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遥々グラストンまで、鬼を背負って歩いてきた。

筋力増強の魔法のせいで青く光る大男が、ずりずりと黒鬼人の死骸を引きずって町に入る。

その光景を見た周辺住民や通行人から異様な目でみられている。

光景があまりにも異様過ぎてガヤガヤと騒がれることなく、ヒソヒソと。

彼らは此方に関わって良いものかわからないようで、大声を出して騒ぐ者がおらず、異質な物を見るような目で、町の人々に眺められながら歩みを進めた。


「ロイドくん!」


そんな中唐突に俺を呼ぶ声がした。

ここ数年ですっかり慣れ親しんだ声。

その声の主が、軽い足取りで此方に近づいてきた。


「ただいま、義姉さん」


兄貴の嫁さん、アリスである。

結婚して少しばかりふっくらしたのはご愛嬌。

義姉さんは結婚してもまだ、あの宿屋で働いていた。

おそらく仕事中だったのだろう、宿屋の給仕の制服のまま、息を切らせて走ってきたようだ。


「どうしたの?血相変えて」


「常連さんが教えてくれたわよ。あんたの義弟がとんでもないことしてるって。」


失礼な。

とんでもないことはしてきたのであって、現在進行形では無いはずだ。


「それで……それ何?」


盛大に引きつった顔をして、震える指で指差してきた。

流石に鬼人の死骸は女には刺激が強かったか。


「黒鬼人の死骸。昨日やっつけてきた」


極力義姉さんを刺激しない様に、何でもないことのように意識して言葉を発した。

が、無駄だったようである。

義姉さんは此方を指差しながら、口をパクパクさせていた。


「義姉さん大丈夫?」


そう尋ねると、パクパクさせていた口が止まり、今度はすぅーっという音と共に、大きく息を吸い込んでいた。


「やばいかも。おっさん耳塞いで」


「……ん?」


「いいから早く!」







「……っロイドくん何やってるのー‼︎‼︎‼︎‼︎」


「うおっ?!」


「グフッ!」


俺は慣れてるので仰け反る程度で済んだが、おっさんは地面に転がりのたうちまわっていた。

それにしても久々に義姉さんの超音波攻撃を食らってしまった。

義姉さんは声の質が非常に独特で、人よりも声が大きい。

そして、何故かやたらと俺に対して過保護である。

顔を合わせる度に母親の如く、「危ない仕事は止めなさい!」と小言を言われてきた。

流石に冒険者としての面子もあるので、小言を言われない様に、ここ最近は顔を合わせず逃げ回っていたのだが、小言が溜まりに溜まっていたのかいつもよりも威力が倍増している気がする。


「危ない仕事はやっちゃ駄目だって言ってるでしょう!」


「義姉さん、わかった、わかったから声量抑えて……」


「いいえ、ロイドくん。貴方はちっともわかってない!私達がどれだけ心配しているのかを!」


少なくとも兄貴はこれっぽっちも心配していない。


「これぐらい大丈夫ですから。俺もうBランクですし。どうってことないですよ。ほら、怪我も無いでしょ?」


じとっ……と胡散臭そうに此方を見てくる義姉さん。


「お前バキバキに骨折れてたじゃねーか」


ここに復活した裏切り者が一人。


「ロイドくん?!」


すごい形相で叱り倒してくる義姉さん。

それを横で眺めてニヤニヤしているおっさん。

明らかに俺で遊んでやがる。

と、思っていたがおもむろにおっさんが割り込んできた。


「まぁまぁそこのお姉さん落ち着いて。あぁ私は怪しい者じゃ無いですよ?今回ロイドくんと合同依頼を受けたニックっていう者です」


「……そのニックさんがどうなさったんですか?」


「いやね、お姉さんの心配は最もだ。そりゃあ弟が危ない仕事をしていたら心休まる暇もないでしょうね」


「そうなんですよ、だから彼には早く辞めてもらいたくって」


「うん、お気持ちはよーく分かります。でもね、彼もいい年した大人の男で、その大人の男が選んだ仕事なんだ。叱ることも大切ですが、暖かく見守ってあげる事も年長者として必要なんじゃないですか?」


「……でもですね、冒険者の依頼でももっと安全な依頼もあると思うんです」


「あるにはありますがね、そういう依頼はまだまだ駆け出しの奴らに取っておかないと、あいつらか食いっぱぐれちまうんですよ」


「……でも」


「それにこんな公の場で怒り倒すのは彼の面子も立たなくなってしまいますよ?」


「……」


「心配しなくても彼は強い。今はBランクだがすぐにAランク、ひょっとしたらその上にまで行っちまうかもしれない。それくらい実力と才能があるんです。私も太鼓判を押します。ここはひとつ、俺と彼の事を信じてもらえはしませんかね?」











「ロイド、とっとと行くぞー」


「助かりました」


「おう、……しかしお前の姉ちゃん、ありゃあ中々強烈だな」


「兄貴の嫁さんなんですけどね、一人っ子だったせいかやたらと世話を焼きたがるんですよねー」


「兄貴経由でどうにかならなかったのか?」


「兄貴は義姉さんの半下僕ですから」


「……惚れた弱みか。しゃーねーよなー」


そんな会話を交わしながら、冒険者ギルドへの道を進む。

相変わらず周囲はおっかなびっくりな様子だが、さっきのやり取りを聞かれていたせいか、異様な目で見られる事は少なくなっていた。

義姉さん出現のせいで昼を過ぎてしまったが、まだ陽の高い時間に冒険者ギルドまで来ることができた。

黒鬼人の死骸はでかすぎて扉を通れなかった為外に放置し、俺とおっさんだけギルドの扉を潜った。

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