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煙草と魔法と格闘技〜固茹で卵気取りの転生譚〜  作者: ラーク
三章 太陽堕としと過去のしがらみ
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四日目 朝

四日目、朝


ゆっくりとした目覚め。

一瞬、ここは何処だと思った。


何で地面がこんなに柔らかいのだろう。

何で洗った枕の匂いがするんだろう。

何で寝返りをうっても痛くないんだろう。

何で虫がいないんだろう。


混乱した頭の中、やっとの事で辺境伯の館にいる事を思い出した。

ふかふかの質感なんてここ最近味わってなかったせいか、泥の様に眠ってしまった。

それこそ混乱してしまうくらいに。

現状把握ができても、まだ頭がはっきりと覚醒していない。

暫くぼーっとして過ごした。

これがどれくらいの時間だったのか、長かったのか短かったのか、自分でもよくわからない時間ぼーっとしていた。

そして何となしに寝転んだまま煙草を一本咥えた。

そして丁度火をつける前に女中が入室して来た。


「煙草は起きてからにしてください。火種が落ちて燃えたらどうするんです?」


女は開口一番に小言を言って来た。

そしてこいつは俺の事を見張っているのだろうか。

そうとしか思えない時機に入ってきやがった。

そして悲しいかな、こいつの小言に対して慣れて来た気がする。

のっそりと起き上がって、おっそろしい顔をした女中を見上げる。


「はい、すみませんでした」


ここは素直に謝っておこう。

流石に今のは俺が悪い。


「申し訳ついでに豆茶を持って来てもらえねぇか?」


「かしこまりました」


女中は一礼して、音も無く退出していった。

案外あの女も、何かしらの使い手なのかもしれない。

でなければ、あの無愛想を通り越した態度でお客様付きの女中だなんて笑い話にしかならない。

きっとあの女の本来の使い方は荒事用なのだろう。

女が退出している間、火をつけてまたぼーっとして過ごした。

何と無く思いついて、ぱっと紫煙で輪っかを作ってみた。


うん、上出来。


一人悦に浸っていると、女が豆茶を持って来た。

昨日とは違う香りだ。


「昨日のと豆が違うのか?」


「よくわかりましたね。そんな匂いの強い物を吸っているのに」


あぁ、きっとこの女は煙草が嫌いなのだろう。

だから俺らに対して態度が悪いのだと、勝手にそう解釈して、そしてそれがしっくりきて納得してしまった。


「人生で二番目にたくさん飲んだ飲み物が豆茶なんだ。流石に香りくらいはわかるさ」


そう言って紫煙を吸い込む。

短くなった煙草が、右手の人差し指と中指を炙ってきた。


「ちなみに一番飲んだ飲み物は何ですか?」


「そんなもん、酒に決まってるだろうよ」


「……なるほど、ダメ人間なのですね」


手厳しい。

でも否定もできない。

はぁ、と溜息で返事をして、指を炙っていた煙草を灰皿に捻って押し付けた。













一通り身の回りの準備をし、その後しばらくしてから朝食に呼ばれた。

その場には辺境伯の姿は無かった。

既に仕事に入っているらしい。

流石にできる男は俺と違って勤勉らしい。

ロイドの前には、相変わらず見るだけで胸焼けがしそうな程に朝飯が盛られていた。

俺は軽く、ロイドは腹一杯食事をして席を立つ。


「さって、行きますか」


「はぁ、……またお前に乗んのか」


「いつでもしっかり安全運転、青鬼宅急便です」


「アホか。俺は物かよボケ」


そんな軽口を叩き合いながら屋敷を出る。

空は相変わらず鉛色の空。

ポツポツとではあるが雨も降っている。

ついてねぇなぁ、と心からそう思う。

早く終わらせて家でゴロゴロしたいとも。

この仕事が終わったら冬まで仕事を休もうと心に決めた。

暫く青鬼宅急便に揺られて、カネミネ山に到着した。

そしてとりあえず吐く。

段々と吐く事に慣れてきてしまった自分が悲しい。

しかし山の上だからかいつもより頭が痛い。

最悪だ。


「……ロイド、頭の方も頼むわ」


「……頭は良くできないっすよ?」


「……馬鹿はお前だろうが。痛いから治せってんだ」


「あぁ、そういう事っすね」


まったく、……此奴は何で変な所で抜けてんだか。


そんな事を思いながら治療が終わるのを待つ。

治療は一瞬で終わった。

相変わらずの腕だと、これだけは尊敬してやる。


「……あー、きちぃ」


「貧弱っすねー」


「鬼と一緒にしてんじゃねーよ」


「そんな事よりもですよ、見えますか?」


「ンア?」


ロイドの指差す方を見やると、微かにだが人影の様なものが見える。


「……もうちっと近づかねぇとわからんな。行くぞ」


「へーい」


暫く岩陰に隠れながら進んで塩湖へと近づく。

ゴツゴツとして歩きづらい。


……鈍ってるなぁ。


そんな事を思いながらロイドの後をついていく。

流石に肉体派の青鬼様はこの程度はものともしないでスイスイと歩いていく。

俺なんかとは鍛え方が全然違うのだろう。


……年、取ったなぁ。


あそこまでではないにしろ、十年前ならもう少しまともに歩けたと思う。

そろそろ冒険者稼業も潮時かなと思った。

そんな事を考えているとロイドが立ち止まり指をさした。

その指の向こうを見ると、確かに騎士団が取り囲んでいる。

しっかりとクマナヴァ王国の紋章が描かれた鎧まで着用して。


……何が目的だ?


何と無くわざとらしいと感じた。

わざわざ紋章付きの、儀礼用の鎧まで着ていなくても良いのではないかと思う。

それ以外にも複数箇所にデカイ旗を立てている。

空想上の黄金鳥を描いた国旗。

クマナヴァ王国の国旗であった。

これは一体誰に対して、どの様な意味のある主張なのだろうか。

過剰なまでに挑発してきている。

彼奴は本気で戦争でも起こす気でいるのだろうか。


……こりゃあ本気で気を引き締めないといかんな。


そう思って調べる範囲で不審な動きや不審な物が無いかの調査を行う。


「めんどくさいから一人拉致ってきたらダメですか?」


筋肉馬鹿がまた馬鹿な事を言い出した。

国際問題になるだろうに。


「後始末が面倒だし、拷問も面倒だ。」


難しい事を言っても無理だろう。

あえて面倒臭いと、簡単な理由でロイドの提案を濁した。


それにしても、ギュンターよ。お前は何を考えているんだ……?

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