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キーナの魔法~外伝~  作者: 小笠原慎二
風のオーガと赤の賢者
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風のオーガと赤の賢者3

深夜を通り過ぎ、明け方に近いのではないかというくらいにやっと解放された。

なんて奴らだ。

しかしあの強さはもったいない。

もし味方に引き込むことができれば、戦況は大きく変わるだろう。

なによりも、あのオーガという男。

あまり人に関わりたくはなかったが、時折、やはり心動かされる者に出会ってしまう。

人であるが故に、人に魅入られてしまう。


「やっかいだな」


別れ際にちょろっと話をしてみた。

俺の方へ来ないか?と。

オーガは笑った。

そして言った。


「2倍の額を出してくれるんなら鞍替えしてやるぜ?」


提示された額は安いものではなかった。

だが、払えないものでもない。


「無理だとは思うぜ」


オーガは笑った。

何かを承知しているかのように。


「掛け合ってみよう」


そう言ってその場を後にした。






オーガは知っていたのだ。

そして私は忘れていたのだ。

貴族という者が、いかに愚かなのかということを。











夜。

人の目を盗み、またあの風の傭兵団の元へ飛んだ。

昨日と違い今日は静かだった。


「昨日騒ぎ過ぎたらしい。みんな今日は早めに寝ちまったよ」


茂みに隠れていた私をやはりオーガは簡単に見つけ出した。

これも風の力なのだろう。

さすがに一杯ということもなく、少し離れた丘の上へ移動した。

月の光が冴え冴えと、という表現がよく似合う場所だった。


「んで? 暗い顔をしてるってことは、やっぱりお偉いさん方を説得はできなかったみたいだな」

「…分かっていたのか」

「そりゃそうだろ。俺たちはそんな扱いさ」


にっかりと笑う。

使い捨て。

それが傭兵の扱われ方だ。

戦場でいくら死のうとも頭数に数えられることもない。

少しは役に立った。

奴らはその程度の認識しかしないのだ。


「いつものことさ。無理だとは思ってた」

「お前ほどの者がもったいない。どこかの国に召し抱えられることは考えていないのか?」

〈i154207|14575〉

「…性分、かな? 縛られるのが嫌なんだよ」

「だが、このままでは…」

「みんなそれで納得してる。変えられないものもあるんだ」

「…」


風、故かもしれない。

風はどこまでも流れ、巡るもの。

何にも縛られず、何にも止まることはない。

だが、このままでは…。


「そんな簡単に死にゃしねーよ。俺たちは傭兵だしな。やばくなったらとんずらするさ」

「そううまい具合にいくか」

「今までそれで生き延びてこれたしなぁ。なんとかなんじゃね?」

「…お気楽野郎…」

「そーでなくっちゃ生きてけねーって」


にっかりとオーガは笑う。

こんな戦場の中で、なぜこんなにも清々しく笑うことができるのだろう。

この若者が、なぜ団長の地位に就いているのか、なんとなく分かる気がした。












その奇襲は、私には何の知らせもなかった。


「どういうことじゃ! 向こうの戦力を削れるかもしれないと、言っていたじゃろう!」

「例の傭兵団のことか? そんなものに頼るなどと我が国の名折れだ。我が国にも立派な兵士がたくさんいるのだ」

「その兵士が突破できなかったのは? 例の傭兵団のいた所じゃろう」

「…」


都合の悪いことには口をつぐみやがった。


「もうすぐに向こうの頭を取れると知らせが来ておる。お主ももう用がないかもしれんな」


それならそれで有難すぎるわ。

だが、あの傭兵達は…。


「もう用がないというなら、わしがこの場を離れようとも、文句はないな?」

「別に。よかろう」


本当に焼き殺してやりたいという衝動を抑え、テントを飛び出す。

あの傭兵団は、あの男は…。

死なせたくなかった。















「だめだ! オーガ! 囲まれた!」

「奴ら、俺たちを囮にしやがった!」

「くそ…」


右にも左にも、前にも後ろにも敵の気配。

このままでは…。


「クラウダー、この道を突っ切れ。そこが一番手薄だ」

「だが…」

「ここは俺に任せて、みんなを連れてけ」

「オーガ?!」

「いいから行け! 俺たちは帰らにゃならんだろう!」


お前が一番…と言いかけて、緑がかった髪の男、クラウダーは言葉を飲み込んだ。


「行くぞ! 私に続け!」


クラウダーを先頭に、黄色い髪の集団が走り出す。

そこへ降り注ぐ矢の雨。


ゴウッ!!


強い風が矢の雨を防ぐ。

飛んできた矢は全て勢いを失くし、地に落ちた。


「さあって、俺に殺されたい奴は、どいつだ?」


黄色い瞳に残酷な光が宿った。















絶え間なく降り注ぐ矢の雨。

そんなものは問題ではなかった。

風を繰り、近場のものから息の根を止めていく。

普通の人間にその速さはついて行けるものではなかった。

風に巻かれ、剣に斬られ、バタバタと兵士が倒れていく。

それはまるで、金色の風が暴れまくっているようにさえ見えた。


「へへ、へ…、さすがに…きついかな…?」


人であるが以上、魔力に限界は来る。

兵士の半数以上が倒された頃、オーガの動きが少し鈍りだした。


「今だ!」


待ち構えていた魔道士たちが一気に地の力でオーガに襲い掛かる。


「くそ…、だから、地は苦手なんだよ…」


地の刃がオーガに迫った。


(サラ…せめて、お前の元に、帰りたかったなぁ…。俺のガキ…サーガ…一目…見たかった…)


地の刃が、オーガを貫いた。


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