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ダルハウジー領は海に面している。
代々ダルハウジー家当主は、港の整備と貿易、造船に力を入れてきた。
当然、港町は栄える。
色々な所から、色々なものが入っては出て行く。
その中に、汚い「物」や「者」が混じりながら。
そうしてこの港町は繁栄していった。
空は青く、どでかい入道雲が鎮座している。
小高い丘から眺める景色は、美しい海も合わさって最高の出来だった。
んー、いい景色だ。
その最高の景色を見ながら、煙草を燻らせている。
やっぱり綺麗な景色を見ながら吸う煙草は最高だなー、なんて呑気なことを考えながら。
この場所にはサマエルのダルハウジー支部の、さらに支部が存在しているらしい。
その支部の支部は、町の大きさに比例して、比較的大き目なものらしい。
彼奴の書いたメモが正しければ、だが。
取り敢えず、情報の現地調達をしなきゃなー。
一先ずは、監視と調査から始めるかー。
……大丈夫かなー、俺ばれねーかなー。
……ばれるよなー。
俺、こういう細かい事苦手だもんなー。
絶対目立つもんなー。
やだなー面倒くせーなー。
ジョージの奴が居たら簡単なのに。
連れてくりゃあ良かったなー。
彼奴も各支部の支部に、何人構成員がいるのかまで書いてくれてたらいいのに。
もうちょっと気を利かせろよなー。
あぁ、早く帰ってユリアとゆっくりしてーなー。
……帰ったらコーネリアって呼ばせて貰おう。
そんな取り留めのない事を考えながら、煙草を指でねじり消した。
さて、頑張るとするかね。
よっこいしょ、とジジ臭い掛け声を上げながら、行動を開始した。
手始めに町中を適当にブラブラする。
取り敢えず手がかりになるやつを見つける為に。
辺りは至る所で魚介類の屋台が出ていて、美味そうな匂いを撒き散らしている。
……匂いの誘惑に負けて爆買いしてしまった。
目立たない様にって決めていたのに、俺何やってんだ……。
そんな事を考えながら、近くの公園のベンチに座って背を預けた。
大量の串焼きを、バリバリと食べながら、町行く通行人をそれとなく目で追ってみる。
通行人に別段おかしな所はないが、はぁ、と溜息を吐いてしまう。
思いっきり監視されてるじゃねーか……。
早速怪しまれてしまったらしい。
というか、恐らくは事前に情報を掴んでいたのだろう。
視線はこの町に入って、かなり早い段階から向けられていた。
……こりゃあ作戦変更だな。
まぁ、あっちから近づいてきてくれて儲け物、といったところか。
串焼きを全部食べて、煙草に火をつける。
ふぅ、と紫煙を吐き出すと、男が一人近づいて来た。
髪の毛を短く刈り込んだ、がっしりした体型の男。
服装は何処にでも居そうな格好。
しかし、目つきはカタギの男とは違う。
荒事になれた、こちら側の人間の目つき。
歩き方も何処かおかしい。
少し重心がずれている様だ。
そんな男が、どこかの屋台で買ってきたであろう豆茶を差し出してきた。
「どうぞ、青鬼さん」
……気がきくじゃねーか。
そんな事を思いながら、差し出された豆茶を手に取り一口啜る。
おやっ、と思った。
いつも飲んでる豆茶と比べて、ほんのりと甘味を感じた。
香りもちょっと独特な気がする。
ほんの一瞬、男の口元が弧を描いたような気がした。
「ひょっとして俺の事、バレバレかい?」
軽く返してみたが、男の反応が薄い。
表情も硬いか?
「……この町にはどういったご用件で?」
言葉遣いは丁寧、そしてかなり緊張している様だ。
「……わかっているだろ?」
少しドスを効かせて、カマをかけてみる。
どうせわかっているだろうし。
「……こちらとしてはあの件から手を引かせて頂きたい。あなたとこれ以上表立って敵対はしたく無いんです」
交渉が決裂した時の事を考えて緊張しているのか?
そう思ったが何と無く違和感が残る。
あぁ、そうか、と一つ納得してしまった。
こいつは交渉が決裂する事に対して緊張しているんじゃない。
「そいつは無理な相談だなぁ」
「……何故ですか?」
「だってよぅ、皆殺しにしてくれって、惚れた女に頼まれたからなぁ」
男の顔が強張る。
男の体に力が入るのがわかった。
俺はゆっくりと立ち上がって豆茶を一気飲みした。
そして魔法を一発。
一瞬体が青く光る。
「あぁ、それとな、……俺に毒は効かんよ?」
水魔法で解毒できるからな。




