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突風と鎌鼬に揉まれながらゴロゴロと転がる。
流れに逆らうようなことはしない。
逆らえば逆らう程、体への負担になってしまう。
……なんか前にもこんな事があったなぁ。
あの時は風魔法じゃなくって火魔法だったけど……。
遠くでおっさんが、「一回経験してて良かったじゃねぇか」とニヤニヤしながら言ってきた気がした。
……良かった訳ねえだろうが。
心の中で毒づく。
竜巻と鎌鼬が混じった様な暴風が止んだ為、立ち上がろうとしたが全身に痛みが走った。
あーあ、見事にズタボロ。
自動回復で治っていってはいるが痛いものは痛い。
全身の切り傷はまだ完治はしていないが、先程よりかはマシだと我慢して立ち上がり、周りを見渡してみる。
チンピラの最後っ屁のせいで、汚かった裏路地はゴミ一つなく綺麗さっぱり片付いていた。
凄い威力だ。
おそらく全ての魔力を使ったんだろう。
何故そんな事をした?
あの男自身のプライド?
それともラックベインの人徳?
どの道しっかりと気を引き締めなければ。
そんな事を考えながら、面倒臭いと溜息をつく。
前者ならば本部の奴らは気合が入っていることになるし、後者ならば最悪組員共が死兵と化す。
どっちにしても気が滅入る。
ここに来て難易度がぐっ、と高くなってしまった。
はぁ、とまた溜息。
それにしても、服がボロボロ。
これじゃあ浮浪者か露出狂だ。
三度目の溜息をつき、如何するかと考えながら煙草を弄る。
見事に煙草までズタボロになっていた。
「あーあ……最悪」
はぁ、と四度目の溜息をつく。
「どうぞ」
火のついた煙草が差し出された。
気がきく奴もいるもんだ。
「どーも」
一口吸うと、苦味と甘い香りが広がる。
「うまいね、これ」
「でしょう?私はいつもこれでして」
ここで初めて男の方を見た。
黒髪黒目、中肉中背。
だが立ち振る舞いから、服の下は筋肉で引き締まっているであろう事がうかがえる。
顔は面長でちょっとしゃくれている、咥え煙草の男。
「……ひとまず初めまして。あんたがラックベインで間違いないよな?」
「ええ。そういう貴方は青鬼さんで宜しいですか?」
「青鬼じゃなくてロイドだ」
「これは失礼を」
全くだ。
「……んで、大将自ら何のつもりだ?」
随分とフットワークの軽い大将もいたもんだ。
そしてそんな奴は個人的には嫌いじゃない。
今回は殺すけど。
「提案をしに来ました」
「提案?」
という事は……、
「手打ちにしませんか?」
予想通りの提案をしてきた。
そしてとっても嘘くさい。
「さっきまで殺る気満々だったじゃねぇか」
「そちらに関しては謝罪させて頂きます」
「嘘クセェ」
全く申し訳なさそうな顔してないじゃねぇか。
マフィアのボスというよりは、どちらかと言うと詐欺師か悪徳セールスマンが似合っている気がする。
どちらにしても信用出来ないが。
「こちらとしてはこれ以上ウォルグリーンと事を構えても、旨味よりも損害の方が多そうですので」
「ダルハウジーは納得するのかよ?」
「納得させます。実際に手を汚しているのも死んでるのも私達なんでね。文句は言わせません」
ダルハウジーの奴、飼い殺ししているつもりが、いつの間にか飼い犬に手を噛まれそうになってやがる。
「おぉ、恐え」
「という事で手打ちにしましょう」
「やだね」
ラックベインは咥えていた煙草の火を捻り消している。
消し方が少し乱暴だ。
思い通りにいかず、イライラしているのたろうか。
「……理由をお伺いしても?」
「一つ、お前さんを信用出来ねぇ」
「……根拠は?」
「勘だ。お前の目は信用出来ない奴の目だ」
「……こちらとしては信用して頂くしかないんですけどねぇ」
「もう一つ理由があってな」
「何です?」
吸い終わった煙草をペッ、と吐き出す。
「別に俺は閣下の命令で動いてるわけじゃあ無いんだわ」
「……はい?」
怪訝そうな表情が浮かんだ。
この話するの何度目だろうか。
そしてこの話をした後は決まって全員アホ面を晒すのだ。
「俺が閣下にお前らを潰させてくれってお願いしてんだわ」
「……何故ですか?」
ニヤリと意識して笑ってみせる。
「……惚れた女に頼まれたから」
「……私怨ですか」
残念ながら、表情が元々表に出ないのか、大して面白い反応は返ってこなかった。
「クリフォード男爵家、潰した実行犯はお前らだろう」
「……思い出しましたよ。随分と昔の事を……」
なによりだ。
思い出してくれないと復讐の意味が無い。
「本人からしたらな、お前らの所為で地獄に突き落とされたんだ。そりゃあ怨むだろうよ」
「……つまり引く気は無いと」
「初めっからそう言ってるだろうが」
「仕方ありませんね」
そう言って溜息をつかれた。
「なぁーにが仕方ありませんねだ。殺る気満々じゃねぇか。気づいてないとでも思ってんのか?」
さっきから続々とお仲間が集まってるじゃねぇかよ。
「油断した所をズドン、ってか?」
「……やっぱり貴方を敵に回したくは無かった」
「もう遅いって」
はぁ、と一つ溜息を零した。
すぅ、と大きく息を吸い込んだ。
「野郎共!殺ってしまえ!」
そう言ってゆっくり後ろに下がって行く。
時代劇の悪代官かよ。
ゾロゾロといかにも、な格好をした奴らが囲んで来る。
建物の中にも何人も隠れて、魔法を撃つ機会を伺っている。
「良いのか?こんな事したら騒ぎになるぞ?」
「散々建物ぶっ壊した貴方が言いますか?」
ごもっともです。
「それにこの町は私達の町です。誰にも文句は言わせない」
「チンピラが領地経営者気取りかよ」
「好きなように仰ってください」
全く、世も末だ。
「カカッテコイヤチンピラァ!ヨウシャシネェゾ!」
「アァ?!ブッコロスゾデカブツゥ!」
チンピラ共の、脆い堪忍袋の緒があっさりとブチ切れた様だった。




