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ギルマスの後ろをついて行くと、「応接室」のような所に連れて行かれた。
中には先客が1名、ローブに身を包んでいるにも関わらず、はっきりとわかる細身で、神経質そうな顔をした、ついでに胡散臭いちょび髭を生やした、見るからに魔法使いとわかる中年男がいた。
「彼の名前はニック。火魔法専門の冒険者で、君と一緒に指名依頼を行ってもらおうと思っている」
「俺はまだ一言も受けるなんて言ってないんですがねー」
ニックと言う男が、実にやる気のなさそうに、眠たげな瞼を擦りながら答えた。
ソファーにも浅く座り、全力で背もたれに身体を預けている。
「君達には是非とも受けてもらいたいと思っているよ。さあ、ロイド君も座ってくれ」
「失礼します」と答えて椅子に座ると、ニックが眠たげだった目を見開き、こちらを興味深そうに眺めてきた。
「へぇ、お前さんが噂の青鬼かい?」
実際興味があった様だ。
「噂ですか?」
「あぁ、一人で拳闘、補助魔法、回復魔法を使う変わり者がいる。しかも滅法強いらしいってな。一度会ってみたかったんだわ」
「変わり者ですか?」と聞こうとしたが、
「親睦を深める前に、依頼の話をしてもよろしいでしょうか?」と言う声に会話を中断された。
「申し訳ないですがこちらも少しばかり、急ぎの話でして。結論から申し上げると、ゴブリンの巣と鬼人が確認されました」
「そいつは穏やかじゃないな。何人消えた?」
「村一つ。何人喰われて何人攫われたかはわかりません」
「何故俺逹に?通常鬼人ならばAランクパーティーの仕事では?」
「理由はAランクの者が現在侯爵領に居ない為です。ですのでこの街を拠点に活動しているBランクのロイドさんと、たまたまこの街に立ち寄っていたBランクのニックさんに行ってもらいたいと」
「報酬は?」
「討伐後にお伝えするそうです」
「…随分と眉唾じゃあねぇか?」
「依頼人は侯爵様御本人です」
「げっ…つまり断ったらお貴族様に睨まれるってことじゃねぇか」
「ですので受けてもらいたいと思っているのです。ロイドさんには財務部長のレイド様からお手紙を頂いてます。お知り合いで?」
「………………兄です」
「…それはそれは」
「…兄貴が官僚やってんのにお前何やってんだ?」
何と返答すれば良いかわからずに、受け取った手紙を広げる。
文章は短く、簡潔、「5年前の1000G」とだけ書いてあった。
横から覗いてきたニックが文章を読み、5年前に何があったのか察した様子で俺の顔を見て、フッと少しバカにした苦笑いをかましてきた。
…ちょっとやなやつかもしれない。
「…依頼、お受け致します」
「俺も受けるぜー。今回の依頼は退屈しなさそうだ」
「ではお二人とも、よろしくお願いしますよ。期限は3日以内。強行軍になるとは思いますが、頑張ってください」
こうして今後長い付き合いとなる、ニックとの初の合同依頼が決まった。