閉じ込められて~3日目・夜~
僕達は、1時間くらい途方に暮れていた。そういえば食料はどこにいった?
「ねぇ、食料どこかにあるか?」
「あ、私の周りに結構散らばってます。」
見夜が答える。
「何個くらい?」
「1、2、……8個あります。」
「OK。それくらいあれば2日は余裕か…。」
ちなみに大量にあったマンゴーのシロップ漬けは僕の目の前に散乱している。はっきり言って臭い。食欲が失せるほどの甘ったるい激臭である。
「ところで、たくさんあったマンゴーのシロップ漬けはどこに?」
夢々子が聞いてくる。
「僕の目の前に散乱してるよ…。」
「見夜ちゃん、缶詰の種類は?」
「えーと、サバの味噌煮が3つ、ツナ缶が2つ、あとは…豚の角煮かな?」
「…なんとかなるね。」
「というか、なんとかしないと。」
「味濃いのばっかりじゃぁん…。白ご飯も欲しいぃ…。」
紀友が子供のように言う。
「だな。…まともな飯何日くらい食ってないんだろ…。」
「しばらく食べてませんね。」
この後も、皆で色々話していた。僕は普通に会話していたが、目と鼻の先にあるマンゴーの塊が非常に気になっていた。そして、ついに我慢できなくなった。ガレキの隙間でギリギリ動かせる左手を使って鼻先のマンゴーを取り除く。ついでに少し先にあるマンゴーにも手を伸ばした。が…
「ぐ、ぐぁっ、あぁぁぁっっっっっっ………!!!!!」
「田沢湖さん!?」
みいさが真っ先に反応した。
「ど、どうしたんですか?」
「田沢湖さん、血が!!」
見夜が悲鳴に近い声を上げる。くぁっ、あぁぁっっ…痛ぇ、痛すぎる…。脇腹を、生ぬるい液体がじんわり流れ下るのがわかる。そうか、さっきここに落ちてきた時に脇腹の内部が冷たく感じたのは、鉄骨が刺さってたのか…。確かに、刺すような痛みがその時あった気がしないでもない。
「見夜、そこから僕の脇腹のあたり、見えるのか?」
「はい…。」
「こんなこと聞くのも酷いかも知れないが…どうなってる?」
しばらくの沈黙。見夜の答えが返ってくる。
「その…真っ赤です。脇腹のあたりに少しだけ隙間があって、そこから鉄骨みたいなのが出てて、突き刺さってます…。とにかく、血がすごいです。」
「そう、か…。」
やべぇ、なんだよこの痛みは…。右腕まで痛くなってきたし。そんなに血が出てんのか…。こんな所で野垂れ死んでらんないんだけどな…。
痛みに耐えていると、いつの間にか夜になった。見夜からツナ缶をもらい少しずつ食べていた。そう言えば津波来たのかな…。親戚とか全員海沿いなんだけど…。
ガレキの間から雪が舞い降りてきた。ジャンパーは着ているものの、すごく肌寒い。見夜の寝顔が目の前にある。なんだか、ドキッとする。だって、目開けたら目の前に美しい寝顔って…どんなシチュエーションだよ。最高すぎる…て、今そんな状況じゃ無いだろ。
「あれ、起きてたんですか。」
夢々子が起きていた。頭の中で色々と考えていたので、結構慌てた。
「ぇあ、あぁ、あ、うん…。」
「目の前に寝顔あるって、めっちゃドキドキしますよね。」
「えぇ!?」
あ痛ってぇぇ…。少し声を上げただけで脇腹が痛む…。てか、う心の中見透かされてる!?
「やっぱり田沢湖さんも思春期なんですね。」
「…はは。ここまで核心突かれたら隠してもしょうがないな。」
「見夜ちゃんのこと、どう思いますか?」
「はい!?」
また痛ぇっ!なんてストレートな質問だ…。
「なんか、かわいいとか美しいとか…思ってません?」
「うん…。皆寝てるしぶっちゃけちゃうけど、僕のタイプがそのまんま3D化した感じなんだよね、外見は。」
「見夜ちゃん聞いたら喜びますよ。」
「だろうね、知ってる。僕も一応『勘』ってものがあるから。けど…まぁ、性格は普通だと思うよ。…あ、一応言っとく。恋愛感情は持ってないよ。」
「そうなんですか。確かに、見夜ちゃん胸は大きい方だしいい香りするし男子にはモテるかも知れませんね。」
この時、夢々子は田沢湖を試した。果たしてそういう目で女子を見ているのかどうかを確かめるために。
「別にそういう所は見てないよ。オマケでついてきただけだよそれは。」
「本当ですか?」
「…絶対一切見ないかと聞かれれば、答え方には迷うけど…。」
「そうですか…。」
(私にチャンスは無いのかな…。あ、そう言えばしばらく聞き忘れてたけどさえりさんとはどういう関係なんだろ。この際、全部聞いちゃうか。)
「あの、そう言えば、さえりさんと…付き合ってるんですか?」
「えぇぇぇぇ!?」
なんで夢々子が知ってるの!?
「いや、その…見たんですよ。遅火沢川の土手を2人で歩いてたの。5月…でしたよね?」
「うん。僕はさえりと付き合ってる。今でも好きだよ。」
「そうなんですか。けど、タイプと正反対じゃないですか?」
「結局男子さ…自分を求めてくれる、自分を認めてくれる人間を好きになるんじゃないの?タイプってのは、ただ理想としてあるってだけで。」
「まぁ、そうですね…。あの、じゃあ、ひとつだけ覚えておいて欲しいんです。」
「なに?」
だいたいは想像がついているよ、夢々子が言いたいことは。
「私は、田沢湖さんのことが好きでした。ずっとずっと、初めて会った時から。さえりさんが好きなんだとしても、私の想いも覚えておいて欲しいんです。これを…ずっと伝えたかった…。こんなタイミングで告白しちゃって、すいません…。」
「…ほんとね、このタイミングで…。今の言葉が僕に対する最後の言葉になるかも知れないってのに…。」
「な、何言ってんですか!ここで死んだらただの史上最悪の男じゃないですか!!」
「ごめん、ちょっと弱音が出てしまった…。うん、絶対に覚えておくよ、その言葉は。」
実際、自分の中に死の恐怖が明確に出てきていた。寝たら、そのまま逝ってしまいそうだった。痛みにも慣れてしまったのやら、あまり痛くなくなってきた。やばい、会話するのもつらくなってきた。あぁ…
「ごめん、リアルに具合悪くなってきた…。今日はもう、寝るよ…。」
「…おやすみなさい。」
夢々子の想いを受け止め、僕はゆっくり目を閉じた。明日、目が覚めればいいな…。また雪が見たいな…。また卓球を楽しくできる日が来ればいいな…。あぁ…。




