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超接戦

 フロアに入る、大きな扉。その手前のベンチで、ひとまずミーティング。

「軽トラパレードへの第一歩だな。2年生しかいないから負けるなんて事はない。まず、品山(しなやま)だから頑張ればいけるとは思う。気抜くなよ。いいか?」

「「はい!!」」

「俺まず先行ってるから、お前らここで待ってれ。もうちょいしたら、来い。」

 緊張の2、3分が過ぎる。

「よし、行こう。」

「んじゃ、行きますか!」

扉を開けて、フロアへと入る。

 騒がしいフロアに入る。

 女子は、2度目のタイムを取っている最中。近くを通るので、軽く声をかける。

「頑張れよ。今まで積み重ねてきた事を信じて。」

夢々子の目がものすごく輝く。見夜も、嬉しそうな顔をする。

「はい、全力で行きます!」

「もちろんですよ!」

 品山と向かい合う。礼をして、試合が始まる。田沢湖はすぐに台へ向かう。(相手、背高過ぎ!?これ中学生か…??)

 試合が始まると、相手は目立つ攻撃はしないタイプの人だった。田沢湖自身も攻撃はあまり得意ではなく、サーブの回転や粘りで相手を追い込むタイプである。

 結局、1セット目を相手に取られ、アドバイスを受けに先生の所へ。

「あっちもお前と同じようなタイプだってことは分かっただろ?」

「はい。」

「とりあえず、お前は出来るだけ攻撃しろ。次のセットは打ち合いに持ち込め。」

 2セット目。田沢湖が今日初めて繰り出すドライブサーブで打ち合いに持ち込む。案の定、相手は戸惑い、普通に点が取れた。下回転には出来る限りのドライブをかけて返し、とにかく自分から仕掛けていった。

 狙い通り2セット目を取って、先生の所へ。

「いい調子だ。このまま行け。」

「はい。」

 コートチェンジで反対側の台へ向かう際、女子の試合が行われているコートで、さえりが泣き崩れているのが見えた。周囲に1年が集まって、一緒に涙を流していた。隣の台で試合をしている今日太郎も、状況を察したようだ。男子の皆の視線がすっ、とベンチにいる島護に集まる。島護がうなずくと、自然に皆もうなずいて、一人一人決意を更に固めた。

 3セット目。予想していた相手の抵抗は未だ無く、難なく田沢湖が取って4セット目へ。今日太郎はどうやら、勝ったようだ。隣の台には由斗と墓谷のダブルスが入っていた。

 4セット目。相手が田沢湖のドライブのコースを読んで返してくる。さらに、スマッシュを打ってくるようになった。

 いくら時間が経っただろう。気付くとカウンターは27対27。ラリーは毎回10往復以上はしてた気がする。隣のダブルスは敗れ、漢の巨体が隣のコートでうごめいていた。

 タイムがかかり、ベンチへ戻る。

「すごい勝負してるな。疲れねが?」

「多分疲れてます。」

「相手も疲れてるだろうな。こっからは、お前さ任せる。打ちにいってもいいし、じっくり慎重にいってもいい。漢は多分ダメだ。お前次第だからな。」

「はい。」

 軽く水筒の中のウーロン茶を飲んで、コートに戻る。試合再開。

 田沢湖の高速横回転サーブを、相手がレシーブミス。続いて相手の下回転。ツッツキで返して、ドライブの打ち合いに。田沢湖の粒高ラバーがボールを捉える。突然の変化に、相手は戸惑ってチャンスボールが返ってくる。(今だ!)

「行け!!田沢湖!!」

日村先生と今日太郎、由斗、墓谷が同時に叫ぶ。

「「「いっけぇ!!!」」」

上で応援していた女子達も叫ぶ。

 ドン!!!!!!踏み込んだ足音だけがむなしく響く。ボールは、ゆっくりと床へ落ちる。こん………。

 相手ベンチはお祭り騒ぎ、夏浜ベンチは一気に沈む。(嘘だ…。ここで空振り?僕は今まで何のためにスマッシュ練習してきたんだ?決めるためじゃないのか?なぜだ…。なんで、なんで?決めないと…。ここで決めないといけなかったのに。僕は…ぼくは…。)

 混乱を読み取ったのか、日村先生がすかさずタイムを要求する。田沢湖は膝から崩れた。

「負けたわけじゃない。これから、どうする?」

田沢湖は、声を出せない。

「何か、考えてるだろ?頭の中で。それを、実行するんだ。」

「……はい。」

やっと、返事だけが絞り出せた。ふらっ、とコートへ戻る。

 田沢湖のサーブ。回転がかからず、すぐに振り抜かれたがアウト。何とか同点にした。だが相手のサーブには勢いがつき、返すので精一杯。ふらふらしながらも、何とかラリーは続く。また、ラリーが長引く。粒高も使いながら、相手を戸惑わせる。相手は粒高にだいぶ慣れたようで、落ち着いて返球してくる。(そうだ。フォアの攻撃的なツッツキを習ったんだ。今使えば、形勢は一気にこっちに来るか…!?)

 ピュン!と田沢湖の手首が繰り出される。速い球が相手のコートに入る。ストン!と相手のコートの表面をかすめて、ラケットの下をすり抜けてボールはコートを飛び出す。(決まった!!!よし!!よーーーーーし!!)

 29対28。この1球で、勝負を決める。そう、固く心に決めて、一番自信のある横回転サーブを繰り出す。とんとん、と軽い音が響く。相手のボールが横にすっ飛ぶように返ってくる。エッジに当たる。ボールは、下に落ちた。(は!?ここでエッジ!?あの野郎…。あー、こういうときは感情的になったら負けだっけが。ま、落ち着け。次から2点続けて取ればいいだけだ。)

 相手のドライブサーブ。思いっきり打ち返してみると、猛スピードでボールは相手のコートに突き刺さり、低くバウンドして相手の広い懐へ突っ込んでいった。30対29。次こそは、決める。

 (まぁ、シンプルで確実な下回転サーブで行くか。ドライブからのスマッシュで勝負をつけられるはずだ。)覚悟を決めて、下回転サーブを出す。相手は攻め急いだのか、いきなりドライブをかけてきた。しかし、それはネットに引っ掛かる。31対29。勝負は、決まった。

「よっしゃーーーー!!」

島護が叫ぶ。多分、勝った僕よりも叫んでいた。

「「よーーーーし!!」」

女子も喜んでいた。

 結果、夏浜中が品山中を3対1で破り、午後の決勝トーナメントへ進んだ。

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