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時は遡る。


いつもの場所でいつもの相方と、……回りくどい言い方をしなければ、とどのつまり酔いどれ鬼人でおっさんと二人で飲んでいた、ということだ。

というか正確に言えば、いきなりおっさんに拉致られ、この店に連れてこられた。

そしておっさんは注文をして、酒を一気飲みし、そしてぐちぐちと愚痴を吐き出していた。

内容はただのナンパ失敗。

非常にくだらない。

ストレスのせいか、眉間の辺りがズキズキと痛む。

煙草に火をつけ、あえて大きく吸い込み、深いため息の様に、紫煙をはいた。

紫煙がおっさんに直接当たらないように、少し上を向いて吐き出したのは、くだらない話を聞かされた俺の、最後の、なけなしの優しさだった。


「……そして振られて、現在に至る、と」


「……」


おっさんは食台に突っ伏してぐでっている。


「……どーでもいー」


「……少しは慰めるとかねーのかよー」


そんな悲しそうな顔で言わなくても……。

大男がハートブレイクしたおっさんを慰めるの図、想像しただけでも気持ち悪い。

大体何故に俺がおっさんの失恋話しを聞かないといけないのだろうか。

別に大恋愛だった訳でもなく、ただナンパに失敗しただけだろうに。


「……俺は結構本気だったんだよ」


結構とか言ってる時点で、如何なものかと思う。

そして出会った瞬間から本気になるとは是いかに。

いい加減ぐでってないで、シャキッとしたらどうか。面倒くさい。


「あぁ……、あの娘可愛かったのになー」


そんな事を呟きながら、胸元から出した煙草に火をつけることもなく、クルクルと指の間で回し始めた。


「……そんなに落ち込むなら、初めから止めときゃ良いのに」


「……うるせーよ。行動を起こさなきゃ何も得られないだろうが」


そりゃそうだ。

そいつは流石に同感だ。

だったらぐでってないで行動を起こせよ。


「じゃあ落ち込まずに前を見なさいな」


「……前を見る前の休憩だ」


「……全く、しょーも無い」


「てめぇ……ビビリのお前にゃ言われたくねぇな」


「なっ⁈……ビビリじゃあ無いっすよ⁈」


酷い言われようである。


「嘘つけ素人童貞が」


「あっ!おっさんひでぇ!」


確かに事実だけど!


「どうせ事実だろーが!大方振られるのがこえーんだろ?」


「……」


何故分かった?


「全く……、天下の青鬼が情けねぇなぁ」


そう言うと弄んでいた煙草に火をつけた。

別に悪い事をしているわけではないのに、何となくバツが悪い。

正直、女を相手にするなら、黒鬼人と百人組手する方がまだ大分楽である。


「……ほっといて下さい」


思わず少し拗ねた様な言い方になってしまった。

俺だって好きで青鬼になった訳ではない。


「いや、割と本気で心配してんだぞ?」


「良いんすよ、別に。娼婦で十分です。女心なんて面倒くさくて分かりたくもない」


それに気持ち良いし。


「はぁ……。またつまらん意地を張りやがって」


「いや、割と本心です。心は満たされなくても、その分身体で満足出来ますから」


それに人間諦めが肝心だと思います。

少なくとも、娼館に行ける程度に稼げている俺は人生の勝ち組だと思う。


「女出来たら心も満足出来て毎日ウッキウキだぞー」


「もう良いんすよ。だって言い寄ってくる女はみんな目がお金になってますもん」


受付のローザを筆頭にな。

もうあの目は見飽きた。


「お金から始まる恋ってやつもあるんじゃねえか?」


「……それで続いた経験あるんすか?」


「……いや、無いな」


「……もう良いです」


このおっさん、役に立たねぇ。


「……まぁ、あれだ。お前みたいに用心深い奴は、むしろ一目惚れで恋に落ちるって相場が決まっている。んで経験が無いから痛い目に合うだろう。そん時ゃ相談には乗ってやるから、痛い目に合う前に言えよな」


「だからその決めつけひでーっすよ、おっさん」





「っつたく……人をなんだと思ってるんだか」


いつの間にか、おっさんを慰める会が、青鬼の恋の行方を心配しようの会に変わっていた。

そもそも恋なんてしていないのだが……。


一目惚れなんてなった事ねーからわかんねーよ。


そんな事をつらつらと考えていると、横の路地から、ドスッと鈍い音がした。

続いてパン、と乾いた音。

仕事柄、よく聴きなれた音。

そちらに目を向けると、案の定人が暴力を振るわれていた。

振るっているのは男、倒れてるのは女。

どっちが悪なのかは知らないが、そこまでやっちゃいかんだろう。


「……お前何やってんの?」


一応声をかけてみる。

憤怒の形相の男がこちらを振り向いた。


おぉ、黒鬼人のキレた顔といい勝負。


「アァ⁈お前にゃ関係ねぇだろうが……よ……」


男の声が尻すぼみになって行く。


そりゃムキムキの大男が来たらビビるわな。


「……いや、まぁ関係はねぇけどな。でも流石に女が一方的にボコられてるのを見過ごしたらいかんだろうが」


軽く踏み出し、首筋に手刀を一発。

問答無用で失神させる。

あぁ、こりゃあ素人だな、と思った。

男はこちらの動きに全くついてこれていなかった。

それにしても、


「こりゃあ酷いな」


格好を見る限り、多分娼婦であろう女。

その女は、顔の原型が無いくらいボコボコにされ、意識がなく虫の息であった。

簡単に言えば死にかけである。

別に女が死のうが関係は無いが、関わってしまった以上、何となく見捨てるのもしのびない。


「しゃーねーなぁー」


光魔法で癒してやった。

あまり人を癒す事がないので、失敗しないか少しばっかり不安ではあった。

一先ず治療はひと段落したと思う。

呼吸は落ち着いている。

内臓の傷みは外から見れないので、女が目覚めた後に痛まないか聞き取りをするしかない。

そしてこんな薄暗い所ではどの程度の怪我なのかも分からないし、ちゃんと治っているかも分からない。


仕方無い、自宅に連れて介抱してやるかー。


そう思った瞬間、ふとおっさんが言っていた言葉が頭に浮かんだ。


……まぁ、あれだ。お前みたいに用心深い奴は、むしろ一目惚れで恋に落ちるって相場が決まっている。んで経験が無いから痛い目に合うだろう。そん時ゃ相談には乗ってやるから、痛い目に合う前に言えよな


「……一目惚れしたらどーしよー、……なんてな」


俺が一目惚れなんて迂闊な事、する訳ねーじゃねーか。



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