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街に入ると騎士団御一行様と兄貴は侯爵様の所に報告に行った。
その際俺は兄貴のオススメの宿屋に置いていかれたんだか…
「レイドさんにはいつもよくしてもらってます」
「ひょっとして兄貴の彼女さんですか?」
顔を赤くされた。図星だったらしい。
しかも美人さんじゃないかコンチキショウ。
「兄貴の機嫌がいい理由がよくわかりましたよ。弟のロイドです。以後よろしくお願いします」
兄貴の手前、好青年を演じておく。
「お兄さんから色々聞いてます」
「…何て言ってました?」
「頼り甲斐のある方だとお聞きしてますよ?」
悪くは言ってなかったらしい。
「まぁ、困ったことがあったら何でも言ってくださいよ。力仕事限定ですけどね。頭の方は全部兄貴に持って行かれてしまって空っぽなんですよ」
(…笑ってくれた。しかも笑った顔がまた可愛いじゃないか。兄貴には勿体無いくらいだよ)
しばらく彼女さんと談笑していると兄貴が戻ってきた。
「やぁアリス、今日も綺麗だね。これロイドの10日分の部屋代。すまないがよろしく頼むよ。…ロイド、その顔は何だ?」
「…いや、普段絶対に兄貴が言わない台詞を聞いてしまったもんだからちょっと動揺してしまって」
「この金没収するぞ」
「すみませんでした」
「仲が良いんですね?」
「でしょう?兄貴はいつもは冷たい感じがするんですけどいざとなったら優しく手を差し伸べ……いや待って兄貴服を引っ張らないで破れちゃうからぁ!」
「少しこいつに街の案内をしてくるからその間に部屋の準備をよろしくな」
「なぁ、どこで知り合ったの?どっちから告ったの?」
「どうでもいいだろうが」
「いや、一応未来のオネエサマになるなら色々知っておいたほうがいいと思って」
「一生知らなくていい」
恥ずかしがり屋な兄貴に無理やり外に連れ出されて街の案内を受けていると、故郷には無い店を発見した。
「あれ?あの店なに?」
何となく懐かしい匂いが…
「あぁ、魔導具屋だな」
気になって中に入ってみると、何となく、が間違いなく、に変わった。
(煙草の匂いだ)
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「おじさんこの匂いは何の匂い?」
「…恐らく魔力煙草の匂いですが?」
「何⁉︎煙草あんの⁉︎」
「おおぅ⁉︎なんだよ急に落ち着いて下さい⁉︎…魔力煙草ならば取り扱いがあります。失礼ですが使用したことは?」
「あり…ません」
「説明させて頂くと、魔力を回復させる薬草に香草を混ぜて乾燥させたもので、使用すれば魔力が微回復します。代わりに若干の依存性があります。使用方法は乾燥した煙草の葉を紙に巻いて火をつけて、反対側から煙を吸い込む、というものですいかがなさいますか?」
「とりあえず20本分下さい」
「ちょっと待てロイド」
「何だよ今いいとこなんだよ」
「誰の金で買う気だこら」
「…貸して?」
「3日以内に倍にして返せよ」
「ボッタクリ」
「嫌ならいいんだぞる」
「すみません貸してください」
「20本分で1000Gです。おまけで着火具をつけておきますね?」
…思ったよりも高かった。
この後、兄貴のオススメの飯屋で一服してみた。
口当たりも香りも、肺に入ってくるどっしりとした感覚も全てが前世の煙草に似ていた。
今日はいい日だ。人生のパートナーと出会えた様な気分だ。
「明日には冒険者登録しとくんだぞ。そしてそのまま働いてこい。あとは賃貸でいいから出来るだけ早く住む所をみつけろ。宿屋は割高だからな。」
「りょーかい」
兄貴の小言もどうでも良く聞こえる。
なんだかんだでこの街でも楽しめそうだ。