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数日ぶりのギルドは、たった数日で何かが変わるわけでもなく、相変わらず活気があり、時間帯も昼過ぎということで完了報告に来た冒険者達で溢れていた。

そしていつも俺の面倒を見てくれている受付のローザも、いつもと変わらず仕事はテキパキとこなしているようだった。


「おーいローザ」


そう呼ぶとローザは此方に気づき、挨拶代わりにウインクを一発かましてきた。


「ギルマスに取次頼む」


そう伝えると、後ろに居た事務職の男に一言二言伝えると、その男と窓口を代わり、ギルドの二階へと続く階段を上っていった。

別に自分が直接行かなくても良いのに。

おかげで並んでいた冒険者達からジロリと睨まれてしまった。

まぁ、だからと言って絡まれることもないのだが。


「あの女はお前のツレか?」


おっさんが唐突にそんな事を小声で聞いてきた。


「いえ、言い寄られてはいますけど頑張って躱してます」


「そうしとけ。あれは付き合ったら面倒な奴だと思う」


「根拠は?」


「経験と勘だ。間違いない」


「……実体験でもあるんすか?」


「……聞くな」


女に駄目なおっさんの貴重な恋愛談義を聞かされながらしばらく待っていると、ローザが呼びに来た。

なんだかんだで空気を読むのが得意な彼女は、流石にこのタイミングでアプローチをしてくることはなかった。

彼女の案内でギルマスの部屋に通される。

そこにたどり着くまでの間、他の冒険者の好奇な視線にさらされていた。

おそらく外の死骸を確認したのか、何か噂でも聞いたのだろう。

二階に上がり、ギルマスの部屋の前で二回ノックを行い、返事を待って室内に入る。


「やぁ、お疲れ様。流石期待の星だね。とりあえず座ってくれ」


役人風の生真面目そうな男が、実に機嫌良さそうにそう言ってきた。

依頼が無事、しかも短期間のうちに、少人数で達成されたのが余程嬉しかったのだろう。

優秀な冒険者が居るギルドは、その分他のギルドと比べて国からの予算が多く出る。

その基準は依頼達成の件数と如何に各種依頼を速やかに、失敗せずに達成するか。

今回様なAランクの依頼をわずか二名で短期間の間に完了させたのは、ギルドにとってかなりプラスになったはずだ。

此方が席に着いたのを確認すると、ギルマスは唐突に表情を変え、いきなり謝罪の言葉を口にした。


「今回は申し訳なかった。まさか黒鬼人がいるとは思わなくてね。君たち二人には大変な思いをさせてしまった」


そう言って軽く頭を下げると、申し訳なさそうな表情を、これまた唐突に仕事用の役人顔に変えて、話を切り出した。

忙しい男である。


「では早速だが依頼達成の状況を確認させてもらうよ」


労いの言葉をかけられた後はすぐに、生存者の有無や交戦した魔獣等の状況の聞き取りが行われた。


「……生存者はなしですか。非常に残念ですが……ゴブリンを引き連れた黒鬼人が現れたにしては被害が少なかったと判断すべきか……」


ふぅ……と溜息をつき、目を瞑り、右のこめかみを右手中指で揉みほぐしているギルマスの姿は、今回の被害を「仕方がない事だ」と気持ちの整理を行っているようだった。


「……話を変えましょう。先ほども言いましたが、今回の黒鬼人討伐は大変だったでしょう?たった二人でどうやって倒したんですか?」


「……二人じゃ無くて一人だぜー」


「……は?」


「俺は雑魚を散らしただけだ。本命はこいつが一人でどつきまわしやがった」


さっきの義姉さんと同じ様に、口をパクパクさせながら俺を見てきた。


「……どうやって?」


「補助魔法重ね掛けして蹴り殺しました」


「意味がわかりません」


「まぁそういう反応だろうなー」


失礼な。

非常に簡潔にまとめて説明したのに意味がわからないとは何事か。


「でも言葉通りの意味だぞー。俺が保証してやる」


「……まぁ、ニックさんがそう仰るなら信じますが……それでも信じ難いですね」


「その偉業を達成した張本人は、事の重大さを理解してないがねー」


やっぱり酷い言われ様である。

おっさんの保証がないと、俺は常にオオカミ少年の如く信じてもらえないのだろうか。

それともやはり俺が他の人々と感覚がずれているのか。


「……ちょっとやる事が増えましたね」


「ん?」


「いえ、こちらの話です。あとお二人には後日侯爵様から呼び出しがかかると思いますのでそのおつもりで」


「……面倒くせぇな」


「我慢してください。ではこれで聞き取りは終了です。お疲れ様でした」


業務連絡の様につらつらと言葉を並べ、唐突に話を切り上げると、追い出されるようにして部屋を後にすることになった。


「なんなんだまったく……」


思わずそう呟くと、横からおっさんが面倒くさそうに口を開いた。


「しばらくしたら否が応でもわかるさ」


「おっさんはすでに何かしら気づいてるんですか?」


「まぁある程度は予想がついてる。というか普通の感性なら気付くよ。普通ならな」


俺の頭がおかしいことはよくわかった。


「俺がバカなのはわかりましたから教えてくださいよ」


「だからそのうちわかるって。それよりもお前この後何か予定あるのか?」


結局教えてくれることはく、話を変えられてしまった。


「今の所何もありませんが?」


「おう、なら飲みに行くぞ。打ち上げだ」


久々の酒だ。

前回の依頼から休み無しで依頼を受けたので酒の味が懐かしい。

何となく喜んでしまっているのが恥ずかしいので、口元がほころびそうになるのを抑え、おっさんの話に乗っかった。


「良いですね。行きましょう。場所は何処にします?」


「俺はまだこの町に来て日が浅いんだよ。お前に任せるわ」


「了解しました。じゃあ大通りにある魔道具屋の隣の酒場にしましょう。店の名前は酔いどれ鬼人。場所わかります?」


「魔道具屋なら大丈夫だ。任せろ」


打ち上げの段取りを組みながら階段を降りていくと、横合いから唐突にローザが抱きついてきた。


「ねぇ、ロイド。この後何か食べに行かない?いいお店知ってるの」


と、やたらと甘ったるい声で話しかけてきた。


「悪い、先約があるんだ。また今度な」


そう言って無理やり引き剥がして、とっととギルドから出て行く。


「ちょっと扱い酷くない?!」


無視だ無視。


「絶対に今度誘ってよー!」


そんな言葉を背後からかけられたので、軽く後手を振ってあしらい、ギルドを後にした。


「モテる男は大変だな」


「おっさん程じゃ無いですよ。じゃあ日没頃に」


そう言って一時的におっさんと別れた。


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