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「……で、現在に至ると」


「……はい」


「……ン……ック……クフフフハハハハハハ!」


「……そんな笑わなくても」


「……お前、バカだろ?」


「……じゃあ俺はどうすれば良かったんですか?」


「最初っから付き合ってくれって言えば良いじゃねぇか」


「……だって初恋で断られたら立ち直れないじゃないですかぁ」


「……お前はガキか」


……ガキですみません。


あれから数日後、場所はいつもの酔いどれ鬼人で、お互いに飲んだくれながら、俺はおっさんに今までの経緯を説明していた。

……俺の金で。

理由は経験豊富なおっさんから何かしらのアドバイスをもらう為。

あの時の俺の申し出に対して、女はあっさりと、「良いわよ」と答えた。

あっさりし過ぎていて、こちらが拍子抜けしてしまう程であった。

彼女から言わせると、願っても無いお願いだった様である。

命の恩人で、腕っ節が強そうで、怪我も病気も治してくれる男の専属になる。

娼婦という職業の中では、これ程楽で安全な仕事は無い、との事だった。


おっさんは唐突に、まだ随分と残っている煙草の火を灰皿でもみ消し、んふーと鼻から紫煙を吐き出した。


「だーもう!青鬼がウジウジしてんじゃねぇよ気持ち悪い!」


「あっ!おっさんひでぇ!」


「テメェ逆の立場だったら俺と同じ事言ってんだろうが!」


「……そりゃあそうですけど」


大の大人がウジウジしてるのは気持ち悪いに決まってます。


「……駄目だこりゃ」


「……おねーさんエール二杯追加ね」


「毎度ー」


給仕のお姉さんが軽やかに返事をしてくれた。


「お前ちょっと飲みすぎだぞー。……んで、今の状態からどう持ってくつもりなんだ?」


そんな物、分かれば苦労してません。

俺はずいっと、おっさんに顔を近ずけた。


「うおっ」


「そこを教えていただきたいんですよね」


「わかったから離れろよ!顔近えって!」


おっさんが空いている手で、俺の顔を掴んで戻そうとするが、その程度の力で俺はビクともしない。

負けてたまるか。


「俺は真剣なんです。お願いしますよ……」


逃がしてたまるか。


「つってもなぁ……今回の件は、お前の自爆でお客さんから始まる訳だ」


「はい」


今となってはあの時、あの台詞を選んだ事が悔やまれる。

素直に付き合ってくれって言えばよかった……。


「娼婦とお客さんなんだから、その関係はお金から始まる訳だ」


「はい」


「そして俺はお金から始まる恋愛が成功したことが無い」


「……はい」


「……今回は諦めろ」


「嫌だー!」


「自業自得だろ」


「そこをなんとかならないんすかねぇ⁈」


「だから成功した事ねぇって」


「だー!使えねー!」


「黙れクソガキ!テメェが欲望剥き出しにするからだろうが!」


「いや欲望丸出しじゃ無くってですね⁈」


「じゃあなんだよ!」


「客の立場だったら断られないんじゃないかなって思ったんですよ!それに他の男にヤられるのも嫌ですし!」


結果、大失敗だったけどね!


「ヘタレが!だったら自力でどうにかしろよ!」


「それがわからないから自称色男のおっさんに相談してるんじゃねーっすか!」


不毛な言い争いで、お互いゼーゼーと肩で息をしている。

おっさんは一度大きく深呼吸をして息を整えた後、煙草に火をつけた。


「とにかくだ、お前は今娼婦から都合の良い男認定されてるわけだ。股開いてりゃ金だけでなく衣食住まで付いてくる。そんなもんはいいカモだな。で、この状況をひっくり返すとなると……」


「……なると?」


指に挟んでいた煙草を口に咥え、少し上を向いて思案している様だ。

何かいい案を出してくれ!


「まず無理とは思うが、女に惚れさせる」


何故に無理なのか?


「お前がヘタレだからだ」


顔に出ていたようである。


「他には……とりあえずその女、買い上げちまえば良いんじゃねぇか?」


そんな提案がおっさんの口から出てきた。

至極真っ当な意見である。

その辺の金持ちならば、各娼館に大金を払って気に入った娼婦を買い上げ、つまり金の力で結婚するなんてことは、多くは無いが以前から行われている。

しかし今回は、それができない理由があった。


「……それがですね、今彼女は何処ぞの娼館に雇われてるわけじゃ無いみたいなんすよね」


彼女はフリーの娼婦だった。

というか、フリーになってしまったと言った方が良いのかもしれない。


「……一気にきな臭くなったな」


「何でですか?」


「身元不明な奴等が多い夜の仕事をやっていて、更に何処にも所属してない女なんて怪しさ満点だろうが」


そんなもんだろうか?


「いやそういうんじゃ無くってですね、病気が原因で放り出されたみたいです。なんか客の中に病気持ちが居たみたいで、そいつから結構な病気を貰っちまったみたいなんです。んでそんな奴使ってたら信用に関わるってことで……」


「放り出されたのか?」


「はい。そして病気をうつされた男から腹いせにボコられてる所を俺が拾ったって訳です」


「……その話に信憑性は?」


「……彼女から聞いただけなので何とも……」


「……怪しさ満点じゃねぇか」


確かにそうだけど。


「……でも俺としては、惚れた女の言う事は信じたい訳で……」


「本当かどうか問い質すこともできねーんだろうが」


「……はい」


「ヘタレ」


返す言葉もございません。


「一応侯爵様に報告はしておけよ」


「……面倒くさいっすねー」


絶対バカにされるに決まってる。


「万が一の時にケツ拭いてもらえ」


「万が一おきる前提ですか」


「諦めろ」


しかし迷惑をかけないようにしないと兄貴から何されるかわからんしな……。


……仕方ない、正直に全部報告しよう。

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