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キーナの魔法~外伝~  作者: 小笠原慎二
風のオーガと赤の賢者
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風のオーガと赤の賢者

まだまだ先のお話なので、話を読まれてもちんぷんかんぷんかと思います。載せるだけ載せてはみますが、本編を終了、あるいは本編を半分以上読んでから出ないと話の筋は通りませんので、読まれないことをおすすめします。

自分を受け入れてくれたミドル王国への恩もあり、仕方なく受けた。

もう戦に関わることはないと思っていた。

だが時代は、歴史は、埋もれることを許してはくれなかった。


(おかしい)


布陣を見ていた。

だが、一番突破できているはずのところが苦戦している。

なぜだ?


「おぬしの力量もしれたものだのう」


ミドル王国の古くから懇意にしているというオードルの新国王が言った。

先代が逝ったばかりで、彼が新しい国王になった途端、周辺各国に戦を仕掛けているという。

今当たっているところはなかなかの大国で、そこそれなりに武力もあり、魔道士の質も高く、難戦になることは目に見えていた。

だがこの王は戦を退くことは選択肢にはないようだった。

できればこんな戦線からさっさと離脱して、やりかけのものを片付けてしまいたかったのだが。

最善の策を講じたはずだった。

すでに突破していいはずの場所。

ここを突破できなければ他を援護することもできない。

だが、相手の力量が自分の予想を上回っていた。


(おかしい)


それなりの情報を集めたはずだった。

そんなに苦戦するほどのものがあるとは思えなかった。


「紅蓮の牙か…。古き神話だな」


昔の自分の二つ名を呼ばれ、とっさに焼き殺してしまおうかとしてしまったが、今一歩のところで思いとどまる。

無意味な殺戮をしている場合ではない。


「どうやら敵陣によほどの実力の者がおるようです。わしが行って参りましょう」


見下した目の王に頭を下げ、様々な怒号の飛び交う戦場の空へと舞いあがった。
















空へと上がると布陣がよく見て取れる。

やはり一番突破して欲しいところが押されている。


(敵陣にそんな力があったろうか…)


オードルの兵士たちが踏みとどまるその先に、黄色い集団が剣を振るっていた。

黄色い髪の者が多い。または黄みを帯びた髪の毛。

中でもその先陣を切る黄色い髪の黄色い瞳を持った青年が、驚くほどの華麗な剣技で、オードルの兵士たちをなぎ倒していた。


(黄色…! まさか…、まさか…!)


100年探し求めて、巡り合えることのなかった最後の一族。


(こんなところで出会えるとは…)


態勢を整えると、先陣の若者めがけて突っ込んで行った。















相手もこちらに気づいた。

オードルの兵士たちも遅れて気づき、場所を開ける。

黄色い青年の目の前に降り立った。

よくよく見れば、まだ17、8くらいの若者だった。

だが、戦い慣れしている。


「なんだ? そちらさんはじいさんを戦に出すのかよ」


戦場ということを忘れてしまいそうな、あっけらかんとした口調で青年が言った。


「そっちこそ、若いのばかりじゃな。余程人手が足りないのか?」


みれば、黄色い髪の者達は若い。平均でも30いってはいないのではないのか?


「敬老の精神ができてるのさ。なんつって。んで? じいさんがここにきて何しようってんだ?」

「敬老精神があるならば、ここは引いてもらいたいものじゃがな」

「そいつはできない相談だな」

「だろうな」


右手を地面にかざし、足元に意識を集中させる。

地の精霊の気配を探し、繋がる。

そして、


ずず・・・ずずず


大地から剣が生えてきた。

オードルの兵士たちが驚きの声を上げる。


「ほえ~すんげえ」


目の前の若者も素直に感想を吐き出した。


「呪文もなしにそんだけのことをねえ。あ、もしかして、あんた、紅蓮の牙?」


あっさりと若者が自分の二つ名を上げた。


「そんな名前もとうの昔に呼ばれていたことがあったよ。君は、もしや金色の餓狼と呼ばれてやしないかい?」

「お? 知ってる奴はいるもんだな? そ。なんかそんな名前で呼ばれてるらしいよ、俺」


近頃の戦場で耳にしていた金色の餓狼。

数多の戦場に現れるという噂を聞いてはいたが、目の前にしたのは初めてだ。


「なるほどな。面白そうだ」

「うん。じいさん面白そうだな」


お互いに睨みあう。

剣技はそれほど得意でもないのだが…。

同時に地を蹴った。












剣技は申し分ない。

というか剣だけならばきっと倒されていただろう。

それだけ素晴らしい動きをしていた。

右に左に素早く動き、一瞬でも気を抜くと目の前に剣先が迫っている。

だが、自分にはそれを補う力がある。

死角から炎で襲い、地を操り足場を奪う。

どうやら魔法での戦いには慣れていないようだった。


(無理もないか)


100年前に比べ、魔道戦士はほとんど見なくなっていた。

魔道を極めながら剣を極めるのはやはり難しい。

となれば、最低限の必要となる魔法しか覚えないようになるのは当然だった。

目の前の青年も、剣と剣でぶつかり合うことしか知らないのだろう。


(ならば)


一瞬間を作り、地を爆破する。

舞う埃に隠れ、人形を作り上げた。

自分そっくりのだ。

自分はそのまま宙に上がり、気配を消した。


「くっそ! 地は苦手なんだっつーの!」


そう叫ぶと、金色の餓狼は風を繰り、砂埃を消し飛ばす。

その前に不敵な笑みを浮かべた紅蓮の牙。

金色の餓狼は一気に間を詰め、紅蓮の牙に襲いかかる。

その太刀筋をひらりと躱し、剣で襲いかかると見せ、金色の餓狼の背後に火の玉を現す。


「その手は読んだぜ!」


風を繰り、火の玉を吹き飛ばした金色の餓狼の剣先が、紅蓮の牙を貫いた!


(かかった!)


すでに背後に迫っていた紅蓮の牙は、自分の剣先が若者を貫くことを確信していた。

だが、若者に剣先が届こうとしたその時、阻む者がいた。


(! 風…!)


風の壁が行く手を遮ったのだ。


「く!」

「!」


すんでのところで軌道を変えられ、若者に気づかれた。

剣先は空を切り、勢い余って地面に転がった。


「く…」


すぐさまに飛び起きる。


(やはり…、風の…)

「おいおい、俺が貫いたのはなんだったんだよ…」

「土くれの人形じゃよ。よくできていたろう」

「できすぎだっつーの。でも貫いた感触が人間じゃなかったんだよな。でもじいさんてそういうもんかと一瞬納得しかけちまった…」

「人間は最後まで人間だ…」

「だよな…」


おかしな問答が戦場に響き渡った…。


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