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「いい子だからここでまってな」


「……わかった。でも貴方も気をつけてね?こんなこと言える立場じゃないんだけど……」


「大丈夫だ。青鬼は強いんだぞ?物語でもそうなってるだろ?」


彼女はククスクと笑って、


「そうね。そして優しいのよね…」


と、そう言って綺麗な笑顔で微笑んだ。

素直に褒められて、背中がむず痒い。


「じゃあな、行ってくる」


そう言って頭を撫でてやる。


「……行ってらっしゃい」


という、か細い声が聞こえた。



場所はウォルグリーン侯爵邸の客間。

俺が留守にする間にこちらで預かってもらうことにした。

おそらく侯爵領の中では最も安全なのではないか。

なんせ今この館には、あのボロディンさんが詰めている。

単純に技量だけならば、ウォルグリーン騎士団最強の男。

これほど安心して任せられる男はそうはいない。


「すみませんがよろしくお願いします」


「あぁ、任せとけ。大丈夫とは思うが、五体満足で帰ってこいよ。んでもって帰ってきたら一戦やるぞ」


「……勘弁してくださいよ」


ボロディンさんは、若々しく四十後半には見えない。

短く刈り込んだ金髪で、彫りの深い顔立ちに、口の周りを囲むように髭を生やしている。

それがなんとも言えない大人の色気を醸し出していた。

鍛え抜かれた身体にこの顔にこの色気に騎士団最強の肩書き。

当然だが相当モテる。

そして実際にこの人は、結婚もせず至る所で浮名を流していた。

最も女遊びが激しすぎて、出世に影響しているのだが。

しかしそれでもやめるつもりは無いらしい。

どこかおっさんと共通する所がある人だった。


「お前の女を護ってやる対価だ。大人しく諦めろ」


「……わかりました。……絶対にあいつに手を出さないでくださいよ?」


「手を出したらどうする?」


「ぶっ殺しますよ?」


「おっかねぇなぁ。」


あなたが言ったら洒落にならないんですよ。


「まぁ、そんだけ本気って事か。大事にしろよ」


「わかってますって」


そんなくだらないじゃれ合いをして、ボロディンさんと別れた。

あの人の色気と女好きの気が強すぎて滅茶苦茶心配だ。

だからといって、あいつを連れて行くわけにもいかないのだが。



「はいこれ。あいつらの溜り場に印をつけてあるから」


「ありがたくいただくよ」


ラックベインの溜り場の地図をマーマデュークからいただく。

その時に、マジマジとこちらの顔を見てきた。

何か存念でもあるのか。


「どうしたよ」


「やっぱりいい男だなって。恋人の為に復讐代行をやるってそうそう出来ないわよ?」


そう言って頬肉をプルプル震わせた。

普通に話しているだけでも、妙な圧迫感がある。


「俺には出来る力があるからな。力は使ってなんぼだろ」


そう言って、マーマデュークの感情の見えない目を見る。

やはり何を考えているのかわからなかった。


「力だけじゃなくって、度胸と人脈もでしょう?」


目は笑わないまま、口元に笑みを作りそう言った。


そうだろうか。

……確かにそうかもしれない。

特に人脈の部分。

色んな人にお世話になってるしなぁ。


「あたしをアンタの愛人にどーお?」


唐突にそんな事を言ってきた。

今度は感情が見えた。

結構本気の感情が。


お前なんぞいらん。


「謹んで遠慮しとく。ユリアだけで十分だ」


「つれないわねー。まぁ、気が向いたらいらっしゃい」


誰が行くか。


後手に手のひらをヒラヒラとやって部屋を出た。

これからイカれた大貴族とイカれたチンピラ共に喧嘩を売りに行くとは思えないほど、心が落ち着いている。

いまいち殺し合いをしにいく実感が湧かなかった。


まぁテンパってるよりかはマシかね。


そんな事を思い、最後に閣下の執務室を訪ねる。

二回ノックをすると、「入れ」と短く簡潔な返答が帰ってきた。


「失礼します」


そう言って扉を開けると、相変わらず閣下は書類とにらめっこをしていた。


「お時間大丈夫ですか?」


「大丈夫に見えるか?」


お邪魔だったかな?

そう思って謝罪をしようと思ったが、閣下の発言に遮断されてしまった。


「……上手くやれよ。俺の心労を少しは軽くしてくれ」


閣下なりの激励の言葉を貰ってしまった。


……まったく頭が上がらないな。


そう思い、再度気合いを入れる。

しっかりと結果を出さなければならない。

つまりは閣下に利益を。

この場合の利益は敵の皆殺し。

ただし誰にもばれないように。

不利益は俺が死ぬ事。

もしくは俺が犯人だとばれてしまう事。

しっかりと自分のケツは自分で拭いて、そして主人に利益を持って帰らなければ。


「任せてください。バッチリみんな殺ってきますから」


閣下はこちらをちらりと見ると、一瞬「フッ」と笑って書類に顔を戻した。

なんとなく、信頼されている気がした。

自分の希望かもしれないが。


「そういえば兄貴は今どちらに?」


「仕事だ。お前なら大丈夫だろうから心配しないそうだ。なかなか信頼されてるな」


こいつはまたこっ恥ずかしい。

帰ってきたら、俺の奢りで飲みにでも誘ってみるかね。


「荒事限定ですけどね。では行って来ます」


閣下はこちらを見ることもなく、ペンを持っていない左手をヒラヒラと動かした。

とっとと行ってこい、という事か。

一礼して扉の外へ出る。

大きく深呼吸。

口から吸って、鼻から息を出す。

煙草を吸いたいけれども、ここは廊下なのでもう少し我慢。

館を出て、煙草に火をつける。

閣下の真似をして、細く紫煙を吐き出してみた。

当然だが外では香りが溜まることなんて無かった。

煙草一本、一息に吸い込んで、指で火を消す。

紫煙を吐き出しながら首を傾けると、首からコキリと乾いた音がした。


……さて、一丁やりますか。


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