閉じ込められて~4日目~
次の日、なんとか目が覚めた。火傷した右手に血がまとわりついているのがわかる。…頭が回らない。今はまず何をすべきだろう…。飯食うか、とりあえず。
「田沢湖さん、起きたんですね。ツナ缶、食べますか?」
見夜が缶詰を差し出してくる。
「…あぁ、うん。…いただきます。」
にしても、死にかけに相応しい夢だったな昨夜の夢は。あぁ怖ぇ。あの世が見えかけるってこういう事か。
「私、結構早い時間に目覚めちゃったんですけど、夜うなされてませんでした?」
「…あぁ、やっぱり?ちょっと…悪い夢見てね…。僕、ちょっとヤバイかも知れないんだ…。」
「…え?」
「昨日の夜、リアルに具合悪くなったんだよ。夜中に血はたくさん出るし、しかも…あの世っぽい所も見えちまった。」
「そんな…嘘は…やめてくださいよ…。冗談言ってんですよね?」
「脅すようなこと言って悪いな。けど…事実なんだ…。あの世っぽい所ではご丁寧に、心筋梗塞で死んだ叔父さんまでお出迎えに来てたよ。もちろん、行く気はないって答えた…はずだけどね…。」
「なら死なないでくださいよ!田沢湖さんが死んじゃったら、誰が部を守るんですか!私の想いは…想いは…どうなるんですか…。ずっとずっと好きだったんですよ…優しい田沢湖さんが…。弱っちい私を守ってくれた田沢湖さんが…。最終的にケガさせちゃったし…。その償いをこれからしようと思ったのに!死んじゃうなんて、そんなひどいこと何で言えるんですか!!」
泣き崩れる見夜を見ながら、僕は考える。自分の体は確実に限界に近づいている。けど、皆の想いは誰しも一緒だった(唯一、紀友の口からは直接聞いては無いけど)。僕は、死んじゃいけないんだ。けど、この状況で…どうやって生きればいいんだろう…。
「必ず、生きるから…。だから…今は…弱音吐いても許してくれないか…。」
「田沢湖さん…。」
なんとなく、紀友もみいさも夢々子も僕を見ていた気がした。
こんなときに、なぜか曲が脳裏をよぎる。『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』か…。守らなきゃいけない人を傷つけてばっかりじゃねぇかよ僕は…。その傷の分、自分で償わないとな…。やっぱ生きないとね…。あぁ、瞼が重い。もうちょい寝るか…。
機械の音がする。轟音がすごい。グギィーーー、グォォン。なんだこの音は…。聴覚だけが眠りから覚醒したようだ。
「…沢湖さん。田沢湖さん…!起きてください!」
夢々子の声が弾けている。
「ん…?」
やっと視覚も覚醒してきた。
「助けが来ましたよ…!!」
「…はい?」
「紀友が言ってたんですよ!すんごい大きいクレーン車が2、3台来て、何か準備始めてるって…!」
「待て、本当か?」
思わず声が高ぶる。ぐっ…!!!痛たたた…。
「紀友が言ってんだから本当ですよ!!」
「…とりあえず、テレビつけてみて。何かそれに関わる情報を流してるかも知れない。」
そして、テレビをつける。
「…あれ?臨時ニュースが終わってる…?」
そうか。もう毎日やる程の扱いでも無くなったのか。
「…あれ、今何時だっけ?」
「午後4時ちょい過ぎです。」
「じゃあ、6時なったらもう1回つけよう。」
「わかりました。」
午後6時。またテレビをつける。テレビが見えない人も、耳を澄まして聞いている(だが、音量を最大にしてもクレーンの轟音が邪魔してギリギリ声が聞こえるかどうか位だったが)。おい、クレーンうるせぇぞ。「速報です。中学生5人が閉じ込められた春畑県太刀田市の夏浜中学校で、中学生らの救出作業の準備が始まりました。非常に大きなガレキがあり、大型クレーン車など計5台による大規模な救出作業となります。昨日昼の余震の影響で作業開始が1日ほど遅れており、その余震による被害の拡大が懸念されていて、本格的な作業はさらに遅れると予想されています。また周囲は一時大規模な火災に見舞われたという情報があり、5人の安否が不安視されています。」
「もしかして、今手間取ってるの?」
「たぶんね…。」
「あれ、田沢湖さん?」
「田沢…湖さん?あれ、田沢湖さん、田沢湖さん!!」
………………
外が大きなライトで照らされていて、夜じゃないようだ。あれ、てか僕寝てた?
「田沢湖さん!!目覚めたんですか…。良かった…!」
見夜が目の前にいた。
「おぅ…。ん…悪ぃ、今何時だ?」
「夢々子ちゃん、今何時?」
「10時10分ジャスト。」
「だそうです。て、あれ、田沢湖さん?田沢湖さん…?」
「ん、あ、ご、ごめん。」
たまに意識が薄らぐんだが、これってマズイのか?
「明日にはここ出れるかな…。」
「そうだといいですね。」
上空でヘリコプターが旋回している音がする。眠くないのに、また眠りそうになった。瞼がすーっと下りる。明日も目覚めるよね、多分。