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伊達男の稽古、なっさけねぇ。




槍が目の前を通り過ぎる。


通り過ぎた瞬間に一歩踏み出す。


踏み込んだ左足からズダンッ!、と破裂音。


勢いを殺さない様に、腰をひねり左手を引き右手を突き出す。


途中槍で払われ、僅かに軌道が逸れる。


あれっ?と思った時には目の前に相手はいない。


背後に気配を感じる。


そして気配を感じた時には、既に背中側から心臓に向けてピタッと槍を突きつけられていた。


「……なんでそんなに強いんですか?」


俺の背後で槍を突きつけている短髪口髭の伊達男、ボロディンさんに向かって、俺はそう質問した。


「力はお前が上。速さもお前が上。技術はトントンかな?じゃあ後は何が違うと思う?」


低い、腹に響く良い声でボロディンさんがそう呟く。

きっとこの声が、女達の子宮に響くのだろう。


「……獲物?」


そう言うと、俺の背中に突きつけられた槍が離れた。

ボロディンさんはさっきまで俺の背中に刺そうとしていた槍で肩を叩き始めた。


「惜しい。答えは経験と相性だな」


全然惜しくない気がする。


背後に振り向くと、ボロディンさんかニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべていた。

こんな表情や仕草まで様になっているだなんて狡いと心底思う。


「経験と相性ですか」


そう言って前に一歩踏み込んでからの前蹴り。


完全な不意打ちのはず。


「要するに、だ。お前は単純すぎるんだよ」


ボロディンさんはその不意打ちを、事も無げに槍で払ってみせた。


「脳筋なもんで」


払われた方向にそのまままわり背後回し蹴りを打つ。


「それを言い訳にするな。まず経験が違えば戦いに幅が出来る。そして俺の戦い方は相手の力を利用する物。お前は力でゴリ押しする戦い方。お前の攻撃に対応出来れば、その力はそっくりそのままお前に返す、って訳だ」


独楽の様に回りながら、背後回し蹴り、回し蹴り、左フックに右の裏拳を交えながら攻撃する。

普通ならば速すぎてどれか一発は当たるはず。

しかし一つも当たらない。

受け止める様な事は絶対にせず、全て払い避けて、いなされる。


「対応出来なければ?」


浮き足立ったところで足を払われた。

普通ならば耐えれるが、うまく俺の回転の力を利用され、転ばされた。


「俺が死ぬだけだし、そして俺は今まで死んだ事がない。お前は死にかけても生き返れる分、少し雑なんだよ。そこが防御に差が出てくる」


ピタリと俺の首筋に槍を突きつけたボロディンさんが、フフンと笑いながら見下ろしてくる。


コンチクショウ!


「もう一戦!」


立ち上がる。


足を払われる。


槍を突きつけられる。


はい、一本。


……なっさけねぇ。


「まぁ実際に殺し合えば、俺の体力が先に切れてお前の勝ちだろうがな」


そう言って倒れた俺に対して手を差し出す。

ウォルグリーン騎士団最強の男の名前は伊達じゃない。

と言うか、国士無双なんじゃなかろうか、とも思う。

今まで色んな強敵と戦ってきたが、強化した俺に生身で立ち向かえる人なんで一人も居なかった。


生身で俺を制することができるこの人は、最早人間じゃないのではなかろうか。


本気でそう思ってくる。


「……勝てる気がしません」


思わず言い方が子供っぽくなってしまった。

そんな俺をクスクス笑いながら、俺の手を掴んで引っ張り上げた。


「そう考えているうちは俺にはそう簡単に勝てんよ」


がっくりと、肩を落としてしまった。


「あと、お前は真面目だなぁ……」


「……俺がですか?」


ボロディンさんの口からしみじみとした口調で告げられた内容に、思わず聞き返してしまう。


「戦いの中に遊びがない」


「遊んでどうすんすか?」


思わずムッとしてしまう。

掴んだ手を支点に一本背負いを仕掛ける。

だが柳か猫の様に脱力し、体を入れ替えたボロディンさんが見事に着地する。


「戦いの中の遊びを有用にするのか無駄にするのかはそいつの力量次第ってな」


槍が頭に向かって突き出される。


首を傾けて回避。


しかし気がついたら槍が足元へ。


スパン!という音と共に足が払われた。


「うげっ」


そう情けない声をあげて、俺がコロンと転がされてしまった。


「ほれ、一本だ」、


情けなさすぎて天井が滲みそうだ。


……もう意味がわからない。


人外と呼ばれた俺の、偽らざる本音であった。


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