閉じ込められて~3日目・昼~
閉じ込められて3日目になった。はっきり言って、助けが来る気配は無い。龍山先生の携帯の周りに全員で集まって、久しぶりにワンセグで情報収集。「…全半壊世帯が4万世帯以上となっており、また孤立が解消されていない地域が複数あり、被害の全容は未だに把握しきれておりません。また、太刀田市夏浜地区の夏浜中学校では生徒4、5名が倒壊した体育館に閉じ込められているという情報があり、…」
「この4、5名って、私達だよね…。」
見夜が驚いた顔で言う。
「まさか全国ニュースになるとはね…。僕も迷惑かけちゃったな…。」
「他人にかけちゃった迷惑心配するより、自分のケガの心配しましょうよ…。」
夢々子に言われてしまった。
「倒壊した体育館に、なんて言われちゃったらほとんど希望が無いみたいに聞こえるじゃん。だから、ちょっと、ね…。」
全員が顔を見合わせる。実際今は生きている。食料もまだある。けど、助けに来る気配が一切無い。何が起きてどうなるか分からず、不安なのだろう。テレビのニュースキャスターは、空気を読まずに不安をあおるような事ばかり言う。「…死者は確認された限りで1056人となり、行方不明者が25600人、負傷者は3万人を越えており、被災地の医療機関はパニック状態となっています。現地では必死のガレキ撤去作業と共に行方不明者捜索が行われております。…今新しいニュースが入りました。」皆の視線が小さな画面に集める。「太刀田市夏浜地区につながる国道7号線と県道33号線の崩落した橋の急ピッチで行われていた復旧作業が今朝完了し、通行可能になったということです。これにより、夏浜地区の孤立が解消し、地震により孤立した地区はなくなりました。繰り返します、…」
「…よし。」
僕が一言つぶやく。
「やったよー!!」
みいさと見夜が抱き合って喜ぶ。夢々子と紀友も、笑って喜びあっている。僕も、なんとかここまで4人を守りきれて良かった、と思いながら笑っていた。もしかしたら泣いていたかも知れない。
「良かったですね、田沢湖さん。」
見夜が話しかけてくる。
「これで、皆助かる可能性が上がったよ。ほんとに、ほんとに良かった…。」
やべ、リアルに泣いてしまった。後輩4人の前でお恥ずかしい。
昼を過ぎた。喜んでいた僕達を、あの嫌な音がどん底まで叩き落とす。
龍山先生の携帯が、また不快な音を鳴らす。
「ブワっ、ブワっ、ブワっ、…」
全員の顔から血の気が引く。僕が急いで携帯を開く。
「春畑県沖…!」
ごぉぉ、という地鳴りが一層強くなる。小さな横揺れが、やがて大きな横揺れになる。
「早く、台の下に!!」
僕は叫ぶ。揺れにバランスを崩されながらも、4人ともちゃんと隠れられた。横揺れが一層強くなり、縦揺れも混じってきた。その時…足元が轟音と共にストンと抜けた。目の前の台が上に飛んだ。正確に言えば、僕が落ちたのだが。衝撃が腰に走る。上から台が降ってきた。うつ伏せになって這って避けようとした。が…。
轟音。脇腹の表面は生ぬるいが、内部が冷たい。一応、頭の方には動くことができる空間があった。足の方は、ガレキが積み重なってほとんど動かせない。動かそうとすると、痛い。多分足の骨も折れている。
「皆、大丈夫か…?」
試しに聞いてみる。目の前には台の脚がある。
「皆大丈夫ですよ。」
夢々子の声が聞こえる。砂ぼこりで視界はほぼ0である。
「皆、どこにいる?」
「私は台の脚の近くです。ケガはしてないと思いますけど、ちょっと背中打ったみたいです。」
夢々子の声がする。
「私は台の上に乗っかってます。ガレキのすき間にすっぽりはまってる感じです。ケガはしてません。」
紀友も無事だ。
「私は台の真下です。ケガとかは特に無いですけど、台が崩れそうで怖いです。」
みいさが答える。ん?見夜の声が聞こえない。
「見夜?見夜…どこにいる?」
しばらくして、「痛ったぁ…。」という声が至近距離から聞こえる。
「見夜?だ、大丈夫か?」
「なんか、背中まで強く打っちゃって…仰向けです今。なんか、多分田沢湖さんの近くにいると思います。」
砂ぼこりが落ち着くと、目の前に見夜の顔があった。轟音で壊れそうだった耳を澄ますと、大津波警報のサイレンが聞こえる。
「誰か、近くに龍山先生の携帯落ちてる人いないか?」
「あ、はい。私の側にあります。」
夢々子が言う。
「ちょっと、テレビをつけて。やり方分かる?」
「はい。今つけます。」
画面は見えないが、音声が聞こえる。「…春畑県沿岸、菊山県沿岸全域に大津波警報、その他にもご覧の地域に津波警報、津波注意報が発令されています。すぐに高台へ避難してください。先程の地震のマグニチュードは7.5、太刀田市では震度6強を記録しています。大きな余震は今後も続く恐れがあります。充分に警戒してください。津波の情報に移ります。…」
「…こいつはまずい…。」
「どうしてですか?」
「津波警報が出ている間は、川沿いに容易に近づけない。残念ながら、夏浜中の校舎は遅火沢川に近い。たぶん、助けに来るのもだいぶ遅れると思う。それにあの揺れだったし、津波まで来たらまた孤立してしまう可能性もある。」
「私達、どうすれば…。」
見夜が途方に暮れた声で言う。僕にも分からない。ほんとに、どうすればいいんだろ…。




