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煙草と魔法と格闘技〜固茹で卵気取りの転生譚〜  作者: ラーク
三章 太陽堕としと過去のしがらみ
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三日目 昼

三日目、昼


「オロロロロロロロ……」


「はいはい、痛いの痛いの飛んでけー」


「……うぃー、生き返ったー」


「なんか二日酔いのおっさんみたいっすね」


「……だから俺が気持ち悪くなっているのはお前のせいだろうが」


此処まで数度やってきた掛け合いを終えて顔を上げると、そこには立派な街が広がっていた。

辺境伯領の中心にある街、トゥーカイ。

その入り口に、今俺達は立っていた。


「予定通り、速く着きましたね」


「……あんな無茶をしてたらそりゃあ速くもなるさ」


おかげであの世に行くのも早まった気がする。


トゥーカイの街並みは流石に侯爵領程では無いが、十分栄えていると言えるだろう。

色が決められているのか赤い屋根に白い壁で統一された建物がズラリと並んでいて、なかなかの風景になっていると思う。

それに雨が降っているというのに、街に行き交う人々も生き生きとしており、活気がある。


……みんな元気だなー。


そんなくだらない事を考えながら歩いていると、横からロイドが声をあげた。


「どうします?直で行きますか?」


「いんや、とりあえずどっかで煙草吸いてぇわ。ついでに豆茶」


「じゃあどっかの店に入りますかねー」


「普通のところだぞ、いいな?」


「へーい」


そう言って適当な飯屋に入ると、そこは落ち着いた雰囲気の、あまり荒事を好む様な奴らが寄り付かない、ちょいと敷居と値段がお高めの店のようだった。

昼飯時から少しずれている為、客は少なそうだった。


「いらっしゃいませ」


「ここは煙草吸えるか?」


「あちらの席ならば大丈夫ですよ?」


そう言って案内された席は道側の壁を取り払って外に作られた席で、思いっきり通行人からは丸見えの席だった。


「……こりゃまたお洒落な」


そうロイドが茶化す様に声を上げる。


……仕方ねぇか。


「ここでいいわ。豆茶を二つ頼む」


そう言ってどっかりと席に座る。

ダラダラと煙草を咥えて火をつける。

立ち上る紫煙がユラユラと雑踏に紛れていった。

移動中はロイドの肩に担がれていただけなのに何故かやたらと疲れていた。


……あぁ、立ちたくねぇ。


そう思ってぼけぼけとしていると、店員が豆茶を持って来た。

いい値段がする癖に量はちょいと少なめ。

これで不味かったら文句言ってやると意気込みながら一口啜ると、残念ながら思いの外美味かった。

苦味も渋みも丁度いい。

もう少しコクが欲しかったが。

紫煙を一口吸い込むと、何とも言えない味が口の中に広がった。

フゥッと細く、少し上に向かって紫煙を吐き出して、もう一口豆茶を啜る。


うん、悪くない。


そう思ってロイドの方を見やると、豆茶に砂糖を入れていた。


「あれ?お前甘党だっけか?」


「……個人的には砂糖入れたが好きなんです」


「……お子ちゃまめ」


「……ほっといてください」


何と無くバツが悪そうだ。

仕方がないから、今度から移動の荷物の中に砂糖を準備しといてやろうと思った。

この後お互いに豆茶を追加した。







「さて、やって来ました」


街中でも一等デカくて立派な屋敷、つまりはマイセン辺境伯邸に到着した。

マイセン辺境伯邸も他の建物と同じく、赤い屋根に白い壁と統一されていた。

唯一違うのは邸自体がデカイのと、その邸を大きく囲む様に、これまたデカイ壁が遮っていた。

これはなかなか進入できないだろう。

おそらく、有事の際にはこの中が緊急避難先になるのだろう。

そしてこの邸の門も馬鹿でかい。

大人が十人、横に並んでも出入りできるだろう。

その立派な門の前にいた二人の門番のうち、細い方に話しかけた。

もう一人はデカくて鈍臭そうだったから除外した。


「失礼」


「どちら様で?」


「ウォルグリーン侯爵専属冒険者のニックと言う者だが、マイセン辺境伯様に取り次ぎを頼みたい。こいつが紹介状だ」


そう言って紹介状を渡すと、封蝋を確認してこちらを見上げた。


「……確かに。少々お待ちを」


そう行って細い方の門番が邸内へと消えて行った。

