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新しい道具、防御は最大の攻撃


空は青く澄み渡り、気持ちの良い風が駆け抜けていく。その爽快感はキンキンに冷えたビールの様で、……止めよう。文才ねぇわ。


寒く厳しい冬が過ぎ去って、大分暖かくなってきた。

王都の大通りを行き交う人々は何処か浮かれている様で、殆どの奴らが微笑みを浮かべている。

きっと俺も何処か浮かれているのだろう。

少なくとも、無い頭をひねって慣れない下手くそな詩を読む程度には浮かれている様だ。


俺の腹時計が正確ならば時刻は多分昼飯時。

そしてそれを肯定する様に飯屋に続々と人が入っていく。

美味そうな匂いに後ろ髪を引かれつつ、無理矢理意識を逸らして目的地へと歩みを進める。

歩きながらじゃ煙草も吸えない。


「んで?何処に向かってんだ?」


左側から、ある意味兄貴や嫁さんよりも聴き慣れた少ししゃがれた声で、同行者が声をかけてきた。


「鍛冶屋です」


暇そうにしていたニックのおっさんを無理矢理連れてきた。

理由は当然、用事が終わった後に酒を飲み交わすからだ。

一人旅で一人酒、というのも中々オツなもんだとは思うが、今回は何と無く、馬鹿みたいにワイワイしながら旅をしたかった。


「あれ?もう金砕棒ダメになったのか?」


おっさんは眉毛を上げて、さも意外そうに声をあげた。

おっさんも俺同様、人混みでの歩き煙草はしない派らしい。

早く吸いたいのか、いつもより歩く速さが上がっていると思う。


「この馬鹿力め」


言われると思った。

だがありがたい事に、金砕棒は俺の馬鹿力にも耐えてくれている。

職人様々だ。


「違いますー。まだまだ現役ですよ。今日はもっと違った買い物です」


「ふーん」


おっさんは煙草とこの後の飯の方に頭が行っているのであろう。

どうでも良さげな相槌を打たれた。

実際先に飯を食ってからでも良いのだが、外で飯を食うとなると時間をずらさないとちょっと面倒臭い。

昇格してしまった所為で、随分と有名人になってしまった。

……しかも悪い方向に。

何故か俺が店に入ると、客が逃げ出すのだ。

あるものはそっと気配を消して。

あるものは血相を変えてワタワタと。

あるものは飯を持ってジリジリと。

中には人の顔を見た瞬間に卒倒する奴までいやがる。

グラストンじゃこんな事はないのに。

何故か王都限定でこの様な現象が発生していた。


……真面目に生きてきたつもりなんだがなぁ。

理由も無く人をどついた事は無いはず。

………………無いはずだ。


そうやって自分の人生を振り返っていると、いつのまにか目的地の鍛冶屋に着いていた。

あの、金砕棒を作った鍛冶屋である。

あれからも王都に来る用事があると、必ず顔を出す様にしていた。

そして金砕棒の調子を見てもらって、少し駄弁って煙草吸って豆茶飲んで帰る。

それが王都に来た時の習慣になっていた。


「おっちゃんできてるー?」


勝手知ったる他人の家、じゃないが勝手に入っておっちゃんを呼びつける。

口調も随分とくだけてしまった。


「おぉ、青鬼。出来てんぞー。ちょっと待ってろー」


「ヘーイ」


姿は見えないが、奥からゴソゴソと物音は聞こえる。

いつもの店番をしている小僧が出て来ないところを見ると、どうやら今日は居ないらしい。

暫くすると、相変わらずのずんぐりむっくりな髭面が出て来た。

手に持っているのは木の板。

その上に乗っかっているのが、今回俺が欲した物なのだろう。


「ほれ、此奴だ」


「おぉ、これこれ」


「……何だそれ」


手に取って確かめる。

思ったよりも重い。

自身に魔法をかけて、強く握りしめてみるが壊れる様子もない。


