入院生活~最初の日曜日~
意識が戻ってから最初の日曜日。母親が持ってきた1週間分の新聞を全て読み終え、だいたいの状況を理解した。
まず、盆祭小学校が倒壊したことも含め、太刀田市内の全ての公立学校で何らかの被害が出たこと。獣山山の麓の集落が土砂崩れで押し流され、その集落丸々1つが壊滅し、未だに行方不明者がいること。春畑市にある港から500m離れている火力発電所が地震で制御不能に陥り、大爆発したこと。さらにそれで飛んできた大きなガレキが港の敷地内に建つポートタワーに直撃し、その影響もあってポートタワーが倒壊したこと。火力発電所でもポートタワーでも多数の死傷者・行方不明者が出ていること。隣県の菊山県では、戦後に港町として発展した近浦市のビルの大半が崩れ、死傷者が相当な数出たこと。その原因が戦後の急激な発展により市内ほとんどのビルが同じ時期に建てられていて、そして今同じ時期に老朽化を迎えていた事であること。
さらに、余震の時に発生した津波。最大で5mという高さで、海沿いをざっくりと洗い流していったらしい。だが、大概の人は避難所にいたので津波による直接の死者は約100名ということだった。こうして今現在、死者は10075人、行方不明者が2457人ということだった。
思ったよりもひどい被害に、僕はただただ驚いていた。しかも、5日ぶりの救出ということもあってか、僕達が助け出されたシーンはかなり大々的に取り上げられていた。誠に恐縮である。
日曜日で基本休日なのだが、父母共に地震で被害を受けた職場の復旧を手伝いに行っていて、朝しか来なかった。はっきり言ってたまに来る看護婦さんしか話し相手がいないのは寂しい。そうだ、見夜の所に行ってみようかな。けど…あんだけ悲しませといて、どんな面下げて会えばいいんだよ?でもな…いずれ会わないといけないんだし、早いうちに行っちゃうか。よし、行こう。
リハビリを終えてから、看護婦さんに見夜の部屋を教えてもらって僕はその部屋へ急いだ。うわ、車イスって片手に力入りすぎると運転しづらいな。
「…見夜?」
「…田沢湖さんですか!?意識戻ったんですね!良かったぁ……。あ、入っていいですよ。」
僕はカーテンを開けて見夜のベッドに近づく。するといきなり、見夜が僕の方に向き直って抱きついてきた。
「えっ、ちょ…。」
「少しだけ、私の気持ちを預けさせて下さい。」
僕の胸元に見夜の顔がぴたりとくっつく。僕もさりげなく髪を、背中を撫でる。多分、見夜は泣いている。
「ずっとずっと不安だったんですよ…。夜寝るのが怖くて…。次の日に起きたら、いないんじゃないかとかって考えちゃって…ほんとに、ほんとにほんとに…生きててくれてよかったです。」
「ありがとう、見夜。」
「私はずっと、田沢湖さんの側にいたいけど…田沢湖さん、私が側にいても…いいですか?」
「あのさ、見夜。僕は、さえりと付き合ってる。けれど、見夜がもし、それでも僕でいいなら…」
「田沢湖さんじゃなきゃ、私を全て預けられる人はいません。私は、田沢湖さんにさえりさんがいるんだとしても、気にしませんよ。」
「なら…いいよ。」
うふ、と笑って見夜は僕の体から離れた。すんげえ心臓がバクバクいってるんですが。
「ところでさ、左足どうだった?」
「折れてましたよもちろん。けど、ちゃんとリハビリすれば10日で出れると言われました。」
10日というと…あれ、いつだ?意識回復して以来、日付感覚が狂っている。
「そうか、じゃあ、もうちょいだね。」
「田沢湖さんは…ケガの具合、どうだったんですか?」
「退院できるのは2、3週間後って言われたよ。脇腹は結構傷深かったみたいで、相当縫われたよ。右腕の骨は真っ二つになってたからボルト埋めて固定された。火傷は人工皮膚っていうのを貼られたね。ほら、ここらへんだけ肌の色違うでしょ。」
「うわ…痛々しいですね。」
「自分で見てても嫌になるよ。」
「動かせるんですか?」
「一応ね。まだリハビリ中だから、うまくは動かせないけどね。」
誰かがカーテンを開けた。看護婦さんが顔を出す。
「田沢湖さん、来客です。病室で待たせています。」
「あ、はい。すぐ行きます。」
「誰か来たんですか?」
「らしいね。じゃあね。」
「さようなら。」
引き戸を開けると、じいちゃんとばあちゃんがいた。
「おう。意識戻ったって聞いだがら、急いで来たど。」
「もう大丈夫。ちゃんと手術も受けたから。」
「全国ニュースで行方不明なんて言われて、救出の時も意識不明で見つかりましたなんて言われて、もう寿命縮まるかと思ってよぉ…。」
「今こうやって生きてるんだから、安心して。」
このあとも色々話してから、20分後くらいに2人は帰っていった。
見夜が無事だってことも確認できたし、じいちゃんばあちゃんとも久しぶりに話せたし、なんとなく楽しい1日だったなぁ。