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「……こりゃあまた唐突ですね」


「少し考えればわかることだろう」


と、一つ溜息をつき、兄貴が口を挟んできた。


残念ながらわかりません。


俺の頭が悪いのは前からの事なので問題にはならないが、それよりも侯爵様の物言いが気になった。

先ほど陛下の事を「王様」と、しかも「おーさま」に近い、少し間延びした、嫌な言い方をしてしまうとバカにした言い方をしていた。


「……ところで大丈夫なんですか?」


「何がだ?」


「……いや……その……陛下に対して敬意を表する感じが……」


「しないか?」


するわけがない。


「……申し上げにくいですが、あるようには聞こえませんでした」


「本人が聞いてるわけでもあるまいし、別に問題あるまい」


大有りだと思う。


「そういう問題ですか?」


「そもそもあの男を尊敬してなどいない」


と、さらっと爆弾発言を投下してきた。

……この男は色々と危険だ。

あまり関わり合いにならない方が良いかもしれない。


「無能ではないが有能でもない。私の方が仕事はできる。そもそもあの男の役割は王座にどっしりと座っていることだ。何処に尊敬出来る要因がある?」


とんでもない言い分、そしてとてつもない自信である。

確かに侯爵領は他の領地と比べて豊かであるし、犯罪の発生率も低いと言われている。

それでも、流石に一国の主よりも能力が高いと断言出来る人は、この人以外にはいないのではないか。


「……失礼致しました」


「構わん。それで、どちらを選ぶ?」


「閣下は何故私を引き込もうとされるのですか?」


敬称は合っているのだろうか?

そんな事よりも、これ以上この男とは関わり合いになりたくないのだが……。


「優秀な者は部下に幾らでも欲しいに決まっているだろう」


「……私は閣下にそこまで引き立てられるほど優秀な人間とは思えませんが……」


と、謙遜してみるが、実際半分以上は本音だ。

腕っ節には自信があるが、まだまだ新人に毛が生えた程度の年数しか経験がない。

冒険者になって数年しか経っていない男が、大貴族のエージェントという大役が務まるわけがない。


「その様に言うのならば、黒鬼人を一人で殺せる者を知っているのだろう。何人か見繕って今すぐここに連れてこい」


「……申し訳ありません。思い浮かびません」


「いい加減自分の有能さを認めろ。お前を調べさせてもらったが、自分を過小評価し過ぎるきらいがあるな」


そんな事はないはずだ。

自分の事は自分がよくわかっている。


「いえ、自分は……」


「だから謙遜をするなと言っている。他の冒険者が惨めになるぞ。少なくともお前より強い冒険者は、今現在我が領にはいない」


その様に言われても全く実感が湧かなかった。

強さなんて物は、戦う環境に大きく左右される。


「まぁいい。それでどうするんだ?」


埒が開かないと思ったのか、ここで話を変えられてしまった。

そして話を変えられても、先程までのやり取りのせいで、全く頭が働かなかった。

そんな俺の頭の中を察してか、兄貴が補足を入れてきてくれた。


「騎士団に入団する利点は安定した収入、専属冒険者は侯爵専属というだけで信頼性が増す。また、侯爵家が後ろ盾となるので揉め事が起きてもお前に有利に働く」


「信頼性ってどういうこと?」


「何かあった時には閣下にも責任がいく。だからこそ怪しい者を専属にするわけがない。結果的にそれがそのまま信頼に繋がる」


「後ろ盾ってのは?」


「お前と揉め事を起こすってのは、閣下の身内と揉めるって事だ。つまり何かあったら侯爵家が黙ってはいない。誰も大貴族と喧嘩をしようとは思わないだろう」


確かに侯爵様が後ろ盾になってくれるのは、非常に魅力的である。

そして、そこに後押しをするように


「尻拭い位はしてやる」


と、侯爵様が合いの手を入れてきたを

しかし当然デメリットもあるはずだ。


「不利な点は?」


「敢えて言うならば、騎士団に入れば冒険者家業はできなくなる。専属冒険者になれば、閣下からの依頼が最優先になる。さらに名が知れれば、他の貴族からの指名依頼が閣下経由で入る」


「私としては、他の貴族に貸しを作れる。結果、色々と進めやすくなるからな。私にとっては願っても無い事だ」


侯爵様のメリット等はどうでも良い。

結局は自由が無くなる点で、自分にはデメリットが大きいと感じる。

この条件ならば、別にどちらになろうと思わなかった。


「……私が皆様の相手なんて出来るわけありません。何かしら失礼な事をしてしまいそうで……」


「そうか?思ったよりちゃんとできてると思うが。ちなみにニックは専属冒険者を選んだぞ」


と非常に意外な事を言ってきた。


……お貴族様の相手なんて嫌がりそうなのに。

なんでだろ。

……でもやっぱり俺には荷が重い。

……と言うか面倒くさい。

ここは辞退させてもらおう……。


「やはり私はどちらも辞退させて……」


「ちなみに辞退したらレイドが路頭に迷うからそのつもりでいろ」


「ということだ。今後子供を作る予定だから職は失いたくない。よろしく頼むぞ」


と、涼しい顔していけしゃあしゃあとのたまった。

あまりの言い草に絶句してしまう。

兄貴だけならばどうでも良いが、義姉さんやまだ見ぬ甥っ子姪っ子の事を考えると……。


「……これは私の持論だがな、力ある者は人より何かしら優遇される。だからその分義務を負わなければならない。俺だってやりたくもない貴族なんて物をやっている。だから少しはお前も我慢しろ」


と、侯爵様が思いもよらないことをいってきた。

強者は弱者を護る勤めがあるということか。

考えは非常に素晴らしい人格者の言葉だと思う。

しかし、「やりたくない貴族をやっている」、という言い草は如何なものか。

……それに、


「……でもそれならば自分が専属にならなくても冒険者家業に精を出せば良いのでは?」


「だからお前が専属になった方が俺にとって都合が良いし、使い道が増える。悪いようにはしないから諦めろ」


「よろしく頼む。」


「…………………………」














この日、不本意ながら、ウォルグリーン侯爵家専属冒険者「青鬼」が誕生した。




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