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夜の捜索、深夜の散策

ついでにもう一話



人々が寝静まった深夜、おっさんと二人でブラブラと暗い通りを歩く。

今日は雲一つなく、月明かりが明るい。

その所為か大通りから少し外れると、いつも以上に暗く感じる。

そんな薄暗い通りで足を止め、どちらからともなく煙草を咥えて火をつけた。


「んで?ぶらぶらしてるけど当てはあるのかよ?」


「いいえ全く」


「なんだよそりゃ」


おっさんの呆れた声が響く。

紫煙を吸い込むと、ジジッ、と火種から微かに音が立った。

暗闇の中でも赤々とした火種が、見えない紫煙を僅かに照らした。


「お前が先導したんじゃねぇかよ」


「じゃあおっさんは何か考えがあるんすか?」


そう尋ねると、おっさんの煙草の火種が上を向いた。


「どっか高い所に行くぞ」


「……高い所っすか?」


「吸血鬼なんだから空を飛ぶだろうが」


……飛ぶのか?


そう思ったが、そういえばあの野郎はあの夜通りではなく建物の上を移動していた。

ひょっとしたら俺の様に建物の屋根を跳んでいた訳ではなく、本当に飛んでいたのかもしれない。

まぁ、たとえ飛んでいなくとも、高いところから探した方が探しやすいのは間違いが無かった。


「おぉ、おっさん天才すか」


「お前の頭が悪いだけだ」


「それ、あいつにも言われましたよ」


「あいつ?」


「吸血鬼」


ブフォッ、と紫煙を吐き出してゲホゲホとむせている。

きっと笑いたかったのだろうが、タイミングが悪かったな、と思った。


ザマアミロ、だ。


「……人外に頭が悪いって言われるってなかなかだな」


ひとしきり咳をして、ひび割れた声でおっさんが呟いた。


「まぁ、半分人間らしいですけどね」


「そういう問題かね?おら、とりあえず行くぞ」


「何処にっすか?」


そう言うとおっさんは大通りから外れたこの場所でも見える建物を指差した。

すっかり見慣れてしまった屋敷。


「だから高い所だって。とりあえずはウォルグリーン侯の屋敷の屋根の上で構わんだろ」


「りょーかいっす」


そして真夜中である。

前世で言うならば、午前零時と言ったところか。


「暇っすね」


「仕方ねーだろ?待ち伏せなんて忍耐勝負だ」


待てども待てども、奴の影は見えない。

よくよく考えたら、彼奴が今日も活動するかどうかもわからないのだ。

無駄足になるのかもしれないと思うと、ついついガックリと来てしまう。

だからと言って他にいい方法も思いつかない。

吸血鬼との勝負というよりも、自分自身との勝負の様な気がする。

そして俺のなけなしの忍耐力は、間も無くぷつりと切れてしまいそうであった。


「張り込みみたいだ……。あー、アンパンと牛乳が欲しい」


「あん……?なんだそりゃ?」


「遠い国の食べ物です」


「ふーん、また妙な所で博識だな」


「食い意地がはってるんですよ」


「そんな問題かよ」


そんなくだらない話をしながら、目を凝らして月明かりに照らされた街並みを観察する。


「……ロイド、酒持ってねえよな?」


しばらく観察してから、唐突におっさんがそんな事を言い出した。

前世の記憶が影響しているのかもしれないが、仕事中に飲酒は流石にいかんだろうと思う。


「いや、流石にこれから殺し合いするのに酒は飲みませんって」


「だよなぁ。……戦争なんかだとな、死ぬ恐怖を紛らわせる為に、酒を飲んでから殺し合う奴等もいるもんでな。ひょっとしたらと思ったんだが……、仕方ねぇなぁ」


そう言って嘆息し、シュボッと煙草に火を点けた。


「大雑把な戦い方する奴ならそれでも良いのかもしれないっすけどね?接近戦で敵の攻撃をギリギリで躱したりするのに、酔っ払ってちゃあなかなか安定はしないっすよ。それに俺は死ぬ気はありませんので」


「そりゃそうか。仕方ねぇ、……煙草で我慢すっかね」


「せめて豆茶くらいは買っといたら良かったかもですねー」


「この辺売ってねぇかなぁ?」


「流石にこの時間は無いでしょう。……おっさん」


奇妙な影であった。

月明かりに照らされた街の建物の屋根に伸びる黒い影。

その影の持ち主はフワフワとして、まるで力が入っていない様に見える。

それでいて人よりも速い。


……ビンゴだ。


「ん?」


「見つけたかもです」


なけなしの忍耐力が切れる前に見つかって本当に良かったと思う。

後はどう料理するかだ。


「おぉ、追っかけるぞ」


そう言って二人共屋根から飛び降りる。

先に着地して落ちて来たおっさんを左手で掴み小脇に抱える。


「追っかけてどうします?」


「とりあえず街の外に出て話し合いだ。西の平原でいいだろ」


「りょーかいっす」


「ところで、だ」


「なんすか?今忙しいんですが」


「何故俺に筋肉増強をかけない?」


「風の音で何も聞こえないー」


「テメェやっぱりわざとかよコラァ!」


……やっぱりおっさんはこうでなくっちゃね。


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