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煙草一本、人間一人

更新が遅れてしまい申し訳ありません。



不審な影を追って、追いついて、更に半ば強制的に誘導して、前回此奴と戦った場所まで移動した。

ごきりと首を鳴らし、煙草を一本咥えて火を点ける。

左の人差し指と中指で煙草を挟み、紫煙を深くを吸い込んで細く吐き出すと、夜風に散らされながらも目の前の男前に向かって流れていった。


「それで……何のつもりだ?」


匂いが嫌なのか、紫煙が顔にかかった男は少し嫌そうな顔をしながらも、相変わらず飄々ときた態を崩していない。

相変わらず少し揺れながら、遠くを見るような目で俺たちを見ていた。


「だから話し合いだって」


俺の横ではおっさんが蹲っている。

どうも酔ったらしい。


「……死ぬ……死ぬ」


相変わらず情けない。

いい加減に慣れてほしいものだと思いながら、あえてゆっくりと回復の魔法をかけてやっていた。


「だから何を話すのだと聞いている」


男前は飄々としながらも苛立っているという器用な真似をしてみせながらこちらに問いかけてきた。


「相談」


折角結論から伝えてやったのに、返ってきたのは沈黙であった。

訝しげな、探るような目でこちらを見てくる。

案外煙草て煙たいだけなのかもしれないが。


「とりあえず俺はお前さんの討伐依頼を受けたんだわ」


そう答えると、始めに返ってきたのは言葉ではなく視線だった。

細められた目から感じられるのは純粋な敵意。

殺し合いも辞さないという無言の宣言を乗せられた視線。


「ほぅ、……殺るか?青鬼よ」


そう言って男はほんの少しだけ、重心を前に傾けた。

ヤル気満々なのが伝わってくる。


「あら、その二つ名、何処で聞いた?」


此方はあくまでのらりくらりと。

取り敢えずおっさんが復活しないと何も出来ない。

軟弱者め。


「街の女共が噂しておったぞ。新しい伝説は通称青鬼という、鬼の様な顔をした荒くれ者だとな」


「……死にたい」


あえて男の軽口に乗っかったら思いもよらぬダメージを受けてしまった。

未だに二つ名には慣れないし、荒くれ者だと思われるのは心外だ。


「こらこら、そう簡単に死にたいなんぞ言ったらいけないぞ。言葉だけでも命を粗末にするな」


「吸血鬼に命について諭されるなんて情けねぇなぁ」


横合いから復活したおっさんが、煙草に火を点けながら茶々を入れる。


やっと復活しやがったよこの不良中年が。


そう思うが俺の心の方が復活できないかもしれない。


「……結局死にたい」


「だからたとえ言葉だけでも命を粗末にするなと言っているだろうに」


「まぁ、そっとしといてやってくれ。此奴こんなナリをして意外と繊細なんだよ」


「まったく、若い男が情けない」


「これもまた若気の至りってもんじゃないか?」


「そういうものか?」


「そういうもんさ」


「……なにおっさんら意気投合してんだよ」


中年二人の息の合った掛け合いをジト目で睨みつける。

ほんの少しだけ黙っていたら、年配組から生暖かい目と優しい言葉を頂いてしまった。


……不本意だ。


「いや、意外と気が合うぞ」


「うむ、昔からの友人みたいだ」


気がつけば吸血鬼はゆらりと揺れるのを辞めていた。

案外ゆらりゆらりと揺れるのが、この男の戦闘態勢なのかもしれない。


「あっそ、あっそ、あっそ!話を戻すぞ!」


「いじけて話を脱線させたのはお前だろうが」


「だーもー!!とにかくだ!俺は依頼されたの!お前を殺すか!それともこの街から追い出すか!最後に仲間に引き入れるか!どれか選べ!」


「どれも遠慮する」


「遠慮してんじゃねぇ!」


「いや、何故私の身の振り方を勝手に決められねばならないのか」


「勝手に決めてない!選ばせてるだろうが!」


「だから選択肢で制限しているではないか」


「難しい事はわからんしどうでもいい!とりあえず選べ!」


「話が通じないなぁ」


話が平行線なまま交わらない。

何を言っても暖簾に腕押しというのだろうか。

此方が力を入れても柳のようにいなされるやり取りにもいい加減に飽きた。


……こいつらと話していると疲れてくる。もう力尽くでいいか。


そう思っていると横合いからおっさんが紫煙混じりの溜息をついた。


「あのな、吸血鬼さんよ」


「何だ?髭の冒険者よ」


「ニックって呼んでくれ」


……だから仲良くなってんじゃねぇよ。


そう思っておっさんをジト目で見るが、おっさんはおっさんで此方を気にした風でもなく、モクモクと鼻から紫煙を吐き出している。

どうにもこいつら二人が揃うと調子が出ない。

いつもならば俺がおっさんをいじっているのに、今日ばかりは分が悪い様だ。


「そうか。それでニックよ、どうした?」


……テメェも当たり前のように名前で呼んでんじゃねぇよ。


「一応俺らは宮仕えみたいなもんでな。上司にお前さんをどうにかしてくれって頼まれてんだわ」


「私が何かしたか?」


「そいつの姉貴の血を吸おうとしたろ?」


「何か問題でも?」


相変わらず男前は悪びれもせず、心底意味がわからないといった顔をしている。

そしていつの間にか紫煙の届かない場所へと移動していた。


「そいつの旦那、つまり此奴の兄貴なんだがな、俺達の上司のお気に入りなんだわ」


おっさんは咥え煙草で苦笑いをしながらそう答えた。


「……ほう」


「んで、この前の事で此奴の兄貴はまた連れ去られるんじゃねぇかってヒヤヒヤして仕事に支障が出てんだわ」


「……つまりは私がいると安心できないと」


「そゆこと」


「……返答だが」


「おう」


「やはり断る」


「だよなぁ」


やっぱりか、とでも言いたげに、またもや紫煙混じりの溜息を吐きながら首元をポリポリと掻いた。


「まず、私が誰かに仕えるなんて以ての外だな。吸血鬼は飼われる側ではない。飼う側だ」


そう言った瞬間、男前の不可視の圧力が増した。

右足を後ろに引いて軽く腰を落とし、いつでも突撃できる態勢をとる。

おっさんもほんの少しだけ重心を落としている


「なかなかの思い上がりだな」


おっさんがそう言いながら、一歩後ろへ退がり、二本目の煙草に火を点けた。


「外に出ていけ、という物もだ、私は私の好きにさせてもらう」


「そりゃそうだ」


そう言って溜息まじりにニヤリと笑ってやる。


「そして私はお前達に負けるほど弱くはない」


「へぇ、……良い度胸じゃねぇかよ」


根元まで吸ってしまった煙草を、ぺっ、と横に向かって吐き出す。

地面に落ちる寸前で、ポシュウと変な音を立てて、跡形も残さず煙草が燃え尽きた。

おっさんの仕業だろう。


「そもそもがだ。何故私の邪魔をする?」


「お前が人を連れ去るからだろうに」


その返答に対して、吸血鬼は溜息を一つ吐く事で返事をしてみせた。


「……煙草」


「あん?」


吸血鬼はゆらりと右手でおっさんが吸っている煙草を指差した。


「お前達はよく煙草を吸っているな?」


「……んで?」


「私にとって吸血行為はお前の煙草と一緒なのだよ。なのに何故邪魔されないといけないのか」


「じゃあ煙草を吸えばいいじゃん」


「お前は煙草の代わりに血を飲めと言われたら飲むのか?」


「ンなわけねぇだろ」


「自分にできない事を人にさせるのは如何なものかと思うぞ」


「つまりはお前にとって、煙草一本と人間一人は同じ価値なのね」


「雑な言い方をしてしまえばそうなるな」


そう言って吸血鬼はもう一つ溜息を吐いた。


「とにかくだ、私は私の好きにやる。私をどうにかしたいなら力づくでやってみろ」


おっさんが更に二歩退がった。


「良いだろう。どつき回してやる」


首を軽く傾けると、ゴキリと音がした。


「できるかな?」


吸血鬼がゆらりゆらりと揺れ始めた。


「やってやるさ。青鬼舐めんなよ」


絶対に吠え面かかせてやる。


そう決意し、自身に強化魔法を全力でかけた。



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