テレビ出演
「プルルルル…プルルルル…」
(電話?珍しいな、固定電話に電話来るなんて。)『復興詐欺』とかいう新手の詐欺もあるらしいので、不審に思いながらも電話に出る。
「…はい、中崎です。」
「あ、もしもし…1年の横夜魔紀友ですが、田沢湖さんいますか?」
「…僕だけど?」
「あ、そうなんですかあ!?電話だと全然声違いますよぉ。」
「んで、どうしたんだ?家に電話かけてくるなんて。」
「実はぁ…来年の4月にJapan TVで放送される特番に、地震の時に閉じ込められた5人にぜひインタビューしたいとのことで、出演しないかという電話が学校に来たらしいんですよぉ。で、答えは1週間くらい後でもいいから、5人で話し合え、と…。」
「て、テレビ番組に出んのか、僕達…?」
「らしいですよぉ。」
「他の人には、電話したのか?」
「まだです。とりあえず田沢湖さんに話しとこうかな、と。」
「僕は出てもはいいけど…。」
「私も問題ないんですけどぉ…他の人にも聞いてみますね。」
「わかった。」
「それでは、これで。さようならぁ。」
「あ、うん、じゃあね。」
しばらく、田沢湖は呆然としていた。(テレビ出んのか…。4月…4月?出てる暇あんのか?無くね?春季大会の練習もあるだろうし、新学期の準備で忙しいし…。つうか、叔父さん1周忌じゃん。絶対無理。あ、けど…生放送じゃなかったら別の日に収録されんのか。なら、出れるかな?ん、僕達がJapan TVの本社まで行くのか?それともあっちがここに来るのか?…あぁ、まぁいいや。いずれなんとかなるだろ。)
その日の夜、両親にもその話をした。もちろん出演を快諾してくれた。
年が明けて、3学期になった。職員室に集められ、5人それぞれに1枚の紙が配られた。『新年度特番:この国のチカラ 番組概要』一番上にそう書かれ、その下には細かい文字で色々と書かれていた。『出演者(予定):司会・蛮夏 インタビュアー・那須大地、氷河岸久美 各地のインタビューを受ける人・………』
職員室を出て、田沢湖達は話し合った。
「那須大地って、あの那須大地だよな…。」
「超大物ですよね、今となっては。」
「氷河岸アナって、例の美人で有名な…。」
「蛮夏!蛮夏に会えるかもよぉ!!」
紀友がなぜか興奮している。
「いや、無理だって。『収録は各地で行われる』て書いてんじゃん。」
「うぅ…せっかくのチャンス…。」
(何のチャンスだよ…。)
「『詳細はまた後日』か…。僕、出れるかな…。」
「何かあるんですか?」
「いや、叔父さんの法事と重なるかもしれないんだ…。」
「じゃあ田沢湖さん、来れないんですか…。」
夢々子が残念そうに言う。
「大丈夫だって。出来るだけこっち優先するから。多分。」
「多分ですか…。」
教室に戻ると、何故かクラスメート達に包囲された。
「お前、やっぱ地震の時一緒に閉じ込められた後輩達と何かあったろ?」
「は、はい!?」
「職員室の前で何いかがわしいことしてんだ?」
「い、いかがわしい!?何もしてねぇぞ僕?」
「大衆の前で堂々とハーレム自慢とは…!!」
「は、は、はは、ハーレム!?んな訳ないだろ…。」
(実際そんな状況なんだけどな…。)
「よーし、そんなに否定するなら、何をしていたのか正直に言ってもらおう。」
包囲網のリーダー格の1人がやけにドヤ顔で言う。
「いや言えないようなことしてないんだけど…その、地震の時一緒に閉じ込められた5人でテレビに出演しないかという誘いが来てまして…」
「「「て、テレビ!?」」」
「放送いつ?てかどこの局?」
「再現ドラマ?それともただの取材?」
「再現ドラマなら田沢湖の役俺にくれ!」
「いや、インタビューだって。まだ詳しいことはよく分かんないけど…。」
「なんだよインタビューか…。」
「だとしても田沢湖の役俺にくれ!」
「つか田沢湖テレビ出れるとかすごいじゃん!」
「日時とか決まったら教えてね!」
「はいはい。」
その日、日村先生に卓球部員が集められた。練習は、2月から理科室前の廊下を借りて始めるとのことだった。卓球台の調達が3学期に間に合わず、仕方なくそうなったとのことだった。自主練を出来るだけするように、とも言われた。
その日、家に帰って考えた。(やっと、部活ができる!!にしても、なんでクラスメートの男子はあんなに僕と後輩との話にのめり込んでくるんだ?)疑問への結論は出なかったので、とりあえず寝た。