暫く門の前で待たされると、細い門番が年老いた家令を伴って来た。

家令は年の割に背筋がピンとしており、足取りにも怪しいところはない。


「ようこそいらっしゃいました。私、キリランシェロと申します。皆様のご案内をさせて頂きます。どうぞこちらへ」


そう言って中に入って行く。

歩く時も足腰がしっかりしているのか、歩みが乱れない。

そして足音がほとんどしない。

おそらくはその手の仕事をしているのだろう。


「あの爺さん、かなりの手練れですよ?」


脳筋のロイドがそう言うならば、間違い無いのだろう。

老執事に連れられて、ふかふかの絨毯の上を歩く。

この絨毯、ふかふかすぎて躓きそうだ。

辺境伯の趣味なのか、それとも敵が侵入した時に少しでも時間稼ぎをする為に歩きづらくしているのだろうか。

実際躓きかけてしまった。

大きな階段を一度、小さな階段を二度上がって立派な扉まで案内される。

家令が二回扉を叩くと、少し甲高い声で「どうした?」と聞こえた。


「お客様をお連れしました」


「入ってもらえ」


そう返事があった後、老執事が扉を開けて中に入る様に促す。


「失礼します」


一言断り中に入ると、執務室の机の住人は立ち上がって出迎えてくれた。

そしてこの男の第一印象は、俺の思っていた辺境伯像とは違っていた。

辺境伯と言うからにはがっしりした体型の、鋭い目つきをした、覇気に満ちた男だと勝手に思っていた。

しかし実際は真逆で、ガリガリで、髪の毛は白髪混じりで力強さは感じられない。

予想が当たっていたのは、性別と目つきだけ。

目つきだけは辺境伯にふさわしく、ギラギラとした油断ならない目つきだった。


「初めまして。ようこそおいで下さいました。私、クリストファー=マイセンと申します」


男が甲高い声で自己紹介をして来た。

何故だろうか、何処か怪しげて底が見えない。

きっと清濁併せ持った、やり手のお貴族様なのだろう。


「初めまして。私はニックと申します。あちらにいるのが相棒のロイド。以後、お見知り置きを」


マイセン辺境伯の眉毛がピクリと動いた。

きっと、所詮冒険者、粗暴でガサツと思って侮っていたのだろう。

概ね間違いではないが、その印象は俺には該当しないだろう。


「……お噂はかねがね聞いておりますよ。太陽堕としさんに青鬼さんですね?」


何が面白いのかクスクスと、右手を口元に持って行き笑っている

ちょっと気持ち悪い。


「それにしても随分とお早いお付きで」


「……かなり無茶をしましたんで」


「……無茶ですか?」


「相棒に担がれて、強化魔法を使って全力疾走でここまで来ましたよ」


「……は?」


何言ってんだこいつは、みたいな顔をしてこちらを見ていたが、俺の顔を見て本当だと思った様だ。


……俺は今、いったいどんな顔をしているのだろう。


「……お疲れ様でした」


可哀想な子を見る様な目で見られてしまった。


「いいえ、大丈夫です」


「大丈夫そうな顔色はしていませんが?」


顔色まで悪いらしい。

だが今大事なのは他の事。

俺の顔色なんてどうでもいい。

面倒事はとっとと終わらせてしまいたい。


「大丈夫です。それよりも依頼の件をお聞きしたいのですが?」


そう言うと、マイセン辺境伯は眉をキュッと寄せて、左手を右肘に、右手を右頬に持っていき、悩ましげな表情をした。

仕草がいちいち女みたいだ。


「……ある程度予想はされているとは思いますが、依頼はクマナヴァ王国との領土問題の件です」


やはり領土問題。

しかし単純な領土問題ならば冒険者なんて不要だろう。

俺らが呼ばれたという事は、何かしらの荒事が起きているのだろう。


「領土問題、という政治的な問題ならば私達はあまり意味が無いと思われるのですが?」


「いえ、確かに単純な領土問題ならばこちらの領分なのですがね。今回はちょっと荒事になってまして……」


ここで言葉を切った。


「……クマナヴァ王国が、共有地であるカネミネ山のゼンジェヅ塩湖を取り囲んでしまったんです。騎士団を使って」


……何をやってるんだよあの馬鹿は。


頭がくらくらする。

気が遠くなりそうだ。


「おっさん?あれ、おっさん?ちょ、おっさんってば⁈」


あれ?何か視界が真っ白に……。


ドスンと背中と頭に衝撃。

ここで記憶が途切れてしまった。

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