振替休日
夏中祭が終わった。土日フル登校だったので月火は振替休日である。田沢湖は、チャリでふらふらと住宅街の中の路地を散策していた。
どれほどこぎ進んだか知らないが、住宅街の外れまで来ていた。(戻るか…。…!!)田沢湖の視線は、1点に集まる。(な、な、…この低燃費主義の時代に、大口径マフラーとGTウイングをひっさげたFD RX-7に出会えるとは…!こんな閑静な住宅街に、爆音を轟かせ滑り込むFD…!!体が痺れるようだ…。)
なんだかとてもテンションが上がったので、久しぶりに海沿いの国道までチャリをこいでいった。潮の香りが心地よい。
低めの防音壁に腰掛け、横にしばらく広がっている砂浜を眺めていると、聞き覚えのある声から話しかけられた。みいさと見夜だった。
「あれ、なんで田沢湖さんこんなとこにいるんですか?」
「いや、家いても暇だしどっか出掛けようかな、て思って。ここまで来た。」
「あれ、じゃあもしかしてこれから暇ですか?」
みいさが尋ねてくる。
「あぁ…うん、そうだね。」
(ほんとは帰ってからMAN WITH A MISSIONの新曲聞こうと思ってたけど…。)
「だったら…家…行っても…いいです…か?」
最後の方の声が小さくなって聞き取れず、聞き返す田沢湖。
「これから2人でどこか行こうか、て言ってたんで、田沢湖さんの家行っていいですか?」
「うん…って、えぇ!?」
(待て、僕の家に女子2人あげるだと!??)
「あれ、まずいですか?」
(まずい事有りすぎだよ色々と!男子10人位まとめて家に入れた事はあるけど、女子2人…!?誰かに見られたらどうするの…??)
「田沢湖さん、どうしました?」
見夜が不思議そうに聞いてくる。
「え、あ、いや、別に。うん、来ていいよ。」
(言っちゃったよ!来ていいって言っちゃったよ!!)
こうして、田沢湖は家に女子2人をあげるという事態になった。
「うーわぁ、すごい部屋。」
みいさがそう言うと、見夜も、
「すんごいですね、色々。」
田沢湖の部屋は、壁一面にラリーカーのポスターが張られており、ベッドの下の空間にはラノベがぎっしり詰まっている。CD立てにはB'z、BOOWY、高橋優、クリープハイプ、MAN WITH A MISSIONなどなど、大量のCDが挟まっている。さらに、事故現場などによく落ちているひび割れたホイールキャップがずらっと並んでいる。
「そう言えば、田沢湖さん…好きな人って…いますか?」
見夜が唐突にそんなことを聞いてくるので、田沢湖は持っていたCDを取り落としてしまった。
「え!?い、いないよ。」
(表面上は、な…。)
「あの、けど、」
みいさが、不安そうな目で聞いてくる。
「紀友ちゃんから聞いたんですけど、あの合唱のときの伴奏の人いたじゃないですか。あの人のこと、田沢湖さん好きなんじゃないか、ていう話。本当…ですか?」
(あ、魅穂のほうか。魅穂は、その、ええと…。)
「あの人とは、そんな仲じゃないよ。ただ、なんとなく仲良いだけ。」
「そうなんですか。」
そして、2人揃って田沢湖に聞こえないような小声で「よかった…。」とつぶやいた。田沢湖は、なんとなく罪悪感を抱いていた。だって、嘘をついてしまったのだから。
帰り際、2人からメールアドレスを教えてくださいとお願いされた。田沢湖はもちろん快諾して、自分のを教えた。(アドレス帳はこれで3人目か。そうだ、文化祭も新人戦も終わったし、さえりに久しぶりにメールするか…。)
さえりからの返信は、10分後位にきた。
{文化祭、夏中でやりたかった!田沢湖の指揮で歌いたかったな…↓とりあえず、総ナメおめでとう!!}
田沢湖も、必ず返信する。最後に、お決まりの一言を沿えて。{いつか、戻ってこいよ!!}