなり意外な返答が返ってきた。
「理由を聞いても?」
「理由は単純でな、二股かけてたらそれがばれてな。2人からころされかけた」
「おいおっさんそれは流石に駄目だろう人間の屑が」
「急に手厳しくなったなコンチキショウ!」
「当たり前だ。完全に自業自得じゃあねぇか」
「いや、言い訳する訳じゃないんだがな、2人共俺は本気だったんだ」
…こんなのの何が良いんだか。
そんなくだらない事を考えながら、思考とは対照的な、死ぬかもしれない激戦へ向かって足を進めていった。