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よろしくお願いします。
両親の墓前の前で、兄貴と二人ぼーっとしていた。
天気は良く、風が少し吹いており心地よい。
墓参り日和にふさわしい、と言ったら変に聞こえるが、きっと二人とも幽体のまま気持ちの良い風に目を細めているだろう。
風を感じれるかは知らないが。
「未だに実感が無いんだよなー」
「親父は新人冒険者を庇って逝ったらしいぞ」
「おふくろは?」
「魔力の枯渇で動けなくなった所を襲われたらしい。無理しちまったみたいだな」
「あー、なんか二人ならありえそうな死に様だなぁ」
「ああ」
そういえばやたらと面倒事に首を突っ込んでいた気がする。
それだけ周りから頼られていたのかもしれないが。
「絶対弱音吐かなかったもんな」
「ああ」
思わず会話が途切れた。
兄貴が何かを言おうと逡巡しているのがわかる。
「……お前これからどうすんの?」
「ん?」
「実家継ごうにも家無くなっちまっただろ」
聞いてきたことは意外と現実的な話題で、問題だった。
個人的には酒屋を継ぐつもりだったが、もうそれどころじゃない。
このままじゃ俺はニートだ。
「……そーだなー、やりたい事もないしなー」
かと言って特にやりたい事も、やらなければいけない事も特に無かった。
「いっそ俺についてくるか?」
「ついていく?」
「侯爵様の所で働かないか?」
「俺に何をしろと?」
「騎士団に入るとか?お前の実力なら良いところまでいけるんじゃないか?」
頑張って想像してみた。
一瞬も想像出来なかった。
つまりはそれだけ俺には向いていないのだろう。
「お貴族様相手とか面倒くさい」
「……お前なぁ」
「ムカつくお貴族様をぶん殴ってる未来しか見えない。それに俺の実力なんてたかが知れてるだろ?」
「青鬼」
兄貴が聞きなれない言葉をこぼした。
「何それ」
「お前の二つ名」
「何それ何か弱そうていうか恥ずかしい何で二つ名なんてついてんの?」
「二つ名は自分でつけるもんじゃないだろう。お前戦ってる時、青魔法の身体強化と白魔法の自動回復使ってるだろ。そのせいで体が水色に光ってる。そんでもって凶悪な魔物を素手で倒していってる姿が鬼に見えたんだと。それで青鬼」
「誰だそんなこと言い始めた奴は?」
「花屋の娘さん」
「ああ、チョーさんとこの?」
あの子が犯人か。
んじゃ仕方がねーや。
「最近聞かせてもらった物語に出てくる優しくて強い青鬼に見えたらしいぞ」
「俺は人間なんですけどー」
「良いんじゃないか?親父とお揃いで」
「は?」
「親父の冒険者時代の二つ名が赤鬼」
親父の恥ずかしい過去発見。
と言っても、この世界の人々の基準だと、むしろ誇らしい事なのかもしれない。
「何それ怖い」
「髪が赤かったから赤鬼らしい」
「安直な」
「二つ名なんてそんなもんだろ。で、その話を聞いた騎士団のお偉いさんが興味を持ったらしいぞ」
「えー、面倒くさい」
「まぁ、それだけの実力があるって事だ」
「でも面倒くさいのはやだ」
「なら冒険者は?侯爵領は広いからな。冒険者は何人いても足りないくらいだ」
冒険者。
異世界転生と言ったら冒険者。
特に前世の記憶とか役立てる事は出来そうにない俺でもやっていけるのだろうか。
「……冒険者かぁ」
「冒険者になるなら俺たちに着いてくるといい。住むところは手配できないが、安くて良い宿なら教える事ができる」
「……今更ですけど質問です」
「はい、何でしょうかロイドくん」
「兄貴は何の仕事についてるんですか?」
「侯爵領の財務部門です」
「……つまり侯爵様につかえてるわけですか?」
「そうですよー、よくできました」
「……出世したなぁ」
いつのまにか兄貴は雲の上の人になっていたらしい。
それにひきかえ俺。
典型的な賢兄愚弟である。
「運が良かっただけだな」
「またまた謙遜しちゃって。……あれ?ひょっとして兄貴照れてんの?」
「うるせぇよ。で、どうすんだ?冒険者は脳筋のお前にぴったりだと思うぞ。」
「んー、……ん。やりたいことも無いしやってみるかねー」
結局、俺は故郷を出る事にした。
家が建っていた場所の瓦礫を退かして、なんとか無事な生活用品を探してみたが全滅していた為、結局むこうの街で兄貴に全部買ってもらうことにした。
持つべき物は優しい兄貴だ。
仲の良いご近所さんから冷やかしと笑顔、叱咤激励をもらい、お返しとして有名になって貴族様挨拶した人
になって帰ってきてやると軽口を叩いたり、そんなこんなをしていると遂に出発の日がやってきた。
全員から青鬼とからかわれたのは内緒だ。
俺は兄貴が操る馬に乗せてもらっている。
時折騎士団のお偉いさんと手合わせをした。
部隊長さんで、名前は確かボロディンさん。
家名までは長くて覚えきれなかった。
元々は何処ぞの伯爵様の次男坊だったらしい。
見た目は40過ぎのナイスミドル。
休憩中、俺に模擬戦を申し込んできて、本気を出さずに俺に勝った人。
めっちゃ強かった。
そしてこの人からの勧誘をいなしながら旅路は進んだ。
「なぁ〜、考え直さないかー。お前なら団長までイケるって。うちでその技を磨こうぜ〜」
「お断りします」
街を出て数時間後、遂に目的地に到着した。
後ろに座っている兄貴が珍しく、少し楽しそうな声で声をかけてきた。
「ようこそロイドくん。ウォルグリーン侯爵領最大の街、グラストンへ!」
…………明日は雨だなぁ。