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初めての邂逅、邪魔された食事


遠くの人影を追い、夜の街を屋根伝いに飛び回る。

勢いでいくつか屋根を踏み抜いてしまっているのはご愛嬌だ。

バレなければ良いなという考えがよぎるが、俺のなけなしの良心がキチンと弁償しないとなと訴える。

そんな馬鹿な事を考えながら走っていると、やがて街を出た先にある山に辿り着いた。

あまり木は生えておらず、岩の方が多い禿山。

僅かな時間でここまで来た敵の速さに思わず舌を巻く。


俺と同じ水魔法使いか、それとも他のナニカか。


この頃にはもう義姉さん達を見失っていた。

だが義姉さんを連れ去った奴が逃げた方向は覚えている。

夜の闇に紛れて途中で逃げる方向を変えられていたらおしまいだが。

だが有難いことに杞憂で済みそうだ。

敵が馬鹿なのか、それとも追いつかれるわけが無いと油断しているのか。

微かに男と女の声が聞こえた。


「お前、美味そうだな」


「……美味しい訳が無いでしょう?」


闇に紛れて顔は分からないが、男らしき人物が女の首筋に口をつけようとしていた。


みーつけたっ!


全力疾走。


敵まであと十歩。


あと八歩の所で敵と目が合った。


恐ろしく綺麗な顔をした男。


月明かりに照らされた、人形のような白い髪の毛に白い肌、紅い目に人より尖った犬歯。


残り五歩で前に飛び、左膝を前に突き出す。


自慢じゃないが、常人では目で追うことも出来ない速さだと自負している。


そして常人では目で追う事も出来ないであろう速さの攻撃を、男が目で追っている。


あぁ、……これは避けられるかも。


案の定、男はギリギリの所で、しゃがむ様に頭を下げて膝の一撃を避けた。


左足を地面に叩きつける様に着地して勢を殺し、男の方を見やる。


有難いことに、しゃがんだ後義姉さんと少し距離を取ったらしく、少し離れた所に立っていた。


獲物が巻き添えをくらうのを嫌がったか?


「おいコラ犯罪者」


男を睨みつける。

何と言うか、嘘臭い男だ。

服装は平凡。

容姿は人形。

男の雰囲気は何処と無くふんわりしていて、実体がないのではないかと思ってしまう。


「私は人ですら無いのだが?」


男は飄々とした、世間話でもする様な口調で返してきた。


「じゃあなんだよ」


見た目からして王道を行けば吸血鬼だろうか。

モーニングにマントでも羽織れば、完全に王道を行く吸血鬼だと思った。


「人間からは吸血鬼と呼ばれている物の半端者だ」


何のつもりか、男は少し体を左右にユラユラと揺らしながら答えた。

表情は変わらない。

男にはまるで感情が無い様な気がしてくる。


「半端者?」


半端者とはどういう事だろう。

純血の吸血鬼では無いということか?

……純血の吸血鬼ってなんだ?

いまいち考えがまとまらない。

……俺が頭使ってどうするよ?


「まあ、そこはどうでもいい」


軽く腕を横に振り、本当にどうでも良さそうに男がつぶやく。

ついでに溜息を一つ。

始めて感情らしい物が見えた。


「そーかい。んで?……何してんだよ」


男が軽く首を傾げた。

仕草一つを取っても、見た目も相まって気取っている風に見えた。


「食事だが?」


本当に不思議そうな顔をしている。

嘲るわけでもなく、馬鹿にしている風でもない。

この男にとっては当たり前の事。

きっと価値観の違いなのだろう。

だからそこに悪意がない。


「成る程。血を吸うわけね。食事を邪魔して悪いがこの人は駄目だ」


だからと言って、ハイどうぞ、なんてなりはしないが。


「何故?」


男がカタンと、右に首を傾けた。


「俺の義姉さんだからだ」


そう言って右足を後ろに引き、軽く腰を落とす。


……流石に家族を食われそうになって、黙っちゃおれんだろうが。


男はまだ構えない。


「ふむ、私には関係無いな」


そりゃそうだ。


だったら……。


「あっそ。じゃあお前の食事、邪魔させてもらうぞ」


徹底抗戦だバカヤロウ。


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