うむ、上出来。


「籠手っすよ」


「つけてみなー。言われた通り、竜骨で作った特注品だ。良いだろう」


そう言われて実際につけてみる。

黒光りしたそれは、やはりズッシリしている。

しかしそれ以上に、馴染む。

全く違和感が湧かない。


「良いっすね。ズッシリして打撃の威力も上がりそうだ」


左右の籠手を打ち合わせてみる。

まるで金属の様な、キィンと高い音が響いた。

軽く腕を振ってみる。

ヒュッ、と風切音がした。


うん、良い感じ。


「ちゃんと金は払えよー」


おっちゃんはそう言いながら、ドンッ、と灰皿を台の上に置いて煙草に火を点けた。


あっ、一人だけ狡い。


「もっちろん。無駄に金ばっか増えてるから楽勝だ。俺らも吸って良い?」


「好きにしろ。金持ってるんだったらもっと使え。経済を回せよなー」


歯に絹着せぬ物言いをして来たおっちゃんに、思わず苦笑いを浮かべた。

隣を見ると、早速煙草を咥えたおっさんも、苦笑いを浮かべている。

煙草に火を点けて深く吸い込む。

左手の人差し指と中指で煙草を挟み、紫煙を吐きながら両腕を広げて大袈裟に肩をすくめてみせる。


「まさか武具屋のおっちゃんに経済の事を言われるとは」


そう言ってまた大袈裟に溜息を吐いてみせる。

おっちゃんを見やると、咥え煙草で頬づえをつき、ニヤニヤと笑っていた。


「つまりお前はその辺のおっさん以下の頭しかねぇって事だ」


「まさかのしっぺ返し!」


俺には頭が無くても筋肉があるからいいもんね!


そんな強がりを心の中でしていると、二本目の煙草に火を点けたおっさんが台にもたれて不思議そうに声をかけてきた。


「……なんかお前らしく無いな」


「……そうですか?」


今のやりとりが、という事だろうか?

いまいち言葉の意味を理解しきれないでいると、おっさんは更に言葉を重ねてきた。


「守り固めるなんてらしくねぇだろ」


あぁ、そういう事か、と得心した。

つまり戦うといえば殴る事しか頭に無さそうな俺が、防御を高めるという消極的な事を考えたのが不思議だったのだろう。


「基本は格闘っすからねー。防御は最大の攻撃ですよ?」


「何だそれ?」


やはりおっさんは、近接戦闘に関しては造詣が深くないのだろう。

頑丈な籠手があれば、それだけで有利になるのに。

敵の攻撃を受けるのもいなすのも、何方も籠手があった方がスムーズにいく。

籠手の形状自体が受け、いなしをやりやすく作られているし、本人への被害も防いでくれる。

いくら俺が頑丈だとは言っても限度があるし、何より痛い。

痛みが緩和されるだけでも御の字なのに、更に今回の籠手は特注で、滅茶苦茶高くて滅茶苦茶硬い地竜骨で作られている。

つまりは俺が滅茶苦茶な事をしても、そう簡単には壊れない、という事だ。


と、いう事をおっさんに説明しようと思ったが思いの外面倒臭い。

だから出来るだけ簡潔な言葉に纏めて説明した。


「少なくともやられなければ負ける事は無いでしょう?」


この一言に尽きる。

意外と文才があるのかもしれねぇな。


「そういうもんかね」


今作ったデタラメですがね。


おっちゃんを見ると、頬づえ咥え煙草にジト目といった、あからさまに呆れた表情をしていた。


「そういうもんです。さて、良いもん手に入って気分が良いんで飲みにいきませんか?奢りますんで」


おっちゃんの表情を無視してそう言葉を発し、短くなった煙草を灰皿に突っ込んで揉み消す。

鍛冶屋の窓から外を見ると、チラホラと飯屋から人々が出ていくのが見えた。


丁度いい頃合だろう。


そう思って、昼から酒を飲むという贅沢に想いを馳せた。

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