重大発表
今日から、部活動強調旬間である。総体まであと約2週間。いつもより長く練習し、サーブ練習を多めに取り入れた。どちらかと言えばいつもと特に変わったことをしていない。普通の日だった。はずだった。
練習後のミーティング。龍山先生から、衝撃の発表があった。
「今日ね、まずは練習に遅れて来てごめん。それでね、結構重大な発表があります。」
皆、大会の事についての発表かと考えているようだった。だが、田沢湖は発表の内容をだいたい想像できた。さえりの表情がひどく曇った所を見たから。だが、漢と墓谷の表情まで暗く沈んだのは、不思議に思った。
「皆、TG社の大規模人員整理のニュース、知ってる?」
TG社とは、夏浜中のある市に本社を置く大規模企業である。最近、大規模な人員整理を行っており、それに伴って本社から県外の支社へ80人程度の大転勤を行うことが決まっている。
「それでね…さえり、漢、墓谷のお父さんが今日学校に来たんだ。」
このときに、皆何かを察したようだった。
「3人のお父さんはね、その人員整理によって、四国まで転勤する事になりました。」
(えっ、漢も墓谷もTG社勤務だったのか。つうか、さえり本当にいなくなるのか…。男女総合キャプテンなのにな…。まぁ、仕方ないか。)うわっ、とさえりが泣き出す。漢も墓谷も顔を上げない。さえりが、しゃべりはじめる。
「私は、四国までついていきます。いきなり過ぎて、抵抗もしたよ。けど…けど……」
結局泣いてしまい、言葉の続きは出なかった。
「俺の父さんの辞令は、6月25だ。皆も、同じ日だよな。」
普段口数の少ない墓谷がしゃべりだす。
「総体までは、この部にいれる。振替休日の間に、俺らはいなくなる。いなくなりたくは、ないんだが、な…。」
静かに涙を流す。皆も、黙ってそれを見つめる。
「皆、わかったね。これは事実。絶対に逃げられない。これを乗り越えて、新しい部になるんだよ。」
普段は軽い日村先生も、黙って聞いている。
「まだ、悲しむ事は無いさ。」
田沢湖自身も、知らないうちにそんな言葉を吐き出していた。すっ、と視線が集まる。
「残った時間を、思い出深い時間にしよう。泣くのは、それからだ。」
そう言っといて、自分も泣いていたかもしれない。
「おっしゃ、こうなったらアレを目指すしか無いだろ!?」
涙を隠すように、漢が声を張り上げる。アレって何?と、1年がざわめく。2年生と日村先生は分かったようだ。ニヤリと笑う。
「レッツ・軽トラパレード!!」
キャプテンが高らかに叫ぶ。
夏浜中卓球部の、長年の願い。『県大に行ったら、軽トラでパレードしよう。』それは、今まで叶わなかった、目標。今だからこそ、それができる。先生にも、2年にも、1年にも、その思いは伝わった。今、この瞬間に…。
笑い声が起こる。そして、日村先生のまとめの言葉。
「んじゃ、今回はその目標に向かって、必死に練習するように。いいですか!?」
いつもより大きい、決意の籠った返事が返ってくる。この卓球部は今、明らかに変わった…。