二日目 昼
二日目、昼
「オロロロロロロロ……」
ロイドによる強制人外動作体験で死にかけた。
折角朝の二日酔いが治ったのに、またこんな目にあうとは。
朝飲んだ豆茶が台無しだ。
「あらー、おっさんたら乗り物酔いっすか?」
だから何があらーだよ。
「……早……ウップ……く……治せ……オェッ……」
「はいはい」
そう言って吐いている俺の頭を掴んで魔法をかけてきた。
一通り吐き気が治った後、振り向きざまに思いっきり拳骨を落とした。
あっさりと避けられてしまったが。
「避けんじゃねーよ」
「いや、普通避けますって。なんですかいきなり?」
「何ですかじゃねーよ!死ぬかと思ったわ!」
「えー、でも速かったでしょ?」
「速けりゃいいってもんじゃねーよ!この脳筋が!」
「脳筋は否定しませんけど。所でここ何処です?」
「俺が知るか!」
「落ち着いてくださいって。豆茶を奢りますから」
たどり着いたのはウォルグリーン領の端にある街だった。
適当な広場の様な場所で、豆茶を買いに行かせたロイドを待っている間、でかい木の下で雨宿りしつつ煙草を吸って時間を潰す。
渋みが強め、香りが強く結構癖のある煙草だった。
雨のせいで全身ずぶ濡れだが、例え風邪をひいてもロイドの魔法てどうにかなるだろう。
広場から見た街は、領地の端にあるにしてはソコソコ栄えている様だった。
ソコソコ人通りが多く、ソコソコ活気があり、ソコソコ小洒落ていて、ソコソコ笑顔で溢れていた。
少なくとも、食い詰めているわけでは無さそうだ。
そんな事を思いながら煙草を咥えていると、風向きが変わって紫煙が目に飛び込んできた。
……しみる。
「買ってきましたよー。あれ?どうしたんすか涙目で」
「何でもねーよ気にすんな」
そう言って薄眼を開けて豆茶を受け取る。
軽く香りを嗅いで、一口啜る。
安もんだな、と思った。
それでも暖をとる事ぐらいはできる。
雨で熱を奪われた手のひらが、ほんのり温かくて心地いい。
「飯、如何します?折角だから洒落た所に行ってみますか?」
「あぁん?何で男とそんな店に行かないといけねーんだよ」
「俺が嫁さんと遊びに来た時の予行練習です」
「じゃあお前の奢りな」
そう言って適当にオシャレそうな店に入った。
そしてすぐに後悔した。
内装は華やかな色合いで目がチカチカする。
店員が来ている服はやたらとフリフリしたやつが付いていた。
中にいる客はカップルか女のみ。
こっちは男二人。
しかもおっさんとチンピラ顔。
場違いすぎて死にそうだ。
「……出るか」
「いやちょっと待ってください。こういう所、女は好きじゃないですか。もちっと我慢してもらえませんか?」
思わず溜息を吐いてしまう。
「いらっしゃいませー。こちらへどうぞ」
フリフリした奴をつけた店員に捕まってしまった。
仕方なしに案内された席に座る。
「ご注文は?」
また別のフリフリしたやつを付けた店員が注文を取りに来た。
笑顔が引きつっている。
「適当に人気のあるやつを三つ」
「……三つですか?」
店員が訝しげな顔をした。
溜息を一つ吐いてロイドを指差す。
「こいつが一人前で足りると思うか?」
「ひでーっすよ」
実際足りないだろうが。
「オススメを三つですねー。少々お待ち下さーい」
店員が奥へ引っ込む。
視線を感じ周りを見渡すと、他の客達がこっちを見てヒソヒソしていやがった。
何で俺が見世物にならなきゃいけねーんだよ。
そう思ってまた一つ溜息を吐いた。
やっぱりこんな店は落ち着かない。
例え女連れでも落ち着かないだろう。
おっさんには少し、この店の敷居は高かった。
そして更に悲劇が追い打ちをかけて来た。
「お待たせ致しましたー」
そう言って店員が持って来たのは、やたらと甘い匂いを発した、よくわからない、いろんな菓子の盛り合わせだった。
「あと二つお持ちいますねー」
そう言って店員が離れていく。
「……どうすんだよ、これ」
周りの客達がクスクスと笑っているのがわかる。
「俺が全部食いますよ。甘いの好きなんで」
そう言ってモリモリと菓子の盛り合わせを食べ始める。
また周りの客達が、ヒソヒソと話し始めるのがわかった。
……こりゃあ俺まで笑い者になってるな。
やっぱり雨の日はついてなかった。
そして街を出るとまた、甘い匂いを発した青鬼による強制人外動作体験が始まった。
俺は無事に辿り着けないかもしれないと、人生で一位二位を争う程危機感を抱いた。




