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翌日の朝、カラッとした天気と打って変わって、町の雰囲気は曇り空の様だった。
活気のある港町は、ソコソコの騒ぎになっていた。
もっと大騒ぎになっているかと思ったらそうでも無いらしい。
大騒ぎすると奴らに何かされるとでも思っているのか。
皆何処か不安そうにしている。
それでも強かな町の人々は、ひそひそ話で盛り上がっていた。
まぁチンピラ共が壊滅なんて話が出たら、一般人は皆怖がるか。
そんな事を思いながら町の様子を眺めて回った。
何はともあれ、この町での任務は完了した。
最後の思い出にと、屋台で売っていた海鮮の串焼きを買って町を出る。
明日から食えないとなると、何となく感じ入るものがあった。
道中メモを見る。
次は港町から徒歩で二日、強化してダッシュすれば、今日中にはたどり着ける。
出来ればのんびりしたいが、我が事じゃなく惚れた女の復讐。
とっとと終わらせてやらねば。
そう思いバリバリと串焼きを食べて、水筒の水を飲む。
豆茶は新しい街にたどり着いてからのお楽しみ。
煙草を咥え火をつける。
位置についてー、よーいどん、なんて一人で茶化しながら、強化した全力ダッシュを繰り返す。
所々で休憩を挟みながらだったが、なんだかんだで夕暮れには次の町にたどり着いた。
多分、港町の奴らが壊滅したって情報は今日中には入らないだろうと思う。
俺で夕方にたどりついたのだから、もし今日中に情報が来るのならば俺と同等、もしくはそれ以上の奴がいる事になる。
伊達にAランクやって無い。
そう簡単に追いつかれてたまるか。
そう考えて、今日泊まる宿を探す。
軽く通りを見て回ると、小一時間ほどで比較的新しい、キレイめな宿を見つける事が出来た。
受付は立派な体格の女将さんだったが。
チェックインの際には念の為、名前を偽名に、ジョージの名前を勝手に拝借して記入した。
何処にでもいる名前だ。
疑われることはないだろうと思った。
たとえ疑われる頃には、全て事が終わっているだろうし。
早速女将に水浴びの場所を確認すると、店の裏手を案内された。
結局昨日は水浴びも出来なかった。
一日空いただけでもさすがに気持ち悪い。
文明がランクダウンしても、身なりは綺麗にしておきたかった。
前世が日本人だった所以か。
そんな事を思いながら水をかぶって、よくわからない木の実的な物をすり潰した物を泡立てて、布でゴシゴシとこする。
白い泡が黒く汚れて流れて行く。
一瞬、黒い汚れが血の様に見えてしまった。
さっぱりして、宿の食堂に赴くと、厳ついおっさんが料理をしていて、これまた別の厳ついおっさんが給仕をしていた。
……なんか濃いな。
まぁいいか、と思いながら席に着と、給仕のおっさんが近づいてきた。
「いらっしゃい。食いもんは日替わりで一種類しかないがいいかね?」
コストカットの一環だろうか。
「構わないよ。ただ豆茶はつけてくれな」
「はいよー」
そう言っておっさんが厨房に向かっていく。
しばらくすると、料理と豆茶が運ばれてきた。
料理は何かのシチューで味が薄く、豆茶は泥水の様に濃ゆかった。
……心機一転、情報収集がてら外の酒場へ移動する。
路地裏にあるような汚い酒場の方が、奴らの溜り場になっている可能性がある。
まだ情報を集めていないので、比較的大きめな酒場に入ってみた。
中を覗いてみると、特別イヤな奴はいなかった。
いるのは程よく酔っ払った奴らと、ぐでんぐでんに酔っ払った奴らと、これから酔っ払いになる奴らだけ。
皆、ストレスを抱えた、善良な一般市民だった。
カウンターに座り、髭面の主人に向かって、強目の酒とツマミを適当に注文する。
煙草に火をつけて、唇でピコピコと動かして遊んで時間を潰す。
しばらくして出てきたツマミを見て、思わず「おぉ」と声を上げてしまった。
出てきたのは一般的な豆だけで無く、スルメみたいなやつとホタテの貝柱みたいなやつだった。
「なんだ兄さんこれ初めてかい?」
俺の驚いた声を聞いて、主人が質問を投げかけてきた。
「あぁ、この町に来るのも初めてでな。だからこんなもんを食うのも初めてだ」
「そうかい。そいつは魚介を乾燥させたやつでな、長持ちするし、縮んだ分味が凝縮されて美味いんだ。食ってけ」
「ありがたい」
一つ食べてみる。
前世のものと比べると臭みが強いが、それでも懐かしく、噛み締めればいくらでも味が出てきた。
うん、美味い。
「いいねぇこれ」
「だろ?しっかり酒を飲んで金落としていけ」
「あぁ、いくらでも落としていくさ」
そう言って酒の追加を注文する。
しばらくの間、乾き物をツマミに酒を飲み、耳を澄ませてみた。
くだらない酔っ払いの戯言の中にも、少しは有益な情報らしき物が埋もれていた。
曰く、最近奴らが慌ただしい。
ひょっとしたら、抗争が起きるのではないか。
どうも破門もされているらしい、等。
なんだかんだ言って、噂が広まるのは早い。
明日には間違いなく、港町のチンピラが壊滅したって噂になるだろう。
酒の追加を頼むついでに、主人に質問をしてみた。
「さっき他の客が話してたんだが、なんか最近慌ただしいのかい?」
「あぁ、あいつらの事だろう」
嫌そうな顔で言ってきた。
「あいつらって?」
あえて惚けてみる。
「うちの町に住んでいる小鬼共さ」
ゴブリンに例えられるとは、随分と嫌われているらしい。
「随分とピリピリしてやがるぞ。昨日も一人因縁つけられて斬りつけられた」
「そいつは確かに穏やかじゃあ無いな」
普通は刃物で脅す程度だろうに。
余程のことがない限り、一般市民に手を出すのは悪手じゃないのかね?
「だろう?噂では好き勝手やりすぎて親から破門されたらしいぞ」
……よく知ってらっしゃる。
「どうやら場合によっちゃあ、抗争が始まるんじゃねぇかって話だ」
噂の精度に少しびびった後、その店を後にした。
明日にはケリをつけた方がよさそうだ